婚約破棄~~陽気に踊る男爵令嬢の話
私は男爵令嬢サリー、時々、奇妙な夢を見る。
私が踊っている夢だ。
このピンクブロンドの髪をなびかせて、
そして、皆、踊り出す。
変な夢。
まあ、いい。貴族学園に行くのだからねっ!
フフフフフ~~~ン、ランランラン、
と学園に行ったら、
また、いつもの光景がある。
低位貴族の令嬢が殿下に話しかけている。
怒られるよ。
「殿下、その、あの、お寂しそうです。あ、私に、胸の内をお話下さい!」
「・・・ご令嬢、下級生だったかな。大丈夫だよ」
とか、
「殿下、その、リンディア様に、私、虐められています。その、あの、相談に乗って下さい」
「うむ。由々しき事態だ。しかし、ご令嬢の話だけを聞いて、判断することは出来ない。イジメ撲滅委員会に話を通しておく。さあ、リッキー、案内して上げなさい」
「はい、殿下!」
「ええ、でも、殿下に話せって・・」
リンディア様とは、殿下の婚約者だ。そんなイジメをする人には見えない。
リンディア様は、気さくでとても良い方だ。低位貴族にも丁寧に話しかけてくれる。
ほら、今日も、
「サリー様、ごきげんよう」
「ご挨拶申し上げます。デッセル公爵家リンディア様」
「まあ、サリー様、リンディと呼んでいいのよ。ねえ、今度、パーティーがあるの。来て頂けないかしら。これ、招待状よ。2週間後よ」
ウゲ、招待状を渡されたら行かねばならない。
「はい、確かに、受け取りました」
ジィーと見ている。何故?
「あら、その場で開けないのね」
「ええ、ペーパーナイフで開けさせてもらいます」
・・・・・
それから、低位貴族専用のテラスで会議をしたのだからねっ!
「ふう、大変だからね!」
「サリー様、招待なんて、すごいですわね」
「でも、うちは、麦が特産の領地だから、王家とお近づきになっても、商売の幅が広がるとか、ないんだからねっ!お父様とお兄様なんか、畑仕事をしているくらいだからねっ!」
「でも、言いにくいけど、デッセル公爵令嬢、良い噂は聞かないよ。何でも、低位貴族や、平民の学生を、殿下にけしかけている張本人だとか・・・」
「婚約者でしょう?しかも、自分がイジメているとか、そんな嘘の証言をさせるメリットはないのだからね」
「・・・まあ、そうなのだろうけどね」
☆☆☆ダン男爵家
王都のタウンハウスに帰ったら、お母様から、とんでもない話を聞いた。
「サリー!公爵家から、ドレスと、宝石のプレゼントが届いているわ!お直しするから、着てみて欲しいって」
「ええ、そんな~~~」
・・・
プレゼントされたドレスを見て、口が思わず開いた。
ピンクで、ヒラヒラで、胸元パッチリ開いている。
背中見せ見せだ。
宝石もド派手だ。異様にデカいだけの宝石のネックレス。
これは・・・
「何これ~~~」
「もしかして、公爵令嬢様は、同性愛なのかしら・・・」
「サリー、婚約者いないでしょう・・・誰か、エスコートを頼みなさい」
「お父様とお兄様は?」
「それがね。急にお仕事が入って、親戚の子も、とても、2週間じゃ王都まで着かないわ」
着なければ、失礼かな。
何が目的かさっぱり、分からない。
翌日、騎士科に行った。エスコートのお願いだ。
騎士の学生服を着れば、立派なパーティーコードだ。余計な負担をかけさせない。
「ダン男爵令嬢、それは、無理、この日は、騎士科学生は、全員、警備の補助なんだ」
「王宮でパーティーがあるよ。大公殿下、黒獅子公がいらっしゃる。32歳で独身、高位令嬢が多く招かれ、お見合いみたいだよ」
「あの方は、若い頃、婚約者を亡くされて、それ以来、独り身だ。一途な方のようだ」
「そーなの」
もしかして、
公爵令嬢様が、招待するお茶会って、王宮のパーティー?そんな馬鹿な。
と、思ったら、やっぱり、そうだった。
「いい。私たちは、ここで、待っているから、何かあったら、来るのよ。壁の花になるのよ」
「「「お嬢様頑張って」」」
「馬車はいつでも発進するようにしておきます」
当日、お母様と使用人たちが、王城前の広場の片隅で、待っていてくれることになった。
☆☆☆王城接遇の間
「ダン男爵令嬢サリー様!」
ザワザワザワ~~~~
「何、あのドレス」
「派手ね」
「男遊び激しそう」
やっぱり、こうなる。嫌なのだからねっ!
