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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
04-理恵子さんの物語 全8話
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04-理恵子さんの物語 <プロポーズ>

 理恵子サンは大学で栄養学を専攻し卒業後、管理栄養士の資格を活かして昨年から地元の調理師専門学校に就職し栄養学の講師をしている。当初、理恵子さんは、自分のことを『真理子お姉ちゃんの代用品』と思い込んでいた。僕が真理子さんとは単なる友達で、いや友達未満のオタ友だと強弁しても、なかなか理解してくれなかった。その誤解を解くのに時間と労力を必要とした。数ヶ月掛けてやっとプロポーズにこぎ着けた。


 お見合いから4ヶ月ほど経ち、そろそろ決め所を決めなければならない。このままずるずると行くと、また疎遠になって自然消滅してしまう。未練だけが残る。それは嫌だ。水田の両親も、ミヤサワの両親も、『そろそろプロポーズしろ』と無言の圧力を掛けてくる。すでにお見合いの時に彼女の結婚の意思、というか『絞るぞ宣言』、あるいは『実験動物として飼ってやる』的なコメントはいただいている。でもひとつのけじめのイベントとしてプロポーズは必要だ。僕は彼女と地元の宝飾店で0.25ctの小さな高品質ダイヤモンドのついた指輪を購入し、その日に備えた。どうせ出来レースだ、婚約指輪は彼女のセンスで彼女の好みの品物を選ぶことにした。サプライズにできなかったことに後悔は無い。


 地元に戻った3月のある日、咲きかけのソメイヨシノ桜の木の下で僕は理恵子サンにプロポーズした。


 「理恵子サン、僕と結婚してください。僕が幸せになるためにはあなたが必要なんです。」


 その言葉を聞いて、理恵子サンは目に薄らと涙を浮かべ、両脇を引き締め、両の拳で口を覆った。そして、僕はと言えば、『その格好はボクシングのファイティングポーズだな』と思ったことを墓の中まで持って行くつもりだ。プロポーズが喜劇にならなくてよかった。

 彼女の白魚のような左手薬指に、震える手で指輪をはめた。 その日、桜の木の下で、僕は理恵子さんとはじめてキスをした。


 プロポーズの時、理恵子さんの首元が寒そうだったので、

 「マフラーでも買う? プレゼントするよ。」

と申し出たところ、

 「大きめのスカーフがいい。」

とデパートに連行された。

 香水の匂いのするフロアーに、そのピンクのスカーフは展示されていた。以前から目を付けていたらしい。

 「これを買ってくれませんか?」

値札を見る。3000円なら、まあ、いいか。と了承する。理恵子さんは想像以上に喜ぶ。不審に思い、もう一度値札を見直す。ゼロを1個見落としていた。まあ、お約束だな。はぁ〜ぁ

 「ブランド品の良いものは結局長持ちしてお得なのょ。 ウフフ」

と言われたら、後には引けない。顔が引きつらないように冷静を装う。お財布からお金を取り出す。上司の「社会人なら千円札で自分の年齢×2枚分の現金を常に携帯しておけ」というアドバイスは適切であった。ありがたく思う。でも、絹だとしても、大きめだとしても、ブランドもの(? エルメスなら知っているけどヘルメスって聞いたことがない)だとしても、あんな薄い布1枚が30000円もするなんて。 「風呂敷じゃダメですか?」と思ったけど、必死にこらえて口に出さなかった僕はエライ。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 後日、理恵子さんから、プロポーズのことばについて、

 「なんで、『幸せにします』」と言ってくれなかったの? 自分のことばっかし。やっぱりずれている。」

と手厳しく非難された。面目ない。



 水田の両親も、ミヤサワの両親も婚約を喜んでくれた。水田父は

 「我が家の娘を2人とも誑かしよって。」

と泣きそうな顔で笑いながら、僕の背中をばしばしと叩き、結婚を許してくれた。イタイ

 水田母は眉をひそめて、

 「真理子は認めてくれたの?」

と小さな声で聞いてきた。

 「近いうちに許しを得るようにします。」

 「そう…まあ、がんばってね。」


♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 理恵子さんの友達も僕たち二人の婚約を祝福してくれた。でも、山本さんと言う理恵子さんの高校のころの友達が、僕の顔を見た時に、

 「本当にジャガイモだ…」

とつぶやいたのを聞き逃してはいない。失礼な。山本さんとやら、ヒトは本当のことを指摘されると傷つき、腹が立つのだよ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 狭間の世界からこの大イベントを覗いていた真理子は

 「いいなあ。私も石のついた指輪が欲しかった。」

とひとりつぶやいた。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 プロポーズの次の夜、狭間の世界で、僕は小姑の真理子さんと対峙(?)していた。

 「シクシク。私のことは遊びだったのね。」

と、明らかな嘘泣きをして真理子さんは僕をからかってきた。僕は半眼で、真理子さんのからかいを流した。


 「いや、ここ狭間の世界で遊んではいたけど…あなたとはそんな仲じゃないでしょ。」

 真理子さんはケロッとした顔で僕をまじまじと見た。

 「そうね。まさかミヤサワ君がリエの夫になるとはねぇ。」

 「はい、お義姉さん。」

 「まさかミヤサワ君が義弟になるとはねぇ。」

 「はい、お義姉さん。」

 「いや〜、人生何が起こるかわからないもんだ。」

 「はい、お義姉さん。」

 「しつっこいわよ! ミヤサワ君。リエを泣かしたら許さないから。夢枕に立って、化けて出るからね。」

 「はい、お義姉さん。…化けて出るのは堪忍してください。理恵子さんを泣かしたりしませんから。」

 「そう…」

 真理子さんはフワリとやさしく微笑んだ。



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