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10 リョウちゃんのおリボン

ご覧いただきましてありがとうございます。

 「……ってなことがあったんですよー」

 ギルマスのお孫さんとほぼ入れ違いに、非番のサーラさんが子供を二人連れてやってきた。

 コーヒーのお客が途切れたタイミングで声をかけてくれた彼女に、さっきまでのやり取りを掻い摘んで話す。


 今日のサーラさんは、ズボンをはいた動きやすいスタイルの、レアキャラである。

 ギルドの近くにある、冒険者向けの武具工房で働く旦那さんのところへ、子供たちと一緒にお弁当を届けた後、街外れにあるちょっとした森に、気軽な採取を兼ねてピクニックに行くのが、彼女の休日の定番だという。


 結婚を機に引退したけれど、サーラさんも旦那さんも、元はそこそこ腕の立つ冒険者だったらしい。

 余談だが、最初の日に貸してくれた古着は、サーラさんが現役時代に着ていたもので、他にも職員や冒険者の有志から、まだ使えるけど着なくなった服を寄付してもらい、緊急時などに備えて、洗って仕舞ってあるのだそうだ。


 お兄ちゃんがミーコくん四歳で、妹ちゃんがテアちゃん三歳、たびたびギルドにも来ているため、職員のみんなとも顔なじみである。

 二人ともめちゃめちゃ元気で、走り回ったりかくれんぼをしたりして遊んでいるが、大声を上げることもなく、他の大人たちの邪魔にならないように周りをちゃんと見ているあたり、躾が行き届いているというか身体能力が高いというか。


 「そうなんだー……ってことはつまり、獣人語が分かるってのみたいなカンジで、リョウさんは小っちゃい子とも会話ができてるっていうことかしら……。もしかしたら同じ子が喋っているのも、私とリョウさんでは違うように聞こえていたりしてねー」

「昔から全然知らない赤ちゃんとかに、すれ違いざまに不思議な顔してじぃーっと見つめられたり、目が合うなりケラケラ笑われたりすることは良くあったんですよ」

 なもんで、あの子たちの目には俺がどういう風に映っているのか、一体何が見えているのか、一度訊いてみたいと常々思っていたのだ。

 今ならその答え合わせができるかもしれない。


 冗談交じりに喋っているところに、ミーコくんとの追いかけっこの途中で、テアちゃんが戻ってきた。

 サーラさんに駆け寄って飛びついた勢いのまま甘えてまつわりつき、俺の方をチラッと見ては、キャハっと照れたように目をつぶって、サーラさんの後ろに隠れてしまった。

 柔らかな被毛に覆われた耳と尻尾がピョコピョコ揺れる様は、子猫に通じるかわいさがある。

 俺は断じて幼女趣味ではないが、これはかわいいの言葉を謹んで進呈せずにはいられない。


 お母さんの陰からピコっと顔を出すと、澄んだ瞳で俺をじぃーっと見つめ、まだ犬歯も短い小さなお口で、テアちゃんははっきりこう言った。


 「リョウちゃんのおリボン、かわいいね。キラキラしてて、きれいねー」


 そこで、見つけたーというミーコくんの声が聞こえ、テアちゃんは再び転がるように駆け出す。

 無言で見送る俺とサーラさん……そしてしばしの後、サーラさんは口を開いた。

「……ねえリョウさん、今の、何て聞こえた?」

 俺は聞こえたそのままを、正直に答える。

「リョウちゃんのおリボン、かわいいね。キラキラしてて、きれいねー……だって。かなりはっきり喋ってましたよ」

 ちなみに俺は、おリボンはつけていない。

「やっぱりかー、まだ舌っ足らずで全然口が回ってないけど、私にもそんな内容には聞こえたわぁ」

 休日のせいか驚いたせいか、口調が思いっきりカジュアルバージョンになってますね、サーラさん。

 さすが母親、滑舌は悪くても内容は理解できるらしい……ん? ということはやはり俺が聞き取っている言葉と、サーラさんが聞きとっている言葉は、厳密に言うと違うということになるなあ。


 いや、それもだけど、俺のおリボン、って何のことだろう。


 サーラさんは少し考え込み、言おうかどうしようか迷うような顔をした後、こう言った。

「あの、実はね、リョウさんがコーヒーの石臼を回してる時とか、あと、お湯を注いでぐーるぐーるってしてる時に、時々なんだけど、リョウさんの後ろに……大っきな猫じゃらしが見えることがあるのよ。それがねぇ、キラキラでふさふさしてるの」


   ◇   ◇   ◇


 「遅くなっちゃうし、そろそろ行くね」

 次のコーヒーのお客が来たのをきっかけに、サーラさんは立ち上がる。

 だいぶ日も短くなってきてるし、子供連れならなおのこと明るいうちに家に着いた方がいい。


 これから向かうという浅い森では、この時期ならキノコや木の実が採取できるそうで、自宅消費程度の量なら、この街の住人なら特に届け出などしなくても誰でも利用ができる。

 冒険者は引退したサーラさんも、こうして採ったもので毎日の食卓を潤わせたり、保存食にして冬の間の食生活を豊かにしたりするそうである。

 お母さんは大変だなぁと感心するが、こういう体験はきっと子供にとって楽しく貴重な思い出になるに違いない。

 もしかしたら、既に冒険者になるための英才教育が始まっているのかもしれないな。

 微笑ましくも将来が楽しみな二人である。


 サーラさんに促されて、ミーコくんとテアちゃんがバイバーイと手を振る。

 それに応えてカウンターの中からバイバーイと手を振り返すと、キュピーン! と目を輝かせたミーコくんが言った。


 「今度はリョウちゃんのボール投げて遊ぼうなー!」


   ◇   ◇   ◇


 三人の反応から想像するに、その人にとって価値のあるもの、興味を惹かれるものを、俺が持っているように見える、ということだろうか。

 そして俺が何かに集中していたり、楽しい面白いと感じていたりしたら、それがキラキラしたりして、より魅力的に映る、とか?


 「そうか、俺は、リボンで猫じゃらしでボールだったんだ……そりゃあ、猫も子供も振り返るよなぁー……なんじゃそりゃ!」

 ボケたところでツッコんでくれる人は、ここにはいない。


 淹れたてのコーヒーをトレーに乗せ、俺はフロアに降りた。

『お待たせしましたー』


次回は、2021年12月17日金曜日18時頃の公開を予定しています。

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