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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
第1部 ミヤサワ君の物語 01-お地蔵さん(あらすじに代えて)全5話.
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01-お地蔵さん(あらすじに代えて)<赤い風船の男の子>

 「あれぇ? ボク、空を飛んでいるの!?」

ボクは空を飛んでいた。右手にはさっき空に飛ばしてしまった赤い風船につながった紐を握っている。

 「よかったぁ。ボク、風船を捕まえれたんだ。」


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 そう、ほんの数分前、ボクは赤い風船のひもを手放してしまった。

 おかあさんにおねだりして買ってもらった赤い風船を右手にもって、お母さんと手をつないで、ニコニコと笑いながら歌いながら、ボクは公園の小径を歩いていた。

 そのとき、イタズラな強い風が吹いた。風船は強い風にあおられ、ボクは風船の紐を手放してしまったんだ。


 「待って!待って!」

ボクは思わずおかあさんの手を振りほどき、風船をおいかけて走り出した。

 「タックン?待って。」

おかあさんの声が後ろから聞こえる。でもボクは風船を捕まえなくっちゃ。無我夢中で公園の小径をかけた。公園の門から国道に飛び出したところからよくわからない…。

 「キャァー! タックン!!!」

おかあさんの叫び声が後ろから聞こえたような気がした。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 気がついたら僕は飛ばしてしまった赤い風船のひもを握りしめ、空を飛んでいた。

  

 風船とボクは風に流されフワフワと空を散歩した。空は青かった。そこを白い雲といっしょに赤い風船とフワフワと散歩した。

 風船とボクは空を高くあがっていく。街がだんだん遠くなる。遠くで救急車のサイレンが聞こえる。ボクは空の散歩を楽しんだ。


 でも、楽しいことはすぐに終わってしまう。夕焼け空に赤い風船がとけ込んでしまう頃、風船はだんだんしぼみ、ボクの空の散歩は終わってしまった。


 「…ここはどこだろう?」

 ボクは知らない夕暮れの街にいた。

 手に持った赤い風船はかろうじてまだ浮いている。ボワボワとして頼りない。ボクは風船に聞いた。

 「お家はどっちかな?」

 風船は申し訳なさそうにコテンと首をかしげるように揺れるだけだった。


 ボクはだんだん不安になった。

 「おうちに帰らなきゃ。」

 でもお家がどっちか分からない。

 「あ〜あ、空の散歩なんかしなきゃ良かった.おかあさん心配しているだろうなぁ。」

 だんだん暗くなってくると、だんだん心細くなってくる。声が泣き声っぽくなってくる。でもここで泣いたら負けのような気がする。それでも、涙があふれて来た。耐えきれなくなってボクは大きな声で泣き出してしまった。


 その声を聞いて、どこかから白い髭の緑のとんがり帽子をかぶった小さな透けているおじいさんが声をかけて来た。絵本で読んだ『小さなおじいさん』かな?

 「どうしたの? ボク。」

 「迷子になっちゃったの。ヒック! おうちに帰れないの。ボクのお家はどっちなの?」

 「どっちから来たの?」

 「わからない。」

寂しくて、心細くて、不安で、ボクは涙をぽろぽろ流した。

 緑のとんがり帽子のおじいさんは、そんなボクの前でしゃがみ込み、頭をよしよしと撫でて慰めてくれた。抱きしめられると、不安な心が少し落ち着いた。

 「暗い道を歩き回るともっと迷子になって危ないし、黒くなってしまうから、おじいさんといっしょにおいで。」

 ボクは風船のひもを持っていない方の手でおじいさんの手を握り、おじいさんのうちへ並んで歩いて行った。

 おじいさんのお家は…お家ではなく、お地蔵様の祠だった。その祠の前の石段にはピンクのスカーフをショールにした小さなおばあさんが座っていた。


 「あらまあ。…間にあっみたいですね。」

 「ああ、まだ悲しみや苦しみに呑まれて黒くなっていない。大丈夫だ。なんとかお家に帰らせるさ。」

 ボクはおじいさんとおばあさんの間に腰掛けた。おなかはすいていなかった。寒くもなかった。ニコニコとしているおじいさんとおばあさんの間に座っているとなぜか安心して、ボクはいつのまにか眠ってしまっていた。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 翌朝、ボクは差し込むお日様の光で目を覚ました。いつのまにかおばあさんの膝枕で寝ていた。なんか、少し恥ずかしい。照れ隠しに、

 「あれ?おじいさんは?」

とボクが尋ねると、おばあさんはニコニコしながら

 「ボクのお家を探しにいってるのよ。今日はお家に帰りましょうね。」

と答えてくれた。しばらくしておじいさんが祠に帰って来た。


 「さあ、ボク? ボクのお母さんのところに帰ろうか。」

と、おじいさんが促し、

 「もう道に飛び出しちゃだめよ。」

と、おばあさんがやさしく微笑んで言った。

 「じゃあ、行ってくるよ。午後には帰る。」

といって、おじいさんはボクと手をつないで、石段から「どっこいしょ」と腰をあげた。おばあさんが小さく手を振って「バイバイ」と言っていた。ボクもおばあさんに「バイバイ」と手を振った。


 おじいさんはボクをお家ではなく、大きな病院へつれて来た。ボクが首をかしげていると、

 「お母さんもお父さんもここにいるよ。」

と、おじいさんはそう言った。

 「いいかい、ボク。…これから痛いことやや苦しいこや辛いことがいっぱいあるけど、負けちゃだめだよ。命を手放しちゃダメだよ。生きているだけで儲けもんなんだよ。何があっても生きる努力を続けるんだ…といってもまだ今はわからないかな?」

 「う〜ん、良くわからない???」

 「そうだね。でもボクが生きていれば、おかあさんもおとうさんも嬉しいんだ。がんばるんだよ。」

 ボクは風船をもって病院の中のおかあさんのところへかけて行こうとした。

 「あっ! ちょっと待って。」

おじいさんが呼び止めた。

 「その赤い風船はおいて行こうね。」

 「どうして?」

 「風船は空に帰りたがるものだ。離してあげようね。」

 「…うん。」

ボクは赤い風船のヒモを離した。風船はひとりでふらふらと空に向かって飛んで行った。


 「おじいさん、ありがとう。またね。」

おじいさんはなぜか泣きそうな顔で笑いながら手を振っていた。

 ボクはボクとおかあさんとおとうさんのいる病室へかけて行った。


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