ゴーレムにスキルを試す盗賊
俺達を認識したロックゴーレムは、ダンジョンの侵入者を排除する為に加速してくる。
ロックゴーレム、確かモンスターとしてのランクはBだ。
岩石の体は剣や弓を通さず、ハンマーや魔法を使えるメンバーが居ないなら戦いを避けた方が良い。
勿論、Fランクで『盗賊』の俺が間違っても戦う相手じゃない……筈だった。
「さあ、来いっ!」
真っ直ぐと走ってくるロックゴーレムに対し、俺は重心を下げて低く構える。
ロックゴーレムは右拳を振りかぶりながら跳躍、そのまま叩きつけるかのように右腕を振り下ろしてきた。
この重たい一撃、普通なら避けるのが正解だろう。
だが俺は迎え撃つように右手を突き出し、派生技を宣言した。
「【盗む】威力を盗むッ!」
俺の右手にロックゴーレムの右拳が触れた次の瞬間、ロックゴーレムが大きく吹っ飛ばされた。
「ローブが力で……あの攻撃を、弾き返した……!?」
今のが戦闘向き派生技の1つ、威力を盗む。
その名の通りに相手の攻撃の威力を盗み、俺の攻撃の威力に加算する派生技だ。
相手の攻撃が強ければ強い程、俺の反撃も強くなる。
「まだまだ、お前の強さを盗ませてもらうっ!」
背中から地面に落ちたロックゴーレムへ、一気に駆け寄っていく。
立ち上がろうとしてるロックゴーレムの頭を掴み、次の派生技を宣言した。
「【盗む】能力値を盗むッ!」
派生技を発動させた瞬間、ロックゴーレムの体が一瞬薄暗くなる。
次に俺の体が一瞬白く輝き、頭の中に声が響いてきた。
▼ロックゴーレムの ステータス がローブに加算された
人間や動物、魔物にゴーレム……動くのであれば、ソレには必ず能力値が存在する。
HP、MP、STR、DEX、VIT、AGI、INT、MND、LUKの9つだ。
本来は装備品や地道な特訓でしか増やせない能力値を、派生技に成功すれば相手から問答無用で【盗む】。
直接触れなければ発動できないが、それを差し置いても強力な自己強化……そして相手への凶悪な弱体化だ。
「これで実質無力化出来たな」
ロックゴーレムの頭から手を離し、後ろに数歩下がる。
しかし、ロックゴーレムが立ち上がる事は無かった。
厳密には立ち上がろうとしているのだが、体を起こす事が出来ていない。
自分の体重を支えるだけの能力値が足りていないんだ。
「ロックゴーレム、動けなくなってる……?」
「ああ、もうコイツは戦えないよ。多分、能力値が全て1になってる。動く為の最低値に届いていない筈だ」
「凄いよ、ローブ……『盗賊』なのに、ロックゴーレムに勝っちゃった……! ローブはもう、『盗賊』の中で最強かも……!」
「まあ戦闘が全く出来ない時よりは、マシな強さになれただろうけど……普通の戦闘職に比べたら、俺は弱いよ」
「今は確かに、そうかもしれない……でもローブは、まだまだこれからでしょ……?」
「まあ、もう少し能力値を盗めれば……もう少し強くなれるとは思うけどな?」
冒険者は能力値だけが全てじゃない。
武器とか戦い方とか……他にも【スキル】だって……
「おっと、そう言えばスキルも盗めるようになったんだっけ?」
「おおー……! 折角だし、このロックゴーレムに試してみよー……!」
「ああ、やってみる……スキルを盗む」
▼ロックゴーレムは スキル を持っていない
起き上がろうともがき続けているロックゴーレムに手を置き、派生技を宣言する。
しかし俺の頭に響いた声は、期待していたような物では無かった。
そう言えば……【スキル】を持っているのって、冒険者か魔物だけなんだっけ?
生きていないゴーレムは、【スキル】を持っていないのか。
「スキルは盗めなかった、持ってないってさ」
「そっか……残念」
「ロックゴーレムの核はどうする? 普通の【盗む】も、ちゃんと使えるからさ」
「うーん……じゃあ、お願いしようかな……?」
「了解、【盗む】接触優先」
▼ロックゴーレムから ゴーレムの核・中 を盗んだ
ロックゴーレムの胸にある黄色の宝石に手を伸ばし、普通の【盗む】を発動した。
黄色い球体の宝石を手にすると、ロックゴーレムは静かに崩れ落ちる。
「お見事……流石【盗む】の熟練度最大にした『盗賊』……! ワタシの最高の相棒……!」
「いやいや、大袈裟だって……そう言えばメシア、ふと気になったんだけどさ」
「なぁに……?」
「ゴーレムの核って何に使うんだ? アムルンさんの酒場で依頼を受けたわけじゃないんだろ?」
メシアが来たいって言ったからついてきたけど、何でゴーレムの核を集めてるのかは聞いてなかった。
俺は『盗賊』としての技量を測るのに丁度良かった、とかだと思っているけど。
「ゴーレムの核はねー……」
「ああ、ゴーレムの核は?」
メシアは唇に人差し指を当てて、可愛らしくウィンクをしてくる。
「内緒……王国に戻ったら、話すね……?」
そう言ってメシアはくるりと後ろを向いてしまう。
俺は不意打ちで放たれた幼馴染の可愛い仕草に、顔が熱くなるのが止められなかった。