04-理恵子ちゃんの物語 <デートの顛末>
予定通り10時58分、11時2分前に理恵子ちゃんをお家へ送り届けた。理恵子ちゃんと僕とのはじめてのデート・イベントは無事?に終了した。デート後に水田家で玄関を開けて理恵子ちゃんを迎え入れたお母さんの僕を見る目がやたらと生暖かかったように思われたのは、気のせいだ。うん。気のせいだ。僕は僕の心の平穏のためにそう思うことにして、水田家を辞した。
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コーヒーショップでの会話は、デートのお誘いの『セリフ』への苦情からはじまった。小学生のようなストレートなお誘いは、中学生の理恵子ちゃんには不評だった。
「そんなにおかしかった?」
「う〜ん。今の質問からもお兄ちゃんって、思いっきりずれている人だって認識できた。 おかしいし、可笑しかった。 やっぱ真理子お姉ちゃんの同類よね。」
理恵子ちゃんはミルクティのカップを机のソーサーの上に置くと、思い出し笑いをした。
「あのお誘い文句で、ゥププ、お母さんもお父さんも脱力して食卓に突っ伏しちゃったわ。私もインパクトが強すぎてどんな顔をすれば良いのかわからなくなっちゃった。」
「それで…あの苦笑だったのかぁ…。」
理恵子ちゃんはミルクティのカップを手にしてみたが、それに口を付けずに、再度ソーサーに戻した。カップの中の紅茶が小刻みに揺れている。彼女の肩も小刻みに震えている。左手で口の周りを押さえて一生懸命思い出し笑いをかみ殺していた。理恵子ちゃんの素はどうやら『ゲラ』らしい。一度笑い出すと止まらなくなる質のようだ。真理子さんの一周忌の時に見た、澄ました顔や態度は大きな猫をかぶっていたようだ。大きな猫をかぶっているというところは、理恵子ちゃんもやっぱり真理子サンの妹だということなのだろう。でも、理恵子ちゃん、猫がずり落ちかけてますよ?
まあ、この一件で素の理恵子ちゃんと打ち解けられたし、コーヒーショップまで数百メートルの距離だけど彼女も外出して道を歩けた。
うん。 デート・イベントは大成功だ。そうに違いない。
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僕は生まれてはじめてのデートの後、精神的に疲れ果てて昼寝している。
そして、狭間の世界の僕の前には大爆笑している真理子さんがいる。
「プッ! 『りえこちゃんあそぼ』って ヴホホホホ。 ウホホホホ。 だめだぁ息が苦しい。笑い死にしそう。ウホホ。ウホホ。ウホ ウホ ウホ。」
真理子サンはゴリラの雄叫びのような笑い声をあげている。何がそんなに面白いのだろう?
「『笑い死にしそう』って、真理子サン、あなたもう死んでるでしょ。」
僕は冷静に突っ込みを入れた。
「あ〜おかしい。あの時のお父さんとお母さんの顔ったらないわ〜。 ウププ、ヴアッハハハ。…ンクククク。ヴアハハハ。」
「そんなに可笑しかった?」
「可笑しいもなにも…アハハハ。 もうダメ。」
真理子サンは両の腕を前に突き出し、花畑の中に突っ伏した。
笑っていると、その笑っている自分が可笑しくなって、笑いが止まらなくなる。俗にいう『笑いのつぼに嵌る』という状態だ。こうなると箸が転んでも可笑しい。笑うこと自体が笑いを再生産する。つまり、真理子サンは….もうダメだ。しばらくほっておこう。
「こんなに大笑いしたのは生まれてはじめてかもしれない。 …ミヤサワ君。リエを連れ出してくれて、ありがとうね。 家の雰囲気も明るくなったわ。リエもあの『あそぼ!』のインパクトに負けて、自然に外に着いていったわ。 はっ! もしかしてミヤサワ君の計算づくの言動だったの? ミヤサワ君は孔明だったの?」
「残念ながら素です。考えすぎて小学生の頃の素直な気持に退行しました。」
「天然かぁ。 まあ、並んで歩く時にさりげなく車道側に廻っていたし、コーヒーショップのドアも率先して開けていたし、座る時にもさりげなく椅子を引いていたし、素でもエスコート役としては十分合格点だったわ。」
「そりゃどうも。」
「ミヤサワ君ってその意味では結構良い男よね。顔はジャガイモのくせに。」
「ジャガイモは余計だよ。」
真理子サンは花畑に突っ伏したまま、顔だけを僕の方に向けて、微笑みながらそう評してくれた。でもその微笑みはわずかな時間しか保たなかった。
「それにしても….ウププ、ヴアハハハ。…ンクククク。ヴアハハハ。」
狭間の世界に真理子サンの大爆笑が再度響き渡った。
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ところがその後しばらくして、真理子さんは突然怒りだした。
「それにしても大した風評被害だわ。私があなたと同類だなんて。リエったらそんな認識だったのね。プンプン」
『いいえ、あなたと理恵子ちゃんも同類ですよ。』と言いたかったがそれを言ったら、10倍になって文句が帰ってくると思われる。僕は口をつぐんだ。
う〜ん。ふらふらしている学生をしかりとばしていたら血圧が上がって、右目眼底出血。
右目が見えん。誤字脱字を起こしそう。ご指摘ください。
定期更新できるかな?




