魔物にスキルを試す盗賊
ロックゴーレムから能力値を盗み、強くなる事が出来た。
となれば次は、【スキル】を盗めるか試してみたい。
だが命の無いゴーレムは【スキル】を持っていないので、ゴーレムファクトリーに居る魔物を探してみる事にした。
早速【索敵】で、周囲50メートルの魔物を調べてみたのだが……感知範囲ギリギリの所に数体だけ反応がある。
「なあメシア、ここってダンジョンなのに魔物が少なくないか? まあその分、ゴーレムがかなり居るけどさ」
「ゴーレムファクトリーは、その名の通りゴーレムが作られる……魔物がゴーレムにちょっかいを出して、逆に狩られるから……」
「魔物の数が少なく見える……じゃあ、ゴーレムファクトリーで魔物と戦うのは難しいんだよな?」
「うん、そうなる……次は魔物を探すの……?」
「スキルを盗む派生技が、どんな感じか試したかったからさ……でもここに来たのって、ゴーレムの核を集める為だろ? その目的は果たしたし、【盗む】の派生技で凄く気になるのは試せた。だから、別に今度でも良いんだよ」
「魔物……見つからなかったの……?」
「いや、見つかったけど……【索敵】範囲の50メートルギリギリで……」
「うん……? それなら【転移魔法】で行けば良いでしょ……?」
「そうだな、【転移魔法】なら直ぐ……んんっ?」
今、メシアはなんて言った……?
離れている魔物の所まで、【転移魔法】で行くって言ったのか……!?
【転移魔法】って……数千年前に実在したと言われる魔王を討伐した伝説のパーティー、その中の『魔術師』が使っていたって【スキル】らしい。
だけど今まで実際に【転移魔法】を習得した冒険者は居ない。
メシアの冗談……いや、今の言い方は出来て当然みたいな感じだった気がする。
「ローブ、魔物居る方角は……?」
「大体、こっちの方かな……」
俺が示した方向を向き、目を閉じて少しだけ集中するメシア。
足元に魔法陣が出現し、メシアの魔力が注ぎ込まれていく。
一定の魔力が溜まったのか、魔法陣が強い光を発した瞬間……
「……本当に、転移した?」
ダンジョンの通路なので景色は変わらないが、俺の目の前に剣と盾、胸当てを装備した二足歩行のトカゲが居る。
このトカゲは……Bランクのリザードマンだったか?
確か【剣技】と【盾技】のスキルを保持しているモンスターの筈。
メシアの【転移魔法】は本当だったんだな……取り敢えず後で礼を言うとして、まずはリザードマンからスキルを盗む!
「メシア、何かあればサポート頼む!」
「うん……任せて……!」
メシアに呼びかけると、その声でリザードマンが俺達の事に気付く。
今回は先手必勝と言わんばかりに、俺の方からリザードマンに駆け出した。
今までよりも体が軽いし、足も速い……!
ロックゴーレムの能力値が、自分に加算されていると実感できる!
これなら、上手く戦えるかもしれない!
「見えるっ!」
リザードマンは盾をしっかりと構えつつ、剣を振り下ろしてくる。
しっかりと動きを見極め、最小限の動きだけで回避した。
今度は俺の反撃の時間、胸当てを狙った掌打の一撃。
しかしリザードマンは丸い盾を正面に構えて、素早く防御の姿勢を取る。
人間の素手の一撃なんて、魔物なら防げて当然だろうな……だが、これは攻撃じゃない。
「その盾貰った! 【盗む】装備を盗むッ!」
▼リザードマンから バックラー を盗んだ
派生技を宣言しながら盾に掌打を叩き込んだ瞬間、俺の右手にバックラーが握られている。
普通の【盗む】では相手が装備している武具を盗めないが、この装備を盗むに関してはその逆。
相手が装備している武具を、盗んだ上で装備できる
装備を盗む事に成功した俺は、掌打の勢いを利用してその場を一回転。
何が起こったか理解できず、目を丸くしているリザードマンの顔面に盾をお見舞いしてやった。
「良しっ、悪くない!」
盾で殴られたリザードマンは、威力に耐え切れずに大きく吹き飛ぶ。
ロックゴーレムの筋力が全て俺に上乗せされているんだ、そう簡単に受けきられても困る。
「凄いよローブ……! リザードマンを素手で吹っ飛ばしちゃうなんて……そこらの『拳士』でも出来ないよ……!」
「能力値が高いと、こんなに戦えるんだな。しかも俺は人間の能力値じゃなくて、魔物の能力値で戦える。一応、リザードマンからも盗めるんだよな……?」
「早くした方が良い……アイツ、起き上がってこない……」
「マジでっ!? 死んだら流石に盗めない!」
ずっと倒れたままのリザードマンに駆け寄ると、白目を剥いていたが何とか呼吸をしている。
少しだけ上下する胸の上に手を置き、俺は先程ロックゴーレムから何も盗めなかった派生技を宣言した。
「今度こそ成功してくれよ……スキルを盗む」
リザードマンの体が薄暗くなり、俺の体が白く輝いた。
そしてお決まりの声が頭の中に響いてくる。
▼リザードマンから 【剣技】 【盾技】 を盗んだ
良かった……今度はちゃんと盗む事が出来たようだ。
リザードマンが持っているスキルは2つ。
【剣技】は片手剣を装備する事で、ステータスの補正や剣を使った派生技を覚えられるスキル。
【盾技】はその片手盾バージョン、違いは補正するステータスや派生技が攻撃ではなく防御という点だろう。
習得してから気付いたが、どちらのスキルも元パーティーの『剣士』ソルマが扱っていたスキルだ。
まあ、だから何だと言われればそれまでなんだけど……
「スキル、盗めた……?」
「ああ、ついでにこのまま能力値もいただくよ。能力値を盗む」
別の派生技を発動させ、再びリザードマンと俺の体が反応。
だが、聞こえてくる声が予想と少しだけ違った。
▼リザードマンの MPとAGIとINTとMND がローブに加算された
……アレ、他の5つは盗めなかったのか?
一体、何が理由なんだろう……
隠された制限みたいなのが、あるのかもしれないな。