3 ぐーたらOL、死ぬ
「な、なんで・・・?」
『女が魂を戻せというので』
「ごめん、答えになってない」
きれいなきれいな女神様は、私の混乱がまるで理解できない、というようにふんわり首をかしげた。
「・・・何でその女の人は魂がほしいわけ?」
『彼女の赤子に入っていた魂がこちらに来てしまったので、代わりに』
「それ絶対、その女の人が望んだことじゃないよ・・・」
今度は反対側へ女神様の首がかしぐ。
「その子の魂を戻せばいいじゃん、何で私なの?」
『死んだものは蘇りません。』
「代わりの魂入れるのはいいってか」
『その女の魂が赤子と引き換えに、といってこちらへ来てしまったので』
「やるしかないって?」
『神は約束を守ります。』
「じゃあ何で私をわざわざ選んだの」
『赤子に一番気質が近かったので。』
「そこで無駄な努力しないでよ!だから無関係な私が異世界転生!?」
叫んで、なにかがひっかかった。
「待って、転生・・・?」
『はい。』
聞かなきゃいいと思った。答えが出なければいいと思った。
でも、はっきりさせておかなくてはいけない。私の体は確かに存在していた。それが、魂を失ってどうなるのか。
検討は、ついていた。
「佐野怜奈は・・・死ぬの?」
『はい。』
迷いのない首肯。きっと、彼女は私の感情が理解できないだろう。それでこそ、人ならざるもの、女神様だ。身勝手で、理不尽で、人間とは別次元の行動原理をもつ。
それでも、せめて抱きしめてくれたらいいのにと、思った。いつも母がしてくれていたように。
正月に会ったきりの優しい家族。両親とハグして、兄弟とはハイタッチして。
次の休みに会うつもりだった友人。誕生日プレゼントを渡し忘れたから、と何か買ってあげる算段を立てていた。
いつも横目で見ていた好きな人。想いを伝えるのもはばかられるような、素敵なあの人。
そのすべてを、今から私は永遠に失うのだ。
久しく流していなかった涙をボロボロこぼして、私は泣いた。
佐野怜奈は、女神様に殺された。