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西洋騎士


 にこにこしながら、空が妖精たちにクッキーを渡す。

 一枚一枚丁寧に手渡し、妖精の列が縮んでいく。

 最後の一枚を渡し終えると、互いに手を振り合って妖精たちは消え去った。


「満足したか?」

「うん。大満足!」


 よほど気に入ったらしい。

 妖精関連は今後も空に任せようか。


「そこそこ集まったし、この先を見たら引き返すか」


 長い通路の奥を見据えて、帰りのことを考える。

 来た道を戻るのにも体力は必要だ。

 俺は不死身で平気だけど、空のほうはそうもいかない。

 ペース配分を考えていかないと。


「それにしても一度も罠に掛からなかったね。そのほうがいいけど」

「憶えてるところは全部回避してるからな。でも、あんまり気を抜くなよ。俺の知らない罠だってどこかにはあるんだ。ここにあったって可笑しくない」


 そう言い終わった直後、靴底に違和感を憶える。

 なにか硬い物を踏みつけたような感触。

 嫌なのは踏みつけて、地面が平らになったことだ。

 まるでスイッチを押したみたいに。

 その予感は当たっていて、両隣の壁が開く。

 そして大量の矢が射かけられた。


「あぁ、もう」


 即座に両手を左右へと伸ばして黒炎を放つ。

 死の炎に触れた矢の群れは一本残らず跡形もなく燃え尽きた。

 昔の俺なら今ので射殺されていたな。


「ほらな?」

「ほらな? じゃないよ! だ、大丈夫なの!?」

「あぁ、掠りもしなかったから平気だ」

「あー、びっくりしたぁ」


 罠に掛かった訳でもない空が一番焦っていた。

 それをすこし可笑しく思いつつ注意深く通路を進む。

 警戒の甲斐あってか罠には特に掛からず、最奥にある扉の前まで辿り着く。

 装飾が施された分厚い扉を押し開くと、広い空間が視界に広がった。

 内部の構造は聖堂を思わせ、大きなステンドグラスから射す七色の光が伸びている。

 左右には石柱が並び、中心には一体の西洋騎士が剣を握り締めて佇んでいた。


「意味深な鎧だな」

「動くかな?」

「たぶんな」


 動くと思っていたほうがいい。

 そして案の定、俺達を完治した西洋騎士が動き出す。

 古びた金属を擦り合わせたような嫌な音を発し、その兜のうちが光る。

 その様子を見るに、ゴーレムみたいだ。


「俺が相手をする。援護を頼んだ」

「うん、任せて」


 ゆっくりと近づいてくる西洋騎士に緊張しつつも、空は杖をしっかりと握り締める。

 スキルである光剣も展開し、援護の用意も出来ていた。

 それを確認しつつ刃を交えようとしたのも束の間、不意に背後から異音がする。

 急いで振り返ると、正面の西洋騎士とまったく同じ見た目をした鎧が着地を決めていた。

 折角の聖堂が、それで砕けている。


「どっから降りてきたんだ?」


 天井を見上げてもそれらしい場所はない。

 貼り付いていたのか、それとも空中に出現したのか。

 とにもかくにも、敵が二体になった。


「ど、どうするの? 篝くん」

「そうだな……」


 じわりじわりと重量を感じさせる動きで西洋騎士が近づいてくる。


「空、後ろの奴を任せていいか?」

「え、えぇぇええっ!? わ、私が!?」

「あぁ、そのスキルなら時間稼ぎくらいできるはずだ。その間に正面の奴をどうにか始末する。できるか?」

「えーっと、えーっと」


 かなり動揺しているようで目が泳いでいる。

 決断を待ってやりたいところだが、そう時間もない。


「無理ならそう言ってくれ。だが、俺は出来ると思ってる」

「篝くん……」


 でなきゃ、口に出したりはしない。


「わ、わかった。出来るだけ、やってみるね」


 空は意思を固めて、背後の西洋騎士に向き直った。


「いい返事だ。行くぞ」


 正面の西洋騎士へと駆け出し、光剣が背後へと飛ぶ。

 一息に駆け抜けて距離を詰めると、握り締めた黒刀で一撃を見舞う。

 黒い軌跡を描いて落ちた鋒は、けれど差し込まれた剣によって阻まれた。


「硬いな」


 通常の得物ならそのまま焼き切れたはずだが、刃が融解する素振りはない。

 ゴーレムとしての機能か、剣そのものに施された魔法か。

