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13 良いお年を

本年は私の作品にお付き合いくださりありがとうございました。

まだまだお話は続きますので、来年も楽しんでいただけるよう頑張ってまいります。

※次回は明日、2022年1月1日土曜日18時頃の公開を予定しています。イレギュラーですが、お正月なので本編を更新します。

 「年末年始のシフトを決めるのに、みんなの希望を集めているんです」

 夕方のラッシュの少し前くらいに、カレンダーと記入表のようなものを持ってサーラさんがやってきた。

 世間一般には長期休暇となる時期なので、シフトを組む係は大変らしい。


 この世界のカレンダーは、ひと月が三十日で、一の月から十二の月までの十二ヶ月があり、年の改まる十二の月と一の月の間に、冬まつりの休暇が五日間ある。

 冒険者ギルドは、この五日間のうち最初と最後の日はほぼ通常通りの営業で、中の三日間が特別シフトとなるらしい。

 前の世界で言うと、感覚的にはこの三日間が、大晦日、元日、正月二日目に当たるようである。


 三日間は、悪天候や猛獣の襲来のような緊急事態以外のクエストは、基本的に受注発注ともになく、買取や解体などの業務も休みとなる。

 当然職員の人数も少なくはなるが、ギルドを閉鎖してしまうことはないらしい。

 むしろこの期間は、中級以上の冒険者に緊急時に備えての待機を頼むため、昼の時間帯はギルドに詰める冒険者もいるという。


 この待機要員は、出動の有無にかかわらず少額だが手当てが付き、呼ばれてすぐ出動が可能であれば待機場所はギルドでなくても構わない。

 但し、呼ばれたときに酔っぱらっていては役に立たないので、酒を飲んではいけないという、絶対に外せない条件が付く。

 そのためか、この三日間は、ギルドでの待機を希望する待機要員が一定数いるそうだ。

 それに加え、家にいると子供に小遣いをせびられるからとか、一人暮らしだから暖房費の節約だとか、ここに来れば誰かいるからとか、なんだかんだと理由をつけて、ノーギャラでも構わないと集まってくる冒険者が例年そこそこいるらしい。

 ちなみにこの、頼まれていないのに集まってくるひとたちに関しても、飲酒は禁止である。


 「だったら、俺も店、開けようかなー、やりたいこともあるし」

 帰れる実家もないし、ちょうど考えていたメニューを試作するのに良さそうなので、三日間は若干時短をするかもしれないがすべて営業することにする。

「働き過ぎじゃないの? ちゃんと休まなきゃだめよ」

 笑いながらもサーラさんは俺の予定を書き込んでくれた。


 その前後に、今の営業ペースのままで三勤一休を記入してもらいつつ表を見ると、副ギルマスのラーシュさんの欄に五日ともバツが付いているのが目に入る。

「ああ、これね。毎年冬まつりの五日間は、ギルマスの一声で副ギルマスはお仕事禁止なのよ。たまには実家にでも帰りなさい、って良く言ってるわ」

 俺の目線に気付いたサーラさんの説明によると、何でも、副ギルマスは出張も多く一年中働き過ぎだからと、ここで強制的に連休を取らされるようだ。


 やっぱりラーシュさんの実家ってエルフの里なのかなー、どこか深い山の中にでもあるのかなー、なんて思ったのは内緒である。


   ◇   ◇   ◇


 そして十二の月の最終日にして冬まつり休暇の前日、昼過ぎくらいにラーシュさんがひょっこりやってきた。

 ラーシュさんは明日から休みに入るので、年内に顔を合わせるのは今日が最後である。


 「結構溜めちゃってたね、ごめんねー」

 執務室を片づけているときに、コーヒーをテイクアウトしたカップが五つばかり出てきたらしい。

 そのくらいの数なら想定の範囲内なので大丈夫である。

 ちなみにギルマスのヒューゴさんもしょっちゅうテイクアウトしているが、こちらは三つくらい溜まった時点で秘書のサーラさんが戻してくれている。


 ラーシュさんからカップを受け取り、ついでに一杯貰おうかなと言われて、ドリップに取り掛かる。

「まさかもう一度、ここでこうやってコーヒーが飲めるようになるなんて、思わなかったなー。私たちは、君との出会いに本当に感謝しているんだよ」

 ストレートに喜びを表現されて、少々くすぐったい思いを噛み締めながら、俺は新しいカップをすすめた。


   ◇   ◇   ◇


 元の世界では、コーヒーに含まれるカフェインは眠気覚ましとしてよく知られ、集中力が増して疲労感が軽減する、と広く一般的にも認知されていたと思う。

 どうやらこの世界でも同様の効果があるようで、特に魔力の高いひとたちには、その力が増幅するように感じられる、らしい。


 なんて話はさておいても、コーヒーは美味しい。

 その香りを嗅ぐだけでささくれた気持ちも落ち着くし、ひと口含めば腹の底からほんわかと丸くなる。

 そしてその喜びを一番味わえるのは、コーヒーを焙煎したり、挽いたり、ドリップしたりしているそのときなのだ、と俺は常々感じている。

 勿論そんな体験をできる機会は、魔力云々を別にしてもそうそうないと思うので、それが少しでも伝わるといいなと念じつつ、日々カップを手渡しているのだ。


   ◇   ◇   ◇


 ラーシュさんの目の下には相変わらずうっすらクマが……この休暇で少しでもゆっくりできるといいですね。

「どうも御馳走様。じゃあ、リョウさんも良い休暇を過ごしてね」

 じっくりと味わった後で、ラーシュさんは空いたカップを戻しながら微笑む。

「ラーシュさんも、どうぞ良いお年を」

 笑顔で返すと、ラーシュさんの目が新しいおもちゃを見つけた子供のようにキラーンと光った。


 「良いお年を? それはどういう意味なの!」


 何気なく発した言葉だったが、ラーシュさんと会話しているとこういうことがよくある。

 こうでなきゃマルチリンガルにはなれないんだろうなー、これはもう立派な言語フェチだな。


 「ああ、これは俺の前いたところの言い回しで、仕事とかで日頃顔を合わせているひとと、その年の最後に会って別れるときに言う挨拶なんです。今年の終わりを気分よく過ごすことができて、新しく迎える年が幸せな年でありますように……みたいな意味ですかね」

「へぇー、いい言葉だねぇ。君が前いた世界の人は、美しい言葉を使うんだねぇ」


 なぜか彼の心の琴線に触れたようで、ラーシュさんは興奮気味に何度も口の中で繰り返し発音してみている。

 自分が元居た世界の文化を手放しで褒められ、誇らしいような、ちょっと不思議な気分だ。


 「じゃあ、良いお年を!」

「良いお年を!」


 笑顔で去っていくラーシュさんを見送る。

 年明けに、明けましておめでとうございますって言ったら、また食いつかれるだろうか……なんて想像して、ちょっと笑ってしまった。


それでは皆様も、どうぞ良いお年を。

※次回は明日、2022年1月1日土曜日18時頃の公開を予定しています。イレギュラーですが、お正月なので本編を更新します。

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