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【悪夢】

「………ア……ろ……………ノアっ!!!」

「!?」



 間近まぢかで大声を出され、ノアは何事かと目を覚ます。視界には、少し怒った顔で此方こちら見下みおろすナラがうつり込んだ。



「………夢じゃ、なかった…」


「まだ寝惚ねぼけてるのか? 遅刻すんぞ」


「遅刻って……夜からなんだから、朝は眠らせてよ…」


「あ"?! お前、夜仕事してんの!? 」


「……………」



 ーー七年後の私は、夜にバイトしてないのか…



「あっ…いや、そのっ……信じてもらえないケドさ………私…貴方の知る、【ノア】じゃないというか……」


「………そんな嘘吐かなくても、体調が悪いならそう言えばイイだろ」

「!? ちっ…違ーー」

「今日はゆっくり休め。職場には休みの連絡入れとくから」


「違う! そうじゃなくて、」

「ハナか? 一人暮らし長かったんだぜ? 朝飯の一つや二つ、作れるから心配すんな。迎えのバスに間に合わせればイイんだもんな? 」


「…………………」



 パタン


 ナラが部屋を立ちった事でようやく一人だけの空間となり、ノアはホッと胸をろす。


 ーー悪い人ではない……多分…


 未来の自分が、一生をともにしたいと思ったパートナーだ。好きな部分だけではなく嫌いな部分をも自分は受け入れて、逆にナラも、ノアの良い部分だけじゃなく悪い部分をも受け入れてくれたから、現在いまがあるのだろう。



「………もう少し寝よ…」



 いくら考えたって、元の時代に帰れる方法が見つからない以上、如何しようもない。なら寝るにかぎると考えて、ノアは目を閉じた。







 此処ここは夢の世界だと直ぐにわかった。

 暗闇くらやみつつまれたその場所の唯一のあかりは、足元の【緑色の線】。その線を辿たどると、【茶色の扉】が突然(あらわ)れた。



「?」



 思わずその扉のドアノブに手を掛けると、ガチャっと音を立てて、戸がひらく。



『ノアっ! 俺と結婚してくれ!! 』

「!?」



 少し離れた場所で、ナラが自分ーー“何年か後の自分”へと、プロポーズしてる場面を目撃もくげきした。


 ーーえっ…!?! ちょっ…! えっ?!!


 同じ空間…いや、時間軸というべきか? に、ノアが二人存在する事となる。

【タイムパラドックス】とかいう、過去を改変かいへんした事で未来への矛盾むじゅんが…とか難しい事が起こっているのでは…? とノアは不安になったが、そもそも此処は先程とは違い“夢の中”だと思い出し、二人の様子をコッソリとうかがう事にした。



『……ナラ君…私…私ね……ナラ君の事、大好きだよ』


『! だったらーー』

『“大好き”だから、貴方と一緒にいられない…。だって……こんな気持ちのままじゃ、貴方と一緒にいたって、私…貴方を幸せにしてあげられる事が出来ない…っ。……御免なさい…』



 …パタン


 ーーどーゆう事…?


 扉を閉めて、ノアはその場に背をあずけてへたり込んだ。ドッ、ドッ、ドッ、と心臓が激しく震えて気持ち悪い。

 ふと足元を見ると、緑色の線が二手ふたてに分かれている事に気付いた。自分が先程(とお)った道は…と考えていると、一本の線が消える。



「!?」



 まるで、「この線を辿れ」と言われてるみたいだと思った。

 しばらく考えて、どうせ夢なのだから…とその線を辿ってみる。


 歩いていると、目の前に【灰色の扉】が現れた。ドアノブに手を掛け、ガチャっという音を立てて、恐る恐る戸を開けるとーー何処かのオフィスと思しき場所で、パソコンに向き合うけた己を見つける。



『………ナラ……もう、結婚したかな…』



 ボソリと呟かれた言葉は、一人だけの空間だからなのか、けて消えていくみたいだと思った。



『今更、結婚したいって…ムシが良過ぎる話だよね……ははっ…』



 ーーだったら、如何してプロポーズされた時、それにこたえなかったんだよ!?


