10-カー太ンの物語 <カラスの集会>
何事もなく、いや、結構イロイロあったんだけど。私たちは高校2年生になった。幸いに私は巻き込まれなかったけど。ブドリ君は警察とさらに仲良くなっている。『困った時のブドリ君とカー太ン』と行方不明事件や遺体捜索で重宝されているようだ。カー太ンを相棒にして、『警察のお世話をしている』ようだ。『警察のお世話になっている』のでなければ文句はない。時々、隣の府県までかり出されている。受験生なのに、ご苦労様なことで…。ナムナム。事件の話しを詳しく聞き出そうとすると、『守秘義務』ということで断られる。チェッ、ケチだなあ。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
今日もブドリ君とカー太ンが林で何か話しをしている。カー太ンの鳴き声とブドリ君の低い つぶやくような声が林の奥の方から聞こえる。声変わり後のブドリ君の低く抑えた声が最近カラスの声に似て来てないか?
「おーい! ブドリ君。」
と近づいていって、私はギョッとした。そこには何十羽、いや、もっとたくさんのカラスが集まって、ブドリ君を取り囲んでいた。ブドリ君はカラスと仲が良いから、数羽のカラスに取り囲まれて、車座で歓談しているのは何度も見たことがある。でも、こんなに多数のカラスに取り囲まれているのを見るのははじめてだ。カラスの中には少し興奮しているのか両翼を広げてバサバサと羽ばたいているのもいる。ブドリ君、何をやらかしたの?
私はその辺に落ちている長い木の枝を掴んだ。
「ブブブ、ブドリ君。助けを呼ぼうか?」
突然の闖入者の登場に百羽近いカラスが一斉に私の方をむいた。ちょっとしたホラー映画だ。
「ヒッ!」
と私は小さな悲鳴をあげる。一歩後ずさる。攻撃に備えて身構える。でも正直、怖い。
「あ!ミヤサワさん。コンニチは。」
ブドリ君は何かのんびりした口調だ。危機難も緊張感もない。
「襲われていた?…わけじゃないのよね?」
「誰に?」
どうもカラスに襲われていたわけではなさそうだ。まぬけな返事が帰って来た。
「そのカラスの大群に。」
「そんなわけないじゃん。お話ししていただけだよ。」
なんだ、びっくりしてブドリ君を助けようとした私が何かバカみたいじゃないの。気のせいだろうか、カラス達も苦笑しているようだ。100羽近いカラスは『ククク』と含み笑いをしている。中には上を向いて呵々笑っているやつもいる。恥ずかしいし何か悔しい。たかが鳥のくせに万物の霊長の人間様を笑い者にするのか? 100万年早いわ。
私は恥ずかしさを咳払いでごまかして、ブドリ君に問うた。
「車座になって、何の集会? 内緒話? には見えないよね?」
突然、私の肩に1羽のカラスが飛び乗って来た。
「きゃっ!ってカー太ン? 脅かさないでよね。」
私の悲鳴が面白かったのか、カラス達が一斉に『カカカ』と笑い始めた。ミヤサワ君まで苦笑している。カー太ンはミヤサワ君の肩に跳び移り、その肩の上で両翼を器用に折りたたみその先を水平に広げ、まるで肩を顰めて手のひらを上にかざしているかのようにして、ややうつむいて首を左右に振った。アメリカ人がヤレヤレとする時のジェスチャーそのものだ。何よそのリアクション芸は! 鳥がそんなジェスチャーをするのはアメリカのアニメでしか見たことがないわょ。世界動物ビックリ大賞をとれるわ。
「ミヤサワ君…あなたカー太ンに何というオモシロ・リアクション芸を教えているの?」
私は低く脅かすような声でミヤサワ君を問いつめた。ミヤサワ君は座ったまま両手のひらを私に向けて上半身を後ろに引き、引きつった顔で抗弁した。
「い、いやあ、何も教えていないよ。僕のジェスチャーを見て憶えたみたい。」
「そんなにしょっちゅう、そんなジェスチャーをしているの?」
「一回だけだよ。一回だけ。 5年くらい前の林の窪地で子供が倒れているのを見つけた直前に、美知子さんの『プリンセス・ムーブ』を見て僕があきれたときだけ。」
「アンタ達、あんな昔のことをまだ憶えているの? いいかげんに忘れなさいよ! …私は忘れていたのに。」
私はさらに恥ずかしさに耳まで赤くなった。話をすり替えよう。
「で、何の密談? 悪巧み?」
逆ギレしてしまった。ブドリ君はカー太ンの方をむいてなにかごしょごしょ話している。それを聞いてカー太ンはコクコクと頷いている。
「皆もこの人に話しても良いかな?」
カラス達が一斉にコクコクと頷いた。あ〜あ、こんなにたくさんのカラスに私までお仲間認定されちゃった…。
「ミヤサワさん、これから話すことはしばらく内緒にしておいてね。」
「なによ…いつものことじゃない。」
「どうやら近々大きな災害が起こるみたいなんだ。」




