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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
21-三島兄妹の物語 全6話
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21-三島兄妹の物語 1 <意思の疎通>


 三島家のリビングではゆかりちゃんとゆかりちゃんの兄のしげき君が、おやつのおまんじゅうを食べながら駄弁ダベっていた。しげきお兄ちゃんはゆかりちゃん達より4才年上の高校1年生だ。歳が少し離れているけどゆかりちゃんとの仲は良い。優しい世話焼きのお兄ちゃんだ。

 優しい良いお兄ちゃんだ。…少し臭いのは我慢してやろう。でも、何かネタがあると直ぐにゆかりちゃんを揶揄からかってくる。…悪いお兄ちゃんだ。


 「…というわけで、あおいちゃんの拒食症はひとまず回避できたみたい。」

 「えっと…あおいちゃんって、例の『エルフの女王様』?」

 「そう。お肉だけじゃなく、ご飯や豆も食べれなくなってたの。」

 「エルフだからお肉を食べないのは理解できるけど…ご飯やお豆のような植物由来のものも食べられなくなっちゃったのか。」

 「もう、今は食べられるようになったから、まあよかったんだけど。…本当に心配したわ。」

 「うん。よかったなあ。」

 「本当によかったわ。でも、何でご飯やお豆までたべられなくなっちゃったのかなぁ?」

 「う〜ん」

しげきお兄ちゃんは腕を組んで、眉根にしわを寄せて考え込んだ。長考にはいったようだ。


 ぴくりとも動かないしげきお兄ちゃんを放置して、ゆかりちゃんは机の上の紙箱から『ヒヨコまんじゅう』を1羽とりだして、それを包んでいる薄い紙をむいた。中からかわいいヒヨコの造形の、薄茶色のまんじゅうが出てきた。ヒヨコが少し上を向いて、ゆかりちゃんをまっすぐ見ている。ゆかりちゃんは、さて、しっぽから食べようか?頭からがぶりといこうかと手にとり、その外観を眺めている。彼女は鯛焼きを食べる時も頭から食べようか?しっぽから食べようかと悩む。多くの場合、頭からガブリといく。シシャモを食べる時はしっぽからだ。これは頭を食べずに最後に残すからだ。


 「よし!今日は頭からいこう。いただきま〜す。」

と大きく口を開けてかぶりつこうとしたところで、しげきお兄ちゃんがいつもよりも1オクターブ以上高い声でささやいた。

 「《こわいよこわいよぉ、食べられちゃうよ。》」

ゆかりちゃんはかぶりつく動作を中断し、開けた口を閉じ、ヒヨコまんじゅうを睨んだ。目が合った。そんなはずないのに、ヒヨコが目に涙をためているように見えた。

 ゆかりちゃんは正面に座っているしげき兄ちゃんを睨んだ。《何をするんだ、何を言い出すんだ!こんのバカ兄貴は!》 と睨みつけたが、しげき兄ちゃんは目をそらして知らんぷりをしている。

 気を取り直したゆかりちゃんは少し考えた後、もう一度口を大きく開けて今度はヒヨコのしっぽから齧り付いた。ヒヨコまんじゅうのかわいらしい目にゆかりちゃんは目を合わせたくなかった。


 「《ギャー。イタイヨイタイよ齧られちゃったよ!》」

とバカ兄貴がささやく。 思わず口にしたまんじゅうの皮と白あんのかけらを食卓の上に吹き出してしまう。

 …口の中をさっぱりさせるために、お茶を一口飲む。口の中に残った皮やあんこがすっと溶けていく。

 「お兄ちゃん! 何をするのょぉぉ!」


 「汚いなあ。机の上を拭けよ。 で、まあこうゆうことだ。」

 「何が『まあこうゆうこと』なのよぉ。」

文句をいいながら、ゆかりちゃんはお台所へ布巾をとりにいった。


 「あおいちゃんの拒食症だよ。 彼女は樹や植物とお話しするんだろう? おはなしができたら、植物を、その命を食べられなくなっても不思議じゃないと思うよ。」

 「お話ししている訳ではないと思うけど?」

 「でも、『ヒヨコまんじゅう』にボクがアテレコしただけで、ゆかりはまんじゅうを食べられなくなっちゃっただろ? だいたいヒヨコまんじゅうはお菓子だ。元々生きていない。それでも食べにくくなる。そんなもんだ。」


 「…たしかに。」

ゆかりちゃんは台所からもってきた布巾で机の上を拭き始めた。

 「ゆかりは豚さんも牛さんもニワトリさんも抵抗なく食べられるよね? ではワンちゃんを食べられるかな?」

 「食べられるわけないでしょ! 残酷な。」

 「じゃ、ニャンコは?」

 「食べられるわけないでしょ! 酷いわ、残酷よ。」

 「じゃあ、豚や牛やニワトリと、犬やネコの違いは何だと思う? 犬やネコの場合に殺して食べることを『残酷』と感じるのはなぜだと思う?」


 「…なぜだろう? 考えたこともなかった。」

 「ボクの個人的な意見だけど、意思の疎通の有無じゃないかな? つまり、広い意味でお話しできるかどうか、だな。」

 「私、犬とおしゃべりしできないけど…」

 「でも、犬がしっぽを振っていたら、喜んでいる、うれしいと理解できるよね。ネコがゴロゴロ喉を鳴らしたら、リラックスして機嫌が良いとわかるよね。」

 「…確かに。」

 「直接的な会話ではなくても、相手が何を考えているかわかると、その対象を食物とすることに忌避感が産まれるんじゃないかな?」

 「…あおいちゃんは、植物の考えていることがわかる…のかなぁ?」

 「それは本人に聞かなければわからないけど、…まあ、エルフの女王様だからな。 …一度謁見賜りたいな。 どうして拒食症になっちゃったのか? そして、どうやってそれを克服したのか? 知りたいなぁ。」


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