 出掛でかかりそうになる言葉を呑み込んでいると、未来のノアがまた何かを口にしそうな気配を感じて、耳をます。



『………。……“私だけ”、幸せになるのは、駄目だよね…ッ。ナラ……今でも“大好き”で御免ね…っ』


「……………」



 ーー“私だけ”…?


 自分が幸せになれるかもしれない道をってまで、選んだ理由がなんなのか気になった。

 どうせ夢だとはいえ、自分の話だ。それを調べるのは野暮やぼな事では無い筈だ。


 戸を閉めて、来た道を辿る。【茶色の扉】を再び見つけて、ガチャっと音を立てて戸を開けると、今度は中に入って、扉を探す。

 自分が知る何年か後の未来の世界の中、【赤色の扉】は直ぐに見つかった。その先に、先程の老けた己が口にした、「私だけ」の意味を知れるのだろう。

 怖いと思いつつも、ドアノブに手を掛け回す。…が、ガチャガチャっという音は鳴るものの、戸が開く気配は無い。



「……あれ? おかしいな…。あれ?? 」



 何度やっても開かず、腹が立ったノアは、戸に向かってこぶしをぶつけた。



「開けてっ! 此処は“私の夢の中”なのよ!? 私のいう通り、戸を開けて! 中に通してよっ!! 」


『駄目よ』

「!?」



 後ろを振り返ると、ナラをフった時には自分の存在に気付いた様子は無かったのに…の、少し大人びた己が此方を真っ直ぐに見て、『駄目よ』と念を押す様に言った。



「………何で? 私は……私には、“私の過去”を知る必要があるわ! 」


『さっき、此処は夢の中とか言ってなかった? だったら、貴女の過去とかではないでしょ? 』


「っ………だっ…だとしても……“私の”夢には違いないのだから、私には知る権利があってーー」

『“過去を改変”させない為に、それを止める権利が、”未来の私”にはある』



 肉体は、七年後の自分だ。つまり、視覚情報だけだったら、“未来の私”は自分なのだが、目の前のもう一人の自分は、お見通しだと言わんばかりの顔で此方をにらんでいた。



「っっ……まっ…、待ってよ! 私、現在いま、七年後の未来にきてるんだよ!? それで、その世界の中で夢を見てて……貴女は、その前の私なワケだから、未来じゃなくて過去でしょ!? 」


『………精神面では、“未来の貴女”だよ、私は』


「……………」


『…かく、行かせないから。その【扉の向こう側】にだけは、絶対に』


「っ……何で!? もしコレが貴女のいう、仮に未来だとして……だとしたら、私が過去を…“貴女にとっての過去”を知る事で、幸せになれるかもな未来を蹴飛ばさなきゃならない理由を知る権利はある筈よ? そうする事でーー」

