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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
02-クーボ大博士の物語 全5話
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02-クーボ大博士の物語 <狭間との行き来>

 「クーボ先生! また来たよ。」

 「お〜! ミヤサワ君。また来たか。 そんなにちょくちょく来て大丈夫かの?」

 「うーん。大丈夫みたい? 現世でこっちへ来たいな、と思いながら寝ると、こっちへ来られるみたい?」

 「そのしゃべり方はきもち悪いのぅ。何でしゃべりが疑問形なのかのぅ?」

 「自分の言葉を不断に問い直しているんです。」

 「そうじゃない。 …でも、まあ良い。それでも、ここは生と死の狭間の世界じゃから、睡眠中の君の魂は半分死んでおるんじゃないか? こんなにちょくちょく来ていると、いつか向こう(現世)に帰れなくなる危険は無いかの?」

 「大丈夫でしょ? 向こうでの寝起きは、普通の睡眠よりむしろすっきりしています。熟睡しているのかな? 向こうでの体調はむしろ以前より良いくらいです。」

 「『眠りは死に似ている』とはいうがなぁ。 体調が良いのはここで学んだことを実践しているおかげじゃな。 わしの教えは千金の価値があるのじゃよ。ホッホッホ。」

 僕は自画自賛している白衣のクーボ先生をジト目で見た。確かにクーボ先生の生活に関する助言は有効だろう。でも、そのほとんどは学校で先生や家で親に言われたモノと内容は同じだ。『早寝早起き朝ご飯』とか、『ジャンクフードを食べない』とか、『甘い間食を控えよ』とか。どうやらクーボ先生は当たり前のことしか言わない。なにかチートな助言でもしてくれれば、少しは尊敬しても良いのになあ、と思う。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「ところでミヤサワ君。最近、君は夜更かしが過ぎるようじゃなあ。」

 「えっ? なぜそう思われるのですか?」

 「それはのう。わしが君のことを観察しているからじゃ。」

 「へっ? 観察? 僕のことを覗いているんですか?」

 「そうじゃ。」

 ちょっとまって。この狭間の世界から僕のことを見ている? あんなことやこんなことをしているのの見られている! 顔が赤くなる。僕は大きな声で抗議した。

 「先生! それはプライバシーの侵害です! やめてください!」

 「そうはいってもなあ、君の行動は面白いからのぅ。見たくなるんじゃ。それにこの世界はひどく退屈でのぅ。まあ、恥ずかしいことはしないことじゃ。」

 「恥ずかしいことって…」

「いや、生理現象はあれもこれもなにも恥ずかしいことではない。ヒトとして倫理的に恥ずかしいことはしないことじゃ。」

 「先生! 僕の考えていることも視えるのですか?」

 「さてのぅ♩。」

 先生はとぼけた。ニマニマしながら僕をからかってくる。ダメだこのオヤジ。完全にからかいモードだ。僕をからかって遊んでいる。

 「先生! それはハラスメントです。観察ハラです。視ハラです。やめてください。」

 「それでもこの狭間の世界から、気になる現世の人間の行動は『視えてしまう』んじゃよ。あきらメロン。」

 「先生! それはネットミームです。そんなネットミームを実際に使う人はいません。」


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 僕はコホンと咳払いをして、真面目な顔で話題を切り替えた。

 「先生、この狭間の世界から気になる現世の人を観察できるとおっしゃいましたが、ここに来ている私には現世の様子は視えません。」

 「ふ〜む。正直、この狭間の世界で君のような存在は特異的じゃからのう。なぜかはわしにもわからん。だれか覗き見たい者がおるのか? 女の子か? 女の子なのか? ホッホッホ。」

 「….ノーコメントです。」

 「視えないのはミヤサワ君がまだ狭間の住人になっていないからじゃろぅ。現世できっちり死んだら、ここに来てから視えるようになるんじゃないかな? 試しに一回、死んでみるかの?」

 「冗談でもやめてください。まだ僕は死ぬには若すぎます。」

 「ホッホッホ。まあそうじゃなぁ。死ぬまでにはまだ2万5千日はあるじゃろぅ。」

 「えっ! たった2万5千日?」

 「ミヤサワ君は何才まで生きるつもりじゃ? 人の寿命の長くなった今の日本でも一般人の寿命は3万日じゃ。わしらの頃は2万日ちょっとじゃったなぁ。今でも4万日以上生きられる者はほぼおらん。3万日は、まあ、82年じゃな。」

 「…思ったより短いですね。」

 「ミヤサワ君はすでに5千日以上生きている。まあ、全体の6分の1じゃな。君の砂時計の砂は既に6分の1は落ちているということじゃ。人生の時は有限じゃ。その限られた時間のなかでしっかりと生きることじゃなぁ。メメント・モリじゃなぁ。人生は限られた寿命の中でどこまで遠くに行くかを競う自分との闘いじゃ。無駄にしてもよい時間はない。そうさのう。『人生はインディ500マイルレースではなく、ル・マン24時間耐久レース』じゃ、と昔読んだマンガに描いてあったわい。」

 このオヤジはたまには良いことを言う、と思ったら名言の出典はマンガかいっ! 

 僕は肩を落とした。


クーボ先生の読んだマンガは、柳沢きみお「正平記」少年チャンピオンコミックス全3巻 の第3巻のようです。


次回から新章ですが、更新頻度が下がると思います。

日曜、水曜の早朝更新を目指します。

よろしくお願いします。見捨てないでください。

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