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01 目が覚めたときには

ご覧いただきましてありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 しぶとい残暑もやっと去り、だいぶ過ごしやすくなったある日、俺こと鈴木良一は、外回りの途中に駅の階段で転落した。

 よろけた女性に咄嗟に手を貸した後、何かに足元を掬われるような感触があり、気が付いたら身体が宙に浮いていた。

 あれが走馬灯というものだろうか、あ、これはヤバイと思うと同時に、過去の記憶がダイジェストで目の前をよぎる。

 これは下手したら入院かなぁ、冷蔵庫の期間限定プリン食べておけばよかった……つか、この繁忙期に俺が戦線離脱したら会社しっちゃかめっちゃかだろ、部長ゴメンナサイ……とつぶやいたところで意識が途切れた。


   ◇   ◇   ◇


 次に目が覚めたときには、とにかく全身が痛かった。

 戻った意識がふたたび遠ざかるほどの激痛の中、気合で目を開けると、辺りはなんだか白っぽい。

 適度に明るくて暖かく、清潔なリネンの香りがする。

 どうやら俺は、病院のベッドのようなところで寝かされているらしい。


 俺、助かったの? てかここどこだ? 今日は何日?

 少しずつ手足に力を入れ、動かせることを確認して、痛みに耐えながらゆっくりと起き上がってみる。


 「うわぁ! びっくりした!!」

 すぐ近くで若い女性の叫び声が聞こえたが、びっくりしたのは俺の方だ。

 その声の主は、黒く長いワンピースの上に白いエプロンをかけ、頭にはホワイトブリムを飾ったヴィクトリアンメイドスタイルに加え、耳まで付いた猫耳メイド姿だった。


 ネコ目のカラコンが入った瞳孔は驚きに全開し、ケモミミもぶわりと毛が逆立っている。

 随分と凝った作りだなぁ……あれ、ここって秋葉原だっけ?

 ぼんやりする頭で必死に考える俺に、表情を繕った猫耳メイドが取り澄まして話しかける。

『××××××××××××?』


 ん? 今なんて言った? 何語だコレ全くわからないぞ?

 あれ? という顔になった彼女は再度俺に問う。

『××××××××××××?』

 またしても頭上にクエスチョンマークを量産しつつきょとんとしている俺に、彼女はもう一度問いかける。

「もしかして、私の言葉、わかる?」

「はい、わかります……」


 猫耳メイドにしてはちょっとトウが立ってる気もするが、顔立ちの整ったなかなかの美人が、えっ何で? などとつぶやきながら、至近距離でまじまじと俺の顔を覗き込む。

 まつ毛長いなぁ、それになんかいい匂いする……っつーか近い近い近い!

「ちょっと待ってて、今ギルドマスターを呼んでくるから……あっ、お水飲む?」

 情報処理が追い付かず頭の中がぐるぐるフリーズする俺に、枕元のテーブルに置いてあったピッチャーからコップに水を注いで持たせ、猫耳メイドはバタバタと飛び出していった。


   ◇   ◇   ◇


 ものの数分で、猫耳メイドは、五十代くらいの男性を連れて戻ってきた。

 背は軽く二メートル以上はありそうで、めちゃめちゃ筋肉質の身体は健康的に日焼けし、仕立ての良さそうな上着をまとっている。

 髪はちょっと少な目になってはいるものの、精悍な顔立ちに温厚な笑みをたたえて清潔感もあり、若い頃はさぞモテたろうなというタイプである。


 男性は、上半身を起こした状態でベッドに座った俺の横に立ち、話しかける。

『××××××××××××』

 やっぱりだ、何を言ってるかさっぱりわからない。

 迷う目線を猫耳メイドに向けると、やっぱりねという感じのやり取りを男性と交わし、彼女が通訳をすることになったようだ。


 「私は、ここウムネスの冒険者ギルドのギルドマスターをしている、ヒューゴといいます、とおっしゃってます……あ、私の名前は、サーラっていいます」


 ん? 今何と言いました?

「……あの、つかぬことを伺いますが、ここはどこなんでしょう?」

 以下は、サーラさんの通訳をはさんで、ヒューゴさんが説明してくれた内容だ。



 ここは、ミュルダール王国の王都から馬で北東に七日ほどの、ウムネスという中規模の街で、俺はここから南に馬で半日くらいの山脈の中にある『迷いの洞窟』で、二日前に発見された、らしい。

 迷いの洞窟には、かなり昔に邪法に堕ちた魔術師が開けた『穴』があり、違う世界の人や物をこちらの世界に転移させる為に使われていたそうな。

 似たような穴は王国内に複数あったが、そのほとんどは無効化してあり、件の魔術師も既に処刑されているとのこと。


 その穴を使用することは厳しく禁じられているのだけれど、何らかの条件が揃うと、いまだにその術が稀に発動してしまうという。

 異物の出現は周期があり、そろそろ大物が出そうだからと警戒していたところに、この俺が転移してきたと、つまりはそういうことのようだ。



 「……で、これからのこととかもお話ししたいんですけど、担当の副ギルドマスターが明日、出張から戻りますので、それからの方がよろしいかと思いますです」

「そうですね、それがいいと思います」

 俺、もうお腹いっぱい……処理が追い付いてません。


 今俺がいるのは、冒険者ギルドの救護室のようなところで、発見された二日前に担ぎ込まれてきてから、ずっと眠り続けていたらしい。

 常駐医の診断によると、特に目立った外傷も病気もなく頭を打ってもいない、眠っているのは転移酔いのような症状だとのこと。

 目が覚めて気分が悪くなければ帰ってよろしい、何かあったら呼んでと言い残して、常駐医は定時で既に帰宅済だ。


 「隣の棟に、冒険者さん用の宿舎があるので、歩けるようでしたらそちらに移動しませんか? お食事も用意できますし、シャワーも使えますから」

「ぜひお願いします!」


 ヒューゴさんに支えられてふらつく足でベッドから降り立ち、サーラさんの後ろについて渡り廊下を歩く。


 途中の窓から眺めた異世界の空は見事な夕焼け。

 先の全く読めない俺の状況はさておいて、明日はいい天気になりそうだ。

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