20-アオイちゃんの物語 6 <カウンセリング>
「はい。アッカンベエをして。」
保健室の中であおいちゃんは白衣を着たオバちゃん先生の診察を受けていた。
担任の先生は心配そうにその様子を見ている。
「はい。立ち上がって。 頭がフラフラしたりはしないかな?」
「はい。大丈夫です。」
「ふむ。身体は大丈夫そうね。そうすると、お肉やご飯を食べられないのは精神的な原因のようね。」
「わたし、生き物の命を奪うものが食べられないんです。」
「なるほど。一度、精神科の専門医にかかる方が良いわね。 紹介状を書くから、親御さんに連れて行ってもらいなさい。」
「はい…」
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
「〜〜〜」
「〜〜〜」
「う〜ん?」
精神科の先生があおいちゃんに問いかける。あおいちゃんはそれに対して自分の考えを述べる。そんなやり取りがしばらく続いた。
「先生。どうでしょうか?」
お母さんが心配そうにお医者様に問いかける。
「う〜ん。まあ健康状態にはまだ異常はないけど、長引くと身体に負担がかかるなあ。 これは『時間薬』の出番かな?」
「『時間薬』ですか?」
「そうだね。時間が解決してくれるのを待つ、ということかな?」
「そんな無責任な。」
「おかあさん。彼女の悩みは病的なものではない。だから向精神薬などのお薬を使った治療はなじまないんですよ。まあ、健康を害さないように、食べ物に注意してください。あと、ビタミン剤を出しておきますね。 お大事に。」
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
「〜〜〜」
「〜〜〜」
「う〜ん?困ったねえ。」
菩提寺の住職さんがあおいちゃんとお話しする。でも、普通の食事をとる用に説得できていない。
「あおいちゃん? 仏教には『不殺生戒』というものがあって、命を奪うことを戒めている。でもね、穀物などの植物由来の食事を禁じていない。ただし、やむを得ず殺す場合にはその命に経緯を表し、その命を無駄にしないことを求められている。」
「命を無駄にしない?」
「そう。頂いた命を活かすことだな。 人、いやありとあらゆる生き物は他者の命を頂いて生きているんじゃな。そのことに感謝し、自分の『業』を認め、正しく生きることじゃな。 お食事をいただくときに『いただきます』と感謝を表明することが、まずだいいっぽじゃな。」
「わかったような、わからないような…」
「まあ、いま問題になっているフードロスは言語道断ということだな。 それに、まだ小さいあおいちゃんに簡単に悟られたら、儂ら坊主の立つ瀬が無いからな。」
といって、お坊様は「ワハハハハ」と大笑いした。
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☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝、あおいちゃんは庭のケヤキの若木に手を触れて、おばあちゃんに話しかけていた。
「おばあちゃん。というわけで、私、ご飯を食べれなくなっちゃった。」
『げめんね あおい。私が炒らないことを言ったばっかりに,悩ませてしまって。 身体は大丈夫なの?』
「うん。身体は健康よ。でも、このままでは心配だって、お母さんが言っている。」
『そうね,私も心配よ。 こっちの世界の他の人も心配しているわ。』
「他の人って、だれ?」
『あ〜、もしもし?あおいちゃん。クーボじゃ。儂のことを憶えているかな?』
「クーボ先生? 白いおひげの先生ですよね。」
『あ〜、そうじゃクーボじゃ。儂もじゃが、他にも心配している人がおる。…自然科学に比べて。人文科学、特に人の心はまだまだ解明されていないからのう。 あおいちゃんが拒食症になりそうな現状を,皆で憂いておる。 でも、皆、適切なアドバイスができないんじゃ。』
「へえ? そうなんだ。」
『そうなんじゃよ。 皆、こちらのケヤキの幹に触れて、儂らの会話を傍聴しておる。』
「うわっ! 恥ずかしいなあ。 …皆さん,おはようございます。」
なぜか礼儀正しいあおいちゃんであった。
『『『おはよう。あおいちゃん』』』
多くの思念がケヤキさんの若木から伝わってくる。
「クーボ先生。ところで、そんなに大勢の人がそっちのケヤキさんに触っていて、ケヤキさんが折れたりしない?」
『それがじゃなぁ、こっちの狭間の世界のケヤキはスクスク育って、今や幹の直径が数メートルを越える巨大木になっておる。どこまで大きな樹になるのか、興味深いのう。』
「へっ? こちらのケヤキさんはまだこんなに小さいのに?」
『そうじゃな。でもそっちのケヤキも尋常じゃない成長をしておるぞ。まあ、こっちのケヤキほどではないがなぁ。』
あおいちゃんは、狭間の世界のケヤキさんに会いたいと思った。
「あおいちゃん、あおいちゃん。狭間の世界のケヤキと現世のボクは同じケヤキだよ。」
「えっ? そうなの。」
「正確にいうと、同じ意識を共有している、トいうことになるかな?」




