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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
10-カー太ンの物語 全9羽
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10-カー太ンの物語 <マリアの予言>

 「どうやら近々大きな災害が起こるみたいなんだ。」

 「どんな?」

 「大地が揺れるそうだ。」

 「地震ということ?」

 「だろうね。」

そんなことを話していたら、足下に頭に3本白い羽根を生やしたカラスがピヨンピョン、トコトコと近づいて来た。

 「彼はその災害の起こりそうなところから避難して来た、この群れの長だよ。」

そのカラスは一声『カー』と鳴いてから小さく私に頭を下げた。

 「群れをもう20年以上も率いているそうだ。」

 「まって、まって、そうすると20才以上のカラス?」

 「生まれてすぐに群れを率いることはできないだろう? 年齢はもう40を越えてるんじゃないかな?」

ビックリポンだ(とっても古い)。野生のカラスでもそんなに長生きするんだ。


 「それでね、もっと北東の方では山が崩れたり、津波や大火災の被害がありそうだから逃げて来たんだって。それでね、ここの林に避難して、しばらく様子を見たいんだってさ。それでこの辺のカラスの顔役をやっているカー太ンに仁義を切っている、ということだよ。」

 カー太ンは思ったよりも偉いカラスだった。この辺の顔役らしい。でも、カー太ンの縄張りにこんなにたくさんのカラスを収容できるの?

 「これだけのカラスが滞在するのは大変ね。」

 「うん。だからカー太ンは僕に相談してるんだ。」

 「まずはエサだよねぇ。水も準備しなくちゃ。」

 「水は近所の川を使うみたい。でもエサがねえ。」

 「寝るとこは?」

 「寝床はこの林の樹の上でなんとかするらしい。幸いに巣材はたくさん落ちているそうだし。」


 「避難はいつまで?」

 「えーと、聞いてみる。」

というとブドリ君はカー太ンと避難カラスの長と相談?しだした。

 「おそらく3ヶ月くらいだそうだ。」

 「そうすると地震はこの1〜2ヶ月で来そうね。」

 「そうだね。思ったよりもすぐだな。」

私たち2人と2羽のカラスは頭を抱えた。またそんなリアクション芸をして…。


 「やっぱり問題はエサだよねえ。それと鳴き声の騒音問題。」

ブドリ君はカー太ンと何か話ししている。カー太ンが周りのカラスに『カーカーコーコー』と何か訓示している。多数のカラスがそれにコクコク頷いている。あ!1羽だけ首をフルフル振ってイヤイヤしている。まあこんだけの大集団だ、へそ曲がりもいるか。あ!周りのカラスにつつかれている。カラスにも同調圧力はあるのか…。

 「鳴き声の騒音は自粛するって、あとは食べ物か…」

 「正直、私たちだけじゃ何ともできないわ。親や大人に相談しなくちゃ。」


 昔、父が「カラスとは意思の疎通ができないから不気味に見える」と言っていた。でも、意思疎通ができたらできたなりに、…なんか腹立たしい。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 結局、ブドリ君のお母さんが廃棄前の安い肉類を購入し林に運んでくれることになった。有効なフードロス対策になりそうだ。でも、3ヶ月間はブドリ君のお小遣いが支給停止になるそうだ。村山さんとこを始め、多くの近隣のお宅が豆類や葉もの野菜、穀物などのエサを協力してくれることになった。これまでカラス達にイロイロとお世話になったお礼だそうだ。もっとも、ゴミあさりをされたらたまらないということもあるのだろう。また、警察も協力的だ。カラスが大量発生していること、人に危害を与えることはないから大丈夫だということを行政機関に知らせ手配してくれた。事情を知らないひとの通報で駆除などが始まらないようにしてくれた。これでだいたいカラス避難民の受け入れ態勢が整った。めでたしめでたし…じゃない!


 「ところで大災害へのニンゲンの対策はどうするのん?」

 「それな! この周辺はカラスが避難してくるくらいだから、問題はないと思うけど、北東の方の人へどうやって注意を喚起しようか?」

 「これも大人に丸投げ?」

 「『カラスが教えてくれた』って言っても他府県の人は信じてくれないよ。それにどのくらいの規模の地震がどこで起きるかもわからないのに。 地震予知の3要素って言ってね、場所、時間、規模がわからなきゃ予知とは言えないらしいよ。 場所も発生時期も規模も曖昧すぎる。」

 「でも、警察には言っておいた方が良いと思うの。」

 「そうだね。いつもの警察のひとに、伝えておこう。」


 これまでの捜査協力のおかげで、ブドリ君とカー太ンは警察の人に信頼されている。もちろん『オカルト枠』だ。警察の人たちは所轄や県内だけではなく、近隣県にも消防にも『マリアの予言』とかいう名称で、非公式な形で地震の予知を広めておいてくれた。避難所の備えや重機土木作業機器などそれとなく移動し、被害の拡大を防止する対策も行われているようだ。警察への非公式な捜査協力で積み重ねた実績と信用が思わぬ形で活きた。


 SNSを通じての発信は、最初、フェークニュースの際物扱いだった。しかし、警察や消防から漏れ出たうわさによる裏付けにより、『マリアの予言』は2ヶ月間にネット上でまことしやかに広まった。一般家庭でも防災の備えが呼びかけられている。最近、中規模の地震が多いのも、『マリアの予言』の信憑性を高めている。 あ、また揺れた。


 「何で『マリア』なの? 聖母マリア? ブドリ君の家ってクリスチャンなの?」

 「いや、単に『カラス』だから…。それっぽいタイトルの方が受けるなかと思って…。」

受けを狙ってどうする! そんな駄洒落はわかる人にしかわからないわよ!


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 地震は結構大きかった。家の近所は震度5弱だっだ。でも震源地の近くでは震度7のところもあった。海溝型・プレート型の地震だったため、津波も発生した。でも、行政や警察・消防による『準備されていたかのような』避難誘導により、死傷者は想定されていた3分の1で済んだ。その後の救護活動、救援活動はすごくスムーズだった。なぜか被災地の避難所に大量に備蓄されていた水や食料、防寒具やクッション類のおかげで、災害関連死もほとんど発生しなかった。そして、なぜか被災地周辺に「偶然」配備されていた、ホイルローダー、ブルドーザーやショベルカー、バックホウ、ダンプなどの重機のおかげで交通の復旧作業もスムーズだった。

 医学生だったうちの兄がカー太ンの子供(コー吉)を連れて災害ボランティアに参加した。行方不明者の捜索を行ったそうだ。


 ネット上で『マリアの予言』の検証、発信元の特定が試みられた。でも行政の災害対応ができ過ぎだったため、予言の発信元は行政そのものではないかと噂されている。ブドリ君も私も守られた。警察や行政の裏側の人たちのおかげだろう。でも、そのかわり、県の防災課の人からこっそりと「次もよろしく」とお願いされた。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 それから8年後の直下型の大地震でも事前の備えにより被害は最小限だった。しかし、それでも大きな土砂崩れにより、多くの人が生き埋めになった。その救助・捜索活動に、カラスの群れとそれを率いたティマー(!?)の青年の活躍が噂された。彼は多くの人を救助しそして遺体を発見した。このことは、震災の裏話・都市伝説となっている。


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