82話
七章 第二
「さて、これで今日もおしまい」
七海が魔導を解除し、小太刀を覆っていた漆黒の粒子が霧散する。彼女は月明かりを反射する二本の小太刀をゆっくりと鞘に納めた。
あたりにはボロボロと崩れ落ちる怪異たち。その怪異たちの様子から戦闘はすでに終了したことがうかがえる。
「七海、怪我はないか?」
安全地帯に避難していた俺は、戦闘が終了したのを確認してから彼女のもとに駆け寄る。どこか怪我をしているのならば、今日も家で作ってきた魔導薬を塗らなければならない。
「ん、大丈夫。どこも怪我はしてないから」
心配しなくてもいいよ、とでも言うように、俺が近くにきた瞬間、くるっと一回転をする彼女。彼女の言う通り、顔や腕など目視で確認できる範囲には傷ができていなかった。
「……大丈夫みたいだな」
彼女が怪我を負っていないようでほっと安堵する。
「桂くんは心配しすぎ。私がそう簡単に怪異の攻撃を受けるわけがないでしょ」
ほっと息をつく俺とは対照的に、彼女は腕を組みながら、心配性な俺を見てため息をついた。
ため息をついた後、七海は視線だけ先ほど討伐した怪異たちへと振り向ける。こうして彼女と話している間にも怪異の消滅は進んでおり、もうほとんど怪異の形は残っていなかった。
消滅していく怪異を確認して、七海は視線をこちらに戻す。
「それじゃ、次の怪異の出現ポイントに急ごうか? まだ時間はあるけど、ここから距離があるし」
「そうだな。そろそろ――」
しかし、後の言葉を続けることはできなかった。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
いつか聞いたような女の人の叫び声が二人の耳に飛び込んできた。