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03 魔力を持たない小さい人

ご覧いただきましてありがとうございます。

 翌日午前十一時、俺は副ギルドマスターの部屋で、テーブルをはさんで副ギルマスのラーシュさんと向かい合って座っていた。

 四十代前半くらいに見えるが、長命といわれるエルフ族なので実際の年齢は分からない。

 身長はギルマスと同じくらい、筋肉質だがかなり細身で手足が長く、さらさらストレートのロングヘアーだ。

 恐ろしく顔の整ったイケメンであるため冷たい印象を受けるが、実は気さくな人のようである。


 「リョウさんのように、身分を証明するものをお持ちでない方や、身元の分からない方は、まずステータス鑑定を行います」

 ラーシュさんは、若いときは荒事の得意な魔法使いとして冒険者活動もしていたそうで、マルチリンガルというか、日常会話程度ならほとんどの言語の人と会話が可能だという。

 さらに念話も自由に操って、植物や精霊を含むありとあらゆるものと意思の疎通が図れるという、なんかスゴイ人だ。

 したがって、俺との会話も、通訳なしの直接である。


 「私は鑑定持ちですから、見ただけでもだいたい分かるんですけど、こういう時は一応数値化しなくちゃいけないので、念のためにいろいろ使うんですよね」

 テーブルの上には、何やら不思議な器具やら道具やら水晶玉みたいなものまでがずらりと並ぶ。

 俺はそれを順に、身体に当てたり握ったり覗き込んだりさせられ、ラーシュさんはそれを見て「ほうほう……、ふむふむ……」と楽しそうに、手元のファイルに書き込んでいく。


 ひと通りの検査が終わり、しばらくファイルをめくりつつ考え込んでいたラーシュさんは、深刻な表情でおもむろに顔を上げた。


 「リョウさん、スキルが何もないね」


 俺の知ってるラノベでは、召喚者特典とかいうのがあったはずなんだけどな。

 たいてい、なんかスゴイチートなスキルをモリモリに持っていて人生イージーモードでやり直しで、魔王なんかバッタバッタと倒しちゃって、怪我も病気もなくてお金いっぱい稼いで可愛い女の子にモテモテで……。

 でも、まあ実際はこんなもんでしょうよ、もっとも、重大かつ厄介な使命を負わされて、私たちの国を助けてください~みたいなのは謹んでご遠慮申し上げたいのが正直なところだから別にいいんですけど。


 「それからリョウさん、魔力が全くないね。ここまで何もない人も珍しいね」


 そりゃそうだろう、俺の世界には魔法なんてなかったし、俺も親兄弟も親戚もみんな極めて普通の人だった。

 一説によると、三十歳までチェリーを守ると防御魔法が使えるようになるらしいが、俺はまだ二十八歳だ。

 純潔なままかどうかに関しては、ノーコメントである。


 「魔力が無いと何か困るんでしょうか?」

「いや、これからの君の身の振り方を考えるうえで、かなり狭まってしまうからね」


 何でもこの世界は、すべての人が大なり小なり魔力を持っていて、一般人でも簡単な生活魔法程度なら使いこなせる人も多いとのこと。

 学校でも魔力の扱い方を教える授業があり、魔力が高く素質のある人は、家柄や血筋を問わず専門のコースに進むことも可能だという。

 中でも獣人やエルフ族は、平均的に魔力が高めで、それを生かして職業にしている人も珍しくない。

 実際目の前で喋っているラーシュさんも、かなり高レベルな魔法の使い手だそうで、現役時代には結構な大物も仕留める高ランク冒険者だったようだし。


 「身元の分からない人は、この鑑定を基に試験を受けて、冒険者として登録して貰ってそれを身分証明にしたりね。スキルや魔力を参考に、求人の出ている商店や工房の住み込み見習いになるのもあるかな。そうやって、ここでの生活を始めるとっかかりにするってのが多いね」

「じゃ、スキルも魔力もない、俺みたいなのって……」

 恐る恐る訊いてみると、ラーシュさんの表情が渋くなり、口調も歯切れが悪くなる。


 「ん~、奴隷として買われて誰かの庇護下に入るとか。明日をも知れない日雇いみたいなのに比べればまだましかな」

 この世界に、俺みたいなのには基本的人権なんてないのかもしれない。

「もし自信と興味があるなら、愛妾という線もあるよ。敢えておすすめはしないけど」

 ムム、今俺の顔見て笑ったでしょ……っつーか何の自信だよ、ねーよどうせ。

「もちろんギルドとしても、犯罪に加担されたり搾取の対象になったりは絶対に避けたいから、購入者の身元と移籍後の動向に関しても、厳しくチェックが入るから、その点は安心していいよ」

 こういう時の支配者層の笑顔って、ホント怖いね。


 「でも君は、穴から出てきた魔力を持たない小さい人だからねぇ……」

 ラーシュさんがつぶやいたとき、部屋の奥からカタン、と小さな気配が……びっくりしてそちらを見ると、深刻な顔をしたギルマスが立っていた。

 隣のギルマスの部屋につながるドアが、部屋の奥にあったらしい。


 大股でこちらにやってくるギルマスの手には、小さなガラス瓶が握られている。

『××××××××××?!』

 えらい剣幕にビビりつつ、ラーシュさんの顔を見る。

「君はこれが何だか分かる?」

 受け取った瓶の中には茶色のつぶつぶ、前の世界では割とありふれたものの名を俺は答える。

「コーヒー、ですよね?」

 それを聞くや、ギルマスは叫んだ。

『×××コーヒー×××××××!!』


   ◇   ◇   ◇


 その後一同……ギルマス、ラーシュさん、俺、サーラさんの四人は、冒険者ギルドの一階に移動した。

 ギルマスや副ギルマスの部屋がある二階から、終日冒険者たちでごった返す一階へ、ゆったりとL字を描いてカーブする吹き抜けの階段。

 階段の横には、物置にしか見えない小さなドアがある。

 ギルマスは、みんなが固唾を呑んで見守る中、震える手でその鍵を開けた。

次回は、2021年11月15日月曜日18時頃の公開を予定しています。

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