『過去は変えさせない、って言ったわよね? 』


「……………変えたい過去があるの? 」


『っ……』



 ゴキュッと、生唾なまつばを飲む音が酷くひびいた。

 図星を突いたからなのか、目の前の未来の自分が、怒りからなのか悲しさからなのかはわからないが、苦しそうに顔をゆがめている。



「………教えて。なにがあったの? 」


『……………』


「ねえっ! “未来”に、なにがあったの?! 」


『………言いたくない…』


「……自分に向けて言うのもアレだけど…子供みたいな事、言わないでよ!! 」


『………そうだね……』

「!?」


『私は、護られてばっかで、誰の役にも立てない、子供…うんん。それよりもタチが悪い、死に損ない』


「っ………なっ…なにがあったのよ…」


『……………』


「言ってよ…。言ってくれたら、私ーー」

『過去は変えさせないっ!! 目を覚ませッ!!! 』



 ゴゴゴゴゴと音を立てて、周囲の床がくずれ落ち、闇に呑み込まれていくのが視界に入った。



「!?」


『“過去の私”、よく聞いて』


「!」


『貴女の精神だけがタイムスリップした七年後は、一つの未来。…でも、未来は容易たやすく、変わってしまうものなの』


「………過去を変えたら、貴女の存在自体が危うくなるから、変えたくないの? 」


『……………うん……。私、自分の事しか考えてないから♡』



 そう言った未来のノアは、今にも泣き出しそうな印象なのに、綺麗な笑みを浮かべていた。

 自分の顔なのに、思わず見惚みほれていると、足元が崩壊ほうかいし、闇の世界へと身体がほうまれる。



「!? やっ…! 」


『駄目なの』

「!?」


『“私だけ”…幸せになっちゃ、駄目なの……』



 ーーなん、で? なんで…なんで…何でッ!?! 何で私は、幸せになっちゃ駄目なの!? ってか、幸せって、人それぞれ違うんじゃないの!?!! 結婚したから幸せってわけじゃないじゃん!! 私は…私は……



「ナラが好きだから結婚したんだろおおぉ!?!! 」

「嬉しいねぇ。でもそーゆうのは、ハナちゃんに謝ってからにしてくれるかな? 」

「!?」



 ノアは飛び起きた。

 辺りを見渡みわたすと、寝る前に見た景色だ。如何やら、漸く夢の世界から帰ってこられたらしい。



「ハナちゃん…ずっと、まってたの……ママ…そんなに、たいちょう、わるかったの? 」



 ボロボロと、涙をこぼしながら尋ねるハナに、少女の言葉から、朝の出来事を思い返して…ハッとした。

 幼稚園はバスの送り迎え。朝のお迎えの時には、ナラが付きいで送り出すから、帰りのバスが来た時に、ノアが迎えに行かなくてはならなかったのだがーー今の今迄いままで、寝ていた。



「っ……ハナ…あの……ごっ…御免なさい!! 」


「……如何する、ハナ。ちゃんと反省してるかわからないママを許す? それとも許さない? 」


「………」



 未来の私よ。こんな男の、何処にかれたんだ? 私なら絶対結婚したいと思わないぐらいに腹が立つんですけど!? ーーと、怒りの炎を宿やどすノアの視界に映るハナは、ずっと待たされてたからなのだろう、泣きらした顔でジッと此方を見つめてて、暫しの考える素振そぶりを見せた後、ゆるす、と言った。それに、ナラは驚いた様子を見せ、如何して? と尋ねた。



「だって…ママ、ここさいきんいそがしそうにしてたもん。つかれてたから、ずっとねてたんでしょ? 」


「……………ッッ……ごめん…っ。……ごめんね…ハナちゃん…」



 ノアはハナをギュッと抱き締めた。それに、いたいっ! いたいよママ! と悲鳴が聞こえてきた為、抱き締める腕の力をゆるめると、頭の上になにかが触れる感覚。



「いつもがんばってるママ。いいこ、いいこ」



 ハナが、ノアの頭を優しく撫でた。未来の自分やナラが、ハナにそうしているのだろう。



「っ……有難う、ハナちゃん…」



 ナラという男に対しては、“未来のパートナー”として納得出来ない処はあるが、ハナという娘との未来は、守りたいと思った。




【悪夢〜それぞれの、まもりたい未来。〜】

後書き

マラソンでの飛ばす悪い癖が、出てしまった気がします…( ;´Д`)

コツコツコツコツ……癖を付けねば‼️(`・ω・´)



皆さんは、変えたい過去はありますか?


私は……後悔してる事の方が多いので、変えたい過去は山程あるのですが、、、

過去の選択を変えるという事は、現在いまの自分を否定してる気がして……


正しい選択なんて誰にも…本人にもわからない事だし、だから、変えたい過去は山程あるけど、現在の自分の為には変えたくない、です。


苦しい時や悲しい時は後ろに退がったってイイ。後悔なんて沢山したってイイ。過去の栄光えいこうすがったってイイ。……でも、コレだけは忘れないで。

未来は、変える事が出来るって事。タイムマシンで【未来の誰か】が未来を変えさせない!と妨害ぼうがいしてこないかぎりは、未来には無限の可能性があるって事‼️を。



………夢見過ぎだってわかってますけどね…。

偶に、こーゆうロマンの話にひたりたい人間です(`・ω・´)❤️

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