男爵令嬢は、私、一人。リンディア様から、贈られたネックレスとドレスを着たらそうなる。
「サリー様、こちらよ!」
ゾロゾロゾロ~~~
うわ。公爵令嬢が、殿下や、その側近候補をつれて、やってきた。
「どう?」
『どう?』と言われても、一応、カーテシーを殿下たちに向かってする。
「殿下に、ご挨拶申し上げます。ダン男爵が子女サリーにございます」
この2週間、必死に、マナーの練習したのだからね!
「・・・・うむ。大儀である」
ほら、殿下も場違いな男爵令嬢に困っている。
「ささ、サリー様も一緒に、挨拶回りをしましょう」
さすがに、これは、断るべきだ。
「申し訳ございません。体調が悪いので」
「うむ。なら、リンディ、テラスにでも連れて行くが良い。休息を取り。無理をせず。帰るが良い」
「はい、殿下・・・」
☆☆☆テラス
ここは、王城前広場が見えるテラスだ。お母様たちはいるかな。
すると、リンディア様は、何かおかしくなった。
「フフフフ、サリー様、殿下達を見て、何か感じませんか?」
「いえ、余りの偉光に、目眩がしました」
「そうじゃなくて、殿方として、魅力を感じませんか?」
「はい、とても、素晴らしい方です」
「はあ、もう、いいわ。覚醒しないのね。いい。ここは、乙女ゲームの世界よ。貴女は、ピンクブロンドのヒロインなのよ」
「・・・申し訳ございません。意味が分かりません」
これは、恋愛小説を読み過ぎて、現実と区別が付かなくなったのか?
リンディア様が、悪役令嬢の立ち位置で、私が、殿下を奪おうとする?
そして、このパーティーで、殿下と一緒に、リンディア様を断罪し、黒獅子公が、登場し、証言だけの話だと見抜いて、殿下と私は没落・・・
やっぱり、現実と小説の世界の区別がついていない。
「殿下は、正義感だけは強いのよ。さあ、私に虐められていると訴えなさい」
「さすがに、お断りします」
「そう、じゃあ、仕方ないわね。ラング!来なさい!」
「はい、義姉上!」
ゾロゾロゾロ~~~~
これは、不良貴族子弟と、公爵家の養子!と・・・
「お母様!」
「安心しなさい。眠らせているだけよ。でも、私の言うことを聞いてくれないと、どうなるかしらね」
お母様・・・・
「出来ません・・・そんなことをしたら、男爵家が取り潰しになります。だから、お母様の命の代わりに、私を殺して下さい」
「ふう~、貴女が、本命だと思ったのにね。ダメね。じゃあ、違う子にするわ。サリーを傷物にして、口封じをするわ。この事を話したら、純潔じゃないとバラしますわ。もっとも、ピンクブロンドは、お盛んらしいけどね」
「いや」
「「「「ヒヒヒヒヒヒヒ~~~~」」」」
手にドレスが掛かった瞬間、
あの夢が頭に浮かんできた。
そして、空を飛ぶ。
シュン!
トン!
奴らの後方に着地した。
「「「何!」」」
そして、自然と言葉が出る!
【ピンクブロンド奥義!陽気な貴婦人のダンス!】
私は、ダンスを始めた。
右手を挙げて、左手は、スカートを少し挙げ。
村祭りに参加した領主の奥様?そんな感じの陽気なダンスだ。
何やっているのよ?