 とにかく売れば結構な金額になりそうな剣だった。


「おっと」


 流石に力比べでは西洋騎士に敵わない。

 張り合うことはせずに素直に引くと、剣先が聖堂の床を打ち砕いた。


「あーあ、もったいない」


 埋まった剣先を持ち上げて、緩慢な動きで剣が振るわれる。

 それを軽く躱して側面に回り込むと、左手に黒炎を灯して放出した。

 火炎放射が西洋騎士を包み込んで燃え上がるが、その動きは止まらない。

 中身がもしいれば蒸し焼き状態のはずだが、西洋騎士の動きに乱れは見られなかった。

 黒炎を払うように剣が薙がれ、それも躱して一度距離を取った。


「よし、だいたいわかった」


 西洋騎士の鎧の表面が軽く融解している。

 あの鎧の素材が何であるかは定かじゃないが携えた剣より耐性が低い。

 つまり、黒刀の一撃が鎧には通る。

 そう推測を立て、西洋騎士を見据えて駆けた。

 振り下ろされる剣撃を紙一重で躱し、すれ違い様に一刀を見舞う。

 黒い軌跡を引いて黒刀が食い込み、その火力で鎧を焼き切る。

 更に剣圧を強めれば、簡単に右腕を刎ね上げられた。

 握り締めていた剣と共に片腕が宙を舞う。


「さぁ、次だ」


 得物と右腕を奪い、背後に立った俺は振り向きざまに黒刀を薙ぎ払う。

 腰のあたりを狙って水平に剣撃を繰り出し、西洋騎士から足を奪う。

 胴から下を失って胴体だけになり、畳み掛けるように左肩へと黒刀を振り下ろす。

 左腕もあっさりと切り離され、鈍い音を立てて聖堂の床に転がった。


「鎧より剣のほうが優秀だったな」


 床に突き刺さった剣をちらりと見つつ、その背中に刃を入れる。

 こじ開けるとゴーレムを動かしているコアが顔を見せた。

 機械的な構造に魔法の要素が組み合わさった、ハイブリッド技術。

 第一階層にいたゴーレムもこれを模倣した技術のコアで動いている。

 これを壊せば西洋騎士の活動は停止するが、そんな勿体ないことはしない。


「あつっ」


 火炎放射を浴びせたせいでコアは熱を帯びていた。

 白炎で手の平を保護しつつ取り出すと、西洋騎士は動力源を失って停止する。

 このコアも貴重な収入源だ、回収するに越したことはない。

 魔法で開いた空間の狭間に仕舞い、敵の無力化が完了した。


「空のほうは――」


 敵戦力を一体削り、急いでもう一体のほうへと意識を向ける。

 視線の先に見たのはいくつもの光剣が突き刺さった西洋騎士だった。

 四肢の関節部にそれぞれ突き立てられている。

 可動部に異物が刺さっているせいか、まったく身動きが取れていない。

 俺とは違うやり方で、空は敵の無力化に成功していた。


「初心者とは思えない戦法だな」


 あの様子なら光剣が消えない限り動けない。

 とりあえず床に突き刺さった西洋騎士の剣を引き抜いて回収する。

 それからゆっくりとした足取りで空のもとまで歩いた。


「賢いやり方だ」

「あ、篝くん。が、頑張ったら出来ちゃった」

「意外と、戦闘のセンスがあるのかもな」


 本人は補助系統の魔法が得意なのに、スキルは攻撃に特化している。

 なかなかどうして面白い構成だ。


「ほら、こっちだ」


 正面で西洋騎士とにらみ合っている空を呼んで背後へと回る。


「背中を開けばコアが出てくる」

「こ、こう?」


 身を守るための光剣で背中を開き、内部のコアを露出させた。

 稼働中のコアを両手で掴み、力一杯ひっぱる。


「よし……しょっ」


 無事にコアの取り外しに成功し、西洋騎士は機能を停止した。


「思ったよりも重いんだね、コアって」


 片手で持てるくらいの重さのはずだが、空には両手が必要みたいだ。

 その腕力だと得物は振れそうにない。

 成長の余地があるのは、やっぱり今の戦闘スタイルか。


「ふぅ……」


 コアが空間の狭間に仕舞われ、一息をつく。


「俺の言った通りだったろ?」

「うん、そうだね。篝くんが出来るって言ってくれたから出来ちゃった」


 空は嬉しそうに微笑んだ。


「私、これからも頑張るね」


 一つの成長と共に、俺達の初仕事は成功という形で幕を下ろした。

 第五階層はこれにて終い。

 次は第六階層だ。

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