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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
03-真理子さんの物語 全6話
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03-真理子さんの物語 <水田真理子>

新章です。

 「クーボ先生。生きるって、…死ぬって、何でしょうかねえ。」

 暗い顔をしたミヤサワ君は久々に狭間の世界にやって来て、突然にそんな哲学的な質問をした。

 「ミヤサワ君。どうしたのかの? 何か哲学的な質問をして、キミらしくないぞぃ。元気も無いぞぃ。」

 「昨日、近所の、同じクラスの女の子の葬式でした。」

 「…それはまた…まだ若いのに。」

 「残念です。」

 「病気かの?」

 「いえ、交通事故でした。金曜日は元気に学校に来ていたのに、月曜日はお葬式でお別れ…なんて… 突然で…悲しすぎます。」

 「その子は、もしかして君の…」

 「いや、告白はしていませんから、僕のことは単なるクラスメート…ご近所の、良くても幼馴染みとしか見られてなかったと思います。 くっ! こんなことなら早く告っておけば良かった。」

 「後悔先に立たずじゃのぅ。ところで、その子はあそこにいる子じゃないかのぅ。」

 クーボ先生の指し示す方に虚空をにらみ付けている同じ年くらいの女の子がいた。


 「水田さん!」

 それは金曜日に事故で亡くなった水田真理子さんだった。彼女の様子を見てクーボ先生はあごひげをさすりながらつぶやいた。

 「ふ〜む。何か現世に大きな心残りがあるようじゃのぅ。」

 「先生。彼女に話しかけても大丈夫ですか?」

 「ナンパ…かの?」

 僕は脱力した。頭と両腕がガックリと下がる。 

 「いくら現世でモテないからって、狭間で亡くなっている人をナンパする趣味はありません。でも、彼女は知らないヒトではありませんし…。現世に彼女の心残りがあるのなら、なんとかしてあげたいな…とは思います。」

 「やさしいことじゃのぅ。まあよいのではないか? でも本人がいやがったら、すぐに諦めるのじゃぞ。それがナンパのマナーじゃ。」

 「だからナンパじゃありませんって!」

 

  僕は立ち上がり水田真理子さんの座っているところへ近づいていった。ふと後ろを見ると、クーボ先生がニコニコ?ニヤニヤ?しながら、グッドラックと言わんばかりにサムアップしていた。それを見て、僕はさらにがっくりと肩を落とした。

 「あのオヤジは…」

 と小声で毒づいたが、その声は聞こえていないようだ。クーボ先生はまだ笑顔だ。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「水田さん?」

 僕が声を掛けると、彼女はおどろいたのか「ピヤッ」という鳥の泣き声のような小さな悲鳴を上げた。

 「ビックリした!ビックリした!、あ〜ビックリした! 心臓が止まるかと思った。あ、でももう心臓は止まってるじゃん。 誰かと思えばミヤサワ君じゃない。こんなところで会うなんて…君も死んじゃったの?」

 「いや、僕はまだ死んでいないんだ。熱射病で死にかけたら、生きたままここと現世を行き来できるようになっちゃったんだ。」

 「あ〜。前に熱射病で倒れて入院したってお母さんが言っていたわね。じゃぁ、ミヤサワ君は現世に帰ることができるの。」

 「うん。恥ずかしながら。」

 何が恥ずかしいんだろう。自分で言っていて何を言っているのか良くわからない。そうか。現世に大きな心残りを持つのに現世に戻れない彼女に僕は自分が戻れることを遠慮しているんだ。だから正々堂々と「戻れる」と言い難くいんだ。なんて、自分の感情を分析していたら、目の前の水田さんが僕の目の前で手をひらひら振りながら。

 「お〜い。ミヤサワ君、戻ってこ〜い。」

と言っていた。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「ゴメン。考え事していた。」

 「とかいって、本当は憧れの美少女とお話しできて、気絶しかけたんじゃないの?」

 あれ? 水田さんってこんな軽いノリの人だったっけ?

 「水田さん。ここへ来て、性格が変わっちゃった?」

 「あはは。こっちが素だよ。みんなの前では猫をかぶっていたの。」

 「へ...へえ。そうなんだ。」

 「でも、死んじゃってから猫をかぶっていても仕方が無いじゃない? えっと…がっかりした?」

 「う〜ん、そうでもない。そんな水田さんもかわ…面白い。」

 「『かわいい』って言いかけたわね。ウフフ。ありがとう。さすが、現世で私のことをじ〜って見ていたミヤサワ君ね。」

 からかわれて、僕は真っ赤になっていることだろう。

 「えっ。 じ〜って見ていたって….そんな…」

 「隠してもだめよぉ。女の子は男の子の視線に敏感なんだから。後ろの方からコソコソ見ていたのを、私は知っているわよぉ。 まあ、あなたは子供の頃から知っているし、安全なオタクっぽいし、害もなさそうだからほっていたけどね。」

 僕の顔はもう真っ赤だ。赤を通り越して紫になっているかもしれない。このままにいろいろと指摘されると僕のライフは無くなってしまう。

 「水田さん。…他の人には言わないでね。」

 「大丈夫よぉ。ほらよく言うでしょう。『死人に口無し』よ。」

 彼女は自虐的な冗談を自分でケラケラと笑っていた。水田さんの口から出たその冗談は、僕には…笑うにはつらい軽口だ。話しを変えよう。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「ところで、なんか必死に現世を覗いていたみたいだけど、何か心残りがあるの?」

 水田さんの顔色が変わる。

 「あら、見てたの? やーねー。乙女の秘密を覗くのは、ルール違反よ。」

  しゃべり口は素の水田さんだけど、声が若干震えている。」

 「いや、ねえ。あんなに真剣な顔で現世をにらんでいれば、….目立つよ。」

 「はあ。手遅れみたいね。….ところでミヤサワ君は現世に戻れるのよね。なら、お願いがあるんだけど。」


 少し上目遣いでしゃべる彼女のお願いごとは是非かなえてあげたい。でも、安請け合いは怪我の元だ。まずその願い事やらを聞き出さねば。

 「その願い事にもよるよ。まずはそれを聞いてから判断する。」

 彼女は僕の返答を聞いて、視線をそらして「チッ」と小さく舌打ちした。その小悪魔的な顔も可愛い。

 「それは乙女の秘密なの。あなたがお願いをかなえてくれると約束してくれなければ、とても話せないわ。」

 「なんか、恥ずかしいことなの?」

 「死ぬほど恥ずかしい、っていうか、死んでもまだ恥ずかしい。いや、死んだからこれから恥ずかしい、のかもね。」

 「聞かして?」

 「誰にも言わない? でもあなたにしか頼めないし。」

 「力になれるかも。」

 「…あのね、薄い本…なの。」


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