すると、ゴロツキ貴公子も、踊り出した。
「フニュア~~、何か、お花畑が見えてきた~~~」
「サリーたん。可愛い~~~」
「はあ、はあ、はあ、罵って!」
「イエイ!お前のお母様!デベソーーー!」
「ちょっと、何?もしかして、これは、馬鹿ゲー?!」
リンディア様は、また、理解不能な事を言う。
・・・・
「「「「皆、仲良く、ダンス!」」」
「「「「人族、皆、兄弟姉妹!」」」
「「「「サリーたん。可愛い!」」」
「ヒィ、皆、正気に戻ってーー」
しばらく、踊っていたら、
「おい、テラス、騒がしいぞ!」
階段の下から、声が聞こえる。
「ヒィ、不味いわ。この状況、何て、説明すればいいのかしら!サリー、やめなさい!」
トン!
とリンディア様に軽く、押されたら、言葉が、自然と浮かんできた!
【ピンクブロンド奥義!階段地獄落ち!】
コロコロコロ~~~~
階段を転げ落ちる。
「ご令嬢大丈夫か!」
ガシ!と、お姫様抱っこをされた。
「ご令嬢!・・失礼!」
「有難うございますだからねっ!」
目を背けてくれた。胸元パッチリのドレスに気を使ってくれているのだろう。30代くらいのイケオジだが、服から見たら、かなり高位の貴族だ。
殿下たちも駆けつけてくれた。
「公爵令嬢殿、遅いから見に来た」
「見たぞ!リンディア、このピンクブロンドの令嬢を押したな!」
「ああ、がっかりだ。近いうちに、婚約破棄を申し渡す!」
「殿下!違うの!この際、殿下ルートで良いわ!」
「何を言っている。前から、おかしいと思ったのだ!」
・・・・
リンディア様は拘束され、実家で謹慎、義弟とともに、厳しく取り調べられた。
自分は、転生者だとか言っているそうだ。
公爵家は、新たに、養子を迎え。義弟は、元の貧乏子爵に返還、リンディア様は、修道院送りと決まった。
脅して、低位貴族の令嬢に、殿下を口説かせようとしていた。
幸い、令嬢たちは、身は汚されてなかった。
やならきゃ、汚すとのことで、渋々、殿下にアタックをしていたそうだ。
踊っていた不良貴公子たちは、記憶がないようだ。
突然、踊り出したと話したら、
「う~む。奇病、踊り病だろう。隔絶した村とかで起こる集団ヒステリーのようなものだが・・・この王都の社交界も、狭いコミュニティと言えば、そうかもしれないな」
と賢者は、そう判断してくれた。
あれは、何だったのか、分からない。
あの踊る夢は、時々見る。
☆☆☆ダン男爵家
「サリーちゃん!大変よ!殿下と黒獅子公が来たわーーー」
「ヒィ、何で、って、この前、助けてくれた方」
「サリー嬢、黒獅子公は、我が兄上のような存在だ。さあ、黒獅子公」
「・・・・ドレスを贈らせて欲しい」
「嫌だからねっ!」
「うむ。最終的に王権を発動して、嫁入りをさせることも可能だが、そうはしたくないのが、伯父上だ。頼む。せめて、ドレスを贈らせてもらいたい」
これは、何故?もしや、
「頼む。一目惚れだ!」
と、胸元パッチリ、背中見せ見せのドレスを贈られた。
「これは、何の罰ゲーム?」
私が、普通の男爵令嬢だと分かれば、興味なくなるだろうと、思ったが、まだ、ドレスは贈られてくる。
・・・・・
「サリー様、大変よ。お父様から聞いたのよ。大公殿下の元婚約者を知っているのよ」
大公殿下に仕えている家門の同級生が話してくれた。
黒獅子公の亡くなった婚約者は・・・
「ピンクブロンドで、小柄で、可愛いタイプだったのよ!いつも派手派手なドレスを着ていたけど、貞淑で、そのギャップ萌が良かったそうなの!サリー様とそっくりと言っていたわ!」
これは、逃げられないか?
私は、何か大きな運命の流れに乗ったようだ。
そのうち、可愛いドレスが贈られてきた。私の気持ちを考えてくれているのだろう。一度くらいはデートをした方が無難か?
・・・サリーは気がつかない。自分も転生者で、馬鹿ゲーの登場人物であると、しかし、確かに皆、生きている。それで、十分なのだ。
最後までお読み頂き有難うございました。