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07 ノアとニルスとの再会

ご覧いただきましてありがとうございます。

※2021年11月23日火曜日18時頃に、閑話の公開を予定しています。

 うわああ襲われ……る……? と思いきや様子がおかしい。

「にいちゃん、げんきになったんだな! おれ、しんぱいしてたんだぞ! よかったなぁ」

 あっけにとられる一同の前で、少年の声で喋りながら、俺にすりすりゴロゴロする黒豹。

 それに一拍遅れて、人族の冒険者がひとり、何か叫びながら走ってきた。


 息を切らして黒豹に並び、その首輪を捕まえて頭を下げながら何か言っている。

 ロルフによると、どうやらこの人の従魔だったらしく、俺に危害を加えてしまったことをしきりに謝っているようだ。

 それが、俺の顔を見た途端、今度はこの人の方が興奮して、いきなり両手でがしっと俺の肩を掴み、何か喋りだした。


 そこでみんなが口々に、おそらくは、もう少し落ち着けよ、とか、こいつは人族の言葉が分からないんだよ、というようなことを言ってくれたらしい。

 人族の冒険者は、一度深呼吸をした後、身振り手振りを加えながら、単語を区切ってこう言った。


 『オレハ、ニルス、コイツハ、ノア、オレノアイボウ』

「ニルスと、従魔のノア、だって」

 ロルフが通訳してくれる。

『オレタチガ、マヨイノドウクツデ、キミヲ、ミツケタ』

「この人たちが、リョウさんを迷いの洞窟で見つけてくれたんですって」

 サーラさんの通訳によると、つまり彼らは、俺の命の恩人であるらしい。


 「これ、おれのとうちゃん。かっこいいだろ、めっちゃつよいんだぜ!」

 得意満面で笑うノア、鼻の穴が膨らんでるぞ。

『ゲンキソウデ、アンシンシタ』

「元気そうで安心した、って」

 ロルフたちの訳のおかげで、人族の言葉もだいぶ分かってきた気がする。


 俺は、頭の中で単語を整理し、発音を確認しながら言った。

『俺は、リョウです。ニルスさん、ありがとうございます』

 剣ダコのある手のひらと固い握手、その後筋肉質の腕でがっしりハグされた。

 冒険者の情はアツいなぁ。


 それから、俺はしゃがんでノアに目線を合わせる。

「ノアもありがとうな、君たちに会えて本当に嬉しいよ」

「こまってるときはおたがいさまじゃないか、いいってことよ」

 ノアは、でっかくてガサガサの肉球で、俺の右肩をぼふぼふ、と二度たたく。

 それを受けて俺も、ノアの筋肉質ななで肩の右側を、二度たたいた。



 「この世界の黒豹は、喋るんだなぁ……」

 笑顔で去っていくバディを見送り、何となくつぶやくと、ロルフたちは途端に弾けたように大爆笑。

「んなーわきゃーねぇーじゃん、なー、リョウって面白いだろ?」

 ゲラゲラ腹を抱えるロルフに続けて、魔法使いが言った。

「フェンリルやドラゴンみたいな伝説の神獣が年齢を重ねれば、人語を操るようになるとは言われていますね。契約をしたテイマーと従魔の間では念話ができるようですよ」

 え、そういうものなんだ、じゃあさっきのは一体……。


 じゃーまたなーと人狼パーティーも帰っていき、フロアには、サーラさんと、若干混乱している俺だけが残った。


 「……もしかして、サーラさんは、ノアが喋ってたの、分かりました?」

 恐る恐る訊いてみた。

「いくら猫人族でも分からないわ、それが普通よ……様子がおかしいと思っていたら、やっぱり黒豹と会話が成立していたのね?」

 これは一体どういうことなのか。

 さっぱり想像もつかないが、今考えて答えの出ることでもなさそうなので、とりあえずはそういうことなんだとしておくしかあるまい。


 随分長時間にわたって付き合わせてしまったが、サーラさんは持ち場に戻っていった。

 そろそろ閉店時間も近いので、俺も店を片づけることにしよう。


   ◇   ◇   ◇


 カウンターの中で洗い物をしながら、俺は子供の頃のアルバムを思い出していた。


 俺が生まれたばかりの時から三歳くらいまでの写真は、必ずと言っていいほど、でかい三毛猫が一緒に写っていた。

 残念ながら、この猫のことは俺の記憶には全くないのだが、物心ついた頃には、犬だったり文鳥だったり金魚だったりと、家で常に何かを飼っていたことは覚えている。

 散歩をしたり水を替えたり掃除をしたりも、さほど面倒にも思わず当たり前にやっていた。


 そのせいかどうか、確かに俺は動物全般に懐かれやすかった。

 道端で散歩の犬に出くわせば、ほぼ間違いなくこちらに寄ってくるし、来客にはビビッて出てこないという猫が、初見で撫でさせてくれたなんてざらである。


 友だちに誘われて一度猫カフェに行ったことがあるが、あまりにも大量の猫が寄ってきたため、五分ほどで慌てて出てきた。

 俺の隣で入れ食い状態を楽しむ作戦でいたらしい友だちは、怖かった……と涙目になっていた。


 この妙な特技というか体質のおかげで、営業職の時には、客先で犬の散歩に行ったり木から降りられなくなった猫を降ろしたりと、稀有な体験も多々したけれど、まあネタにできたしお陰で取れた数字もあったので後悔はしていない。


 そして今、異世界に来て、それが新たなコミュニケーションを切り開く唯一の手掛かりになっているのだとしたら、あの三毛猫にはいくら感謝してもしきれない。


   ◇   ◇   ◇


 「迷いの洞窟かぁ……」

 こういうのはたいてい元の世界には戻れないことになっているので、帰れるとも帰りたいとも、そんなには思わない。

 でも、俺が発見されたというその、穴のある場所は、できれば一度見てみたいものだ。


 ドアに鍵をかけ、俺は寮に向かって歩き出す。

「夜定食のメニューは何かなー♪」

 一日働いた後の心地よい疲労と空腹に押され、いつしか頭の中は、それ一色に置き換わっていた。

次回は、2021年11月26日金曜日18時頃の公開を予定しています。

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