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満と神様  作者: 雨宮朋夜
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一つ目の願い事 後編

「みつるー、おはよー」

「ゆうき、おはよ」

 佐々(ささき)(ゆう)()。同じクラスで親友。一年生のとき、人見知りで友達が一人もできず絶望的だった俺に話かけてくれた。あとから理由を聞いたら、俺から甘い香りがしたからお菓子を持ってそうだと思ったらしい。それを聞いたとき、従妹が飼っている柴犬のラッキーを思い出した。

「一限目、体育だよな。たしか、男子はサッカーだっけ?」

 体育館に目をやると女子はバレーボールの準備をしていた。

「そうそう、俺の得意分野~♪」

「ゆうき、サッカー部だもんな。今度試合あるんだっけ?」

「ああ、ちゃんとレギュラーになったぜ!試合チョー楽しみー‼」

 ゆうきは去年レギュラーになれなくて悔しさをにじませていた。

「すごいな‼おめでとう!」

 だろ?と満面の笑みで言った。

 サッカーは五人三チームに分かれた。軽いパス運動をした後に試合をする。

 二試合目でゆうきのチームと試合をする。

 グラウンドは昨日の雨でぬかるんで、でこぼこしていた。

「負けねーから」

「こっちのセリフ」

 先生がピーっと笛を鳴らすと試合が始まった。

 ゆうきが走って仲間からパスをもらい先制点を獲得する。

「ゆうきやったな!」

「どんどんゴール決めるぞ‼」

 ゆうきのチームが嬉しそうに言った。

 ピー、笛が鳴る。

「ゆうきにボールがいかないようにしろー!」

 さっきの先制点を警戒して数人がかりでゆうきにブロックをする。

 そのかいあってかボールが俺に回ってきた。

「みつるー、そのままきめろー!」

「いわれなくても!」

 そのままドリブルしてシュートを放った。

「やったな‼みつる !」

 チームメイトに頭をわしゃわしゃされる。

 仲間に囲まれて笑いあっていると、その隙間からゆうきがうずくまっているのが見えた。

「…ゆうき?」

 慌ててゆうきのそばにかけよる。

「ゆうき!大丈夫か?」

「ああ」

 ゆうきは足首をおさえながら返事をする。

「もしかして足をやったのか?」

 ゆうきのそばの地面がぬかるみでえぐれていた。

「やっちまったなー」

 ゆうきが顔をあげて軽く笑いながら言う。

「いや、笑いごとじゃないだろ、だって——」

「みつる、ごめん保健室いくから肩かして」

 俺の言葉をさえぎって、ゆうきが困った顔で言った。

 ゆうきはその後の授業も何事もなかったかのように受けていた。それでも席を立って歩く様子をみると足を庇ったよう歩き方をしていた。

「明日顧問に伝えてくる。足のこと」

「でも、それ伝えたら、今度の試合出られなくなるんじゃ」

「仕方ないだろー。これじゃ出たって何もできないよ」

「……でも」

「はい!この話は終わり!なんか楽しーこと話そーぜ!」

 ゆうきが元気な声で言うが声に覇気がなかった。

 どうやって元気づけたらいいかわからず首に手を当て項垂れると何かが手に当たった。

 ———ねがいごとを叶えてやろう

「あ、」

 どうして今まで忘れていたんだ。あるじゃないか。ゆうきが試合に出る方法。

「なに?どうした?」

 なんて言えばいいんだ。

 あ、実は俺神様と会ってー、願い事叶えられるんだよねーか?

 いや、絶対頭おかしいやつだと思われる。

「あー、いや別に。なあ、あの神社にお参りしないか?」

 とっさに斜め前の鳥居を指した。

 そこはあの神様がいる場所だった。

 俺はおそるおそる鳥居をくぐる。神様はいないようだった。

 境内から出られないんじゃなかったのか。

 鳥居のそばの手水舎に柄杓が一つだけあった。ゆうきに続いて手を清めた。

 財布から五円玉を出すゆうきを横目に俺も小銭を取り出した。

 二礼

 二拍手 

 一礼

「—————」

 たっぷり三十秒拝んで、去り際に間食用でもってきたパウンドケーキをそっと置いた。


 ネックレスをいじりながら天井を見上げる。

 一日の疲れをソファーがそっと支えてくれた。

 ゆうきの怪我が明日までに治ることはない。絶対に。

 神頼みしようが病院に行こうが現実は同じだ。

 だが、現実と違うことが一つだけある。

 願い事はなんでもいいと言っていた。

 大抵のことは叶えられる。きっとあいつにとって怪我を治すことなんか造作もないことなのだろう。

 俺のやりたいことは決まっているのに、このまま進めていいのかわからない。

 言いようのない恐怖があった。

「速報です。俳優の○○さんが交通事故で病院に運ばれました。速報です———」

 テレビからアナウンサーの緊張した声が聞こえた。事故にあった俳優は最近注目を浴び始めた人物らしい。らしいというのは、俺はこの手の話にはめっぽう弱いからだ。まったくもって興味がわかない。きっと世間一般ではこの俳優の事故は大きなニュースとして注目を浴びるだろうが、俺の中では赤の他人で、知らない人で、その知らない人が事故でケガをして救急車で運ばれた、という事実だけであった。

 俺は再び天井を見上げるとネックレスを右手でそっと掴んだ。


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