美人の同僚
「おい九! 今月ノルマ足りてねぇぞ!」
「は……はい。すみません……」
『アキラちゃんねる』配信者 九アキラの会社はブラック企業だ。
毎月ノルマに追われるアキラ。 パワハラ上司はいつも厳しい。
「とっとと外回り行ってこい! タコッ!」
「は……はいぃぃい!」
(くそっ! 配信者で成功してこんな会社辞めてやる!!)
上司に激怒され、逃げるように外回りに行くアキラ。
その背中を怪しく見つめる一人の美女がいた。
彼女はアキラの会社の経理だ。
「うーん……やっぱりそうだよなぁ……」
◆
22時、アキラは仕事を終える。
ブラックサラリーマンのアキラにしては早い終業だ。
「はぁ……今日も疲れたな……さあ! 早く帰ってダンジョン配信しなきゃな!」
すっかりダンジョン配信に夢中のアキラは足取りも軽やかに会社をあとにする。
「あ、あの……九さん」
「ん?」
軽快に歩くアキラは、会社の出口で女性に呼び止められる。
「あ、君は……えーっと、確か……経理部の熊埜御堂さん!?」
「はい……お疲れ様です。急にすみません」
熊埜御堂 花子 25歳。
アキラと同じ会社だが、部署が違うため、接点がほとんどない一つ年下の後輩。
地味で目立たない性格だが、ルックスの良さで社内の男にファンも多い。
お互い珍しい苗字ということもあって意識はしていたが、話しかけられたのはこれが初めてだ。
「あの……ちょっとお聞きしたいことがありまして……お茶でも行けませんか?」
「え? 俺に?」
(熊埜御堂さんが俺なんかに何の用だ!? でも今日は早く配信したいんだよな……)
いきなり美女に話しかけられ焦るアキラだったが、今日は配信を一刻も早くしたい気分だった。
「えーっと、ごめん。今日はちょっと急いでて……」
「そうですか……分かりました。すみません、こんな遅くに」
「いえいえ……気をつけて帰って」
残念そうに落ち込む熊埜御堂。
せっかくの美女の誘いを振るような形になってしまったが仕方ない、早く帰って配信をしよう、アキラはそう思い歩き出す。
しかし、彼女は意を決したように声を出す。
「あ、九さん……」
「ん?」
アキラは呼びかけに振り返る。
「……昨日のガチャの……木の棒は残念でしたね」
「あーっ、ホントだよね! イヤになっちゃうよ! ……えっ!?」
「……やっぱり!」
「あぁ……」
(しまった、つい答えてしまった……)
彼女は昨日の『アキラちゃんねる』のダンジョンガチャで、木の棒が出たことを知っている。
これはつまり……
「見てましたよ! 『アキラちゃんねる』!」
彼女は目を輝かせる。
「うぅ……恥ずかしい……」
知り合いに配信を見られるという言いようのない恥ずかしさを知ったアキラ。
「九さん……やっぱりこのまま帰せません!」
熊埜御堂は急にアキラにグイグイ迫る。
「えぇ!? 女の子がそれ言う!?」
「ち、違いますよ!」
顔を赤らめる熊埜御堂、普段会社では美人だがいつも大人しい印象だったが、今の彼女の印象は違った。
(こんなガツガツ系だったっけ? ダンジョンがそんなに気になるのか!?)
「あの……私……実は」
「な、なに……?」
奇麗な顔を赤くしながら、彼女は何かを言い淀む。
「私に……ダンジョン配信のお手伝いさせてください!」
「え!?」
突然の申し出に驚くアキラ。
「お願いします!!」
「いや……お手伝いなんて……俺、配信始めたばかりだし」
「はじめこそ肝心なんです! スタートダッシュでフォロワーをしっかり掴むことが、配信者として成功するカギだと思うんです!」
彼女はコンサルタントのような事を言い、アキラを説得する。
(な、なんなんだこの熱量は!? いつもの熊埜御堂さんからは考えられない……)
「九さん、今日も早く帰って配信したいんですよね!?」
「うっ……そ、そうだよ」
(バレていたか……)
「分かりました! 私も付いていきます!」
「えぇっ!?」
「安心してください! 私……結構役に立つと思いますよ?」
「!?」
こうしてアキラは同僚の熊埜御堂 花子と帰宅した。
社内の大和撫子は実はちょっとヤバい奴なのでは?
アキラはそう思った。




