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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
02-クーボ大博士の物語 全5話
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02-クーボ大博士の物語 <クーボ大博士の科学哲学講義>

注:クーボ先生の主張は、必ずしも著者の主張ではありません。

 「ミヤサワ君。 科学者、技術者、工学者はみな自分の見いだした理論や開発した技術を可愛く思っている。そして、それは人々を幸せにすると信じて研究し、開発している。しかし、専門家の視野は狭い。そして、しょせん人の考えることじゃ。穴もあるし、思わぬ弊害や副作用を生むこともある。 

 向こうを見てごらん。パウルじいさんとレイチェルばあさんが頭を抱えているじゃろう? パウルじいさんはDDTという農薬を開発した。レイチェルばあさんは政治家を動かしてその農薬を全廃させた。どちらも人類のために、自分の信念に従って行動したのじゃよ。」


 「DDTって環境を破壊する物質でしょう? そう学校で習いました。なんでその開発者がノーベル賞を受けているんですか?」

 「君の学校の先生はいささか一方的な見方をする人のようじゃなぁ。確かに環境に大きな影響を与える可能性を持つ強い農薬、…殺虫剤じゃな。強い薬には必ず強い副作用がある。でもな、DDTによって蚊を駆除できる。それによりもう少しでマラリアを撲滅できるところじゃった。実際、セイロンではDDTとキニーネでマラリア患者の発生をほぼ完全に抑えることに成功した。ミヤサワ君はマラリアと言う病気を知っているかのぉ? 日本ではほとんど流行しないが、蚊が感染を広げる。熱帯地方では毎年、億単位の人が感染し発症し、今でも毎年数十万人から百万人の人が死んでいる。」


 「でも、DDTって猛毒でしょう?遺伝子に悪い影響を与えると聞きました。」

 「いや、そうでもない。君らの祖父母はノミやシラミの駆除のために頭からDDTの粉をぶっかけられている。多少の毒性はあってもそれが直接の原因で死んだ者がおるとは、わしゃ浅学なのか聞いたことが無い。」

 「それは変でしょう? 人間に害がないなら、なぜ廃止されちゃったですか?」

 「蚊などの虫達には猛毒じゃ。乱用すれば自然環境が破壊されてしまう。それこそレイチェルばあさんの言うように鳥のさえずりの聞こえない『沈黙の春』を招く。パウルじいさんの間違いは、乱用できるほどに安くて便利で強い農薬を作ってしまったことかもなぁ。…それを乱用してしまう愚かな人たちの存在を考慮しなかったことかもなぁ。そしてレイチェルばあさんはDDT全廃で毎年数百万人の命を救うチャンスを失ってしまったことを悲しんでいる。彼女は全廃ではなく適切な使用にとどめるべき、あるいは代替手段の開発が必要だと訴えておったのじゃがのぉ。愚かな人の乱用をやめさせるために、政治家は拙速にDDTを全廃したのじゃ。」


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「愚かな人たちって…」

 「ヒトの本質は愚かじゃ。○か×かで△を認めない。新しいもので生活を豊かにし、その失敗を糊塗するためにさらに新しいものを開発し、さらに失敗していく。PCB然り、フロン然りじゃ。…文明の自転車操業じゃな。止まったら人類の文明はコケてしまう。立ち止まることは…もはや許されない。立ち止まると人類は、文明は滅びる。立ち止まるには文明は進歩しすぎてしまった、人間は利便に慣れすぎてしまった。そして、人間はその絶対数が多くなってしまった。滅びを裂けるためには、ただひたすら前に加速して走り続けるしか無いのじゃよ。」


 「どうすれば良いのですか?」

 「皆が賢くなれば良いのじゃが…。そのためには一人一人、皆が自分で考えて自分で判断することじゃ。そのための基礎的な科学教育を皆受けているのに、それを活かしていないのぅ。そして、世間の常識を疑うことじゃ。自分は正しいことをしていると思い込んでいないか、思い込まされていないか、信じ込まされていないか、騙されていないかを疑うことじゃ。不断に問い直すことじゃ。善意(ZENI)の行動でもだれかに利用されて誰かの銭(ZENI)にされているかもしれん。」

 僕は狭間の世界で頭を抱えた。生き返った後、僕は何を信じれば良いのか…、途方に暮れた。


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