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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
04-理恵子さんの物語 全8話
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04-理恵子ちゃんの物語 <はじめてのデート>

 「水田母から、『そろそろ理恵子を誘ってあげて』ってさ。」

 突然おふくろにそんな話しをされた。

 僕は女の子とろくに話したことがない。ましてデートに誘ったことなど一度もない。真理子サンの一周忌の時に、水田母に理恵子ちゃんを外に連れ出すことを頼まれた。でも、僕にはハードルが高い。だからアクションを起こしていなかった。いや、起こすことを避けていた。


 「女の子を誘ってデートなんて。僕には無理だよ。ハードルが高すぎる。それに水田父がなんか怖いし。」

 「デートと言っても、その辺のコーヒーショップにいって、一緒にコーヒーとかケーキとか食べてくれば良いのよ。」

 「…僕、今月は金欠なんだ。」

 「なさけないことを言っているわねぇ。そのくらいのお金なら出してあげるわよ。レシートを忘れずに持って帰るようにしなさい。 …割カンはだめよ。年下の中学生の女の子にお金を出させちゃダメよ。」

 退路を断たれてしまった。

 「でも、理恵子ちゃんがデートを嫌がるかも。」

 「大丈夫よ。理恵子母が確認したって。…理恵子父は渋い顔をしているらしいけどねぇ。」


 ほら、ハードルが高い。僕が躊躇していると、おふくろがイライラし始めた。

 「もう御託は良いから、明日、日曜の朝10:00に水田さん家へ誘いに行きなさい。話しはつけてあるから。」

 ひどい。息子の都合は無視かよ。

 「誘うって、なんていえば、何をすりゃ良いのかわかんないよ。..バラの花束でも持参すれば良いの?」

 おふくろは僕のずれたコメントに情けない顔をした。

 「おバカねえ。花束なんて持ってく必要なんてないわよ。普通に『コーヒーでも飲みにいこう』って誘えば良いのよ。 まあ最初だから、1時間も連れ出せばミッション・コンプリートね。」

 「高校生が中学生をデートに誘うなんて、事案だよ。」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 その夜、僕は真理子サンに相談するために狭間の世界を訪れた。


 「甘酸っぺ〜。リエの初デートかぁ。甘酸っぱいわ。でもね、ミヤサワ君、不埒なことをしてはダメよ。」

 「不埒なことも何も、どうやってデートに誘えばいいのかさえ見当もつかないよ。あ〜ぁ、どうすりゃ良いのさ? だいたい、理恵子ちゃんは納得しているのかぁ? 誘いにいって玄関先でいきなり拒絶されたら、僕、恥死にしてこっちへ、狭間の世界に引越しするぞ。」

 「アハハ。そこは大丈夫みたいよ。さっき覗いたら、リエは明日の『近所のお兄ちゃんとのデート』に向けて何を着ていこうかと悩んでいたわよ。 それなりに楽しみにしているみたいょ?」

 「着るものだって!? 僕は何を着ていこう。全然、まったく、何にも考えてなかった。」

 「そんな特別な格好をする必要なんてないわょ。どうせ1時間くらいのデートなんだから、適当な私服で…って何でミヤサワ君、なにを情けない顔をしているの?」

 「僕、私服なんて持ってないよ、外出着は学生服しかないょぉ。後は体育のジャージ、とか。」

 「うっそぉ! 何それ? 信じられない! あきれた! 年頃の男の子ならおしゃれな…とは言わないけど、ジーパンにカラーシャツくらいの私服は持っとくべきよ。ミヤサワ君のお母さんはそういうことに頓着しないヒトなの?」

 「うちは男兄弟だから。そんでもって兄も気にしない人だから、お下がりも無いし。母も気にしなくなっちゃったのかも…」

 「二人目の悲しさね。」

 「….」

 「もう、仕方が無いから、制服のワイシャツに黒ズボンで行きなさい!」


 「で、どうやって誘えば良いのかな?」

 「知らないわよ。そんなの! まあリエは鈍いから、ストレートな誘い文句で良いと思うわ。」

 「ストレートって? …体重ののった右ストレート? パンチの効いたやつ?」

 「ぼけ倒してんじゃないの! 『コーヒーを飲みに行きませんか?』とかでいいんじゃないの? 『ねーちゃん、茶ぁしばかへん』はやめておいた方が良いわよ。 変なこと言うと引かれるわよ。」

 「そっかぁ。 左ジャブか。」

 「リエをぶったら、取り殺すわよ。ジャガイモ頭がいろいろと考えても良いアイデアなんて出ないわよ。『下手な考え休むに似たり』よ。」

 「う〜ん。」

 真理子サンから有効な助言は得られなかった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 次の日の朝、理恵子母はポストの朝刊と一緒にA4サイズの白いメモ書きを見つけた。いぶかしげにそれをつまみ上げた理恵子母だったけど、一行目を見て脱力、破顔した。

 「何これ? 『デート計画書』? 『10:00にお迎え、11:00頃帰宅』 まあ、まあ。まあ。…マメね。というよりミヤサワ君、テンパっているみたいね。ウフフフフ」

 ニマニマした顔で新聞と一緒に水田母はその紙を持ち帰った。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 朝食後の水田家の食卓は、いつもと違う不思議な雰囲気、脱力を伴う緊張感を醸し出していた。

 「かあさん。これは何かね?」

 「ミヤサワ君の作ったデート計画書のようよ。今朝、新聞といっしょにポストに入っていたの。」

 「デート計画書ぉ? 何じゃそりゃ。 こんなのはじめて見たぞ。…内容は『10::00に迎えに来て、11:00頃に送り届ける』か…で、行き先は『コーヒーショップを予定』か。店の電話番号まで書いてある。…まあ、健全そうだな。」

 「ねえ、お母さん。男の人って、デートの前に親に計画書を出してくるものなの?」

 「ウフフ。そんなことするのはミヤサワ君だけだと思うわ。理恵子のことを大切に思ってくれているのよ。きっと私たちに心配させないように、気を使ったんでしょうね。ありがたいわ。 …でも、何かずれてるわねぇ。」

 水田母はおもしろがって笑う。水田父は少し困った顔をしてつぶやいた。

 「まあ、誠実…なんだろうなあ…  でも、何かずれているなあ。」

 「このぶんだと、10:00ちょうどに誘いに来そうね。理恵子はそれまでに外出できるように準備しておくのよ。」

 「は〜い。」

 水田父はその明るい返事に少し顔をしかめた。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 緊張感が高まる水田家のテレビの時報が10:00を告げると同時に玄関のチャイムが鳴った。

 水田家の3人は食卓で顔を見合わせた。キタ〜! あまりの予想通りに見合わせた3人の顔にそれぞれ苦笑があふれる。

 「本当に10:00ぴったりね。」

 「まあ、時間を守るのは悪いことじゃないが…」

 理恵子はインターホンのボタンを押した。

 「は〜い。」

 

 「理恵子さんですか? コホン。 りえこちゃんあそぼ。」



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