スキルが覚醒した盗賊
2個目のゴーレムの核・大を手に入れ、俺達は引き続きゴーレムファクトリーを探索していた。
メシアが先制攻撃を仕掛け、俺が突進して【盗む】……これが俺とメシアのアイアンゴーレム必勝パターンになる。
アイアンゴーレム5体目の時も……
「冷えちゃえー……!」
「【盗む】接触優先! 良し、取った!」
▼アイアンゴーレムから ゴーレムの核・大 を盗んだ
メシアが氷塊をぶつけてよろめかせ、倒れるアイアンゴーレムの上を駆け抜けてゴーレムの核・大を盗む。
更に、アイアンゴーレム10体目の時も……
「ビリビリー……!」
「よっと……! 【盗む】接触優先、いただきっ!」
▼アイアンゴーレムから ゴーレムの核・大 を盗んだ
▼【盗む】の熟練度が 一定値に到達しました
▼成功確率が 80%になりました
メシアの鋭い雷撃が動きを止め、停止したアイアンゴーレムの膝を足場にしてゴーレムの核・大を盗んだ。
更に更に、アイアンゴーレム15体目……
「びゅおおー……!」
「【盗む】接触優先、貰いっ!」
▼アイアンゴーレムから ゴーレムの核・大 を盗んだ
メシアの強烈な風がアイアンゴーレムを壁に貼り付け、追い風を受けて高く飛んだ俺がゴーレムの核・大を盗む。
作業のようにやっているけど、頑丈なアイアンゴーレムを確実に無防備にしてくれるメシアは相当凄い。
それだけ高威力の魔法を連発していると言うのに、魔力が枯渇する気配が無かった。
メシアは俺を褒めてくれるが、凄いのは間違いなくメシアの方だろう。
ダンジョンの攻略が楽しい……そう思わせてくれたメシアには、感謝してもしきれない。
◆
ゴーレムの核・大を盗み続け、その数が50に達した時……俺に大きな変化が訪れた。
【盗む】が成功した瞬間に再び体が白く輝き、弾けると同時にまた頭の中に声が響く。
▼【盗む】 の熟練度が 最大に到達しました
▼成功確率が 100%になりました
▼相手が 装備中のアイテム を盗めるようになりました
▼相手の 魔法 を盗めるようになりました
▼相手の スキルを 盗めるようになりました
▼相手の ステータスを 盗めるようになりました
▼【盗む】の 派生技 を多数習得しました
「ん? んんっ……どういう事だ?」
頭の中に響いてきたのは、【盗む】が強化されたという怒涛の声。
えっと……熟練度が最大になったんだよな?
ちょっと熟練度が上がるの早かった気がするけど、それは納得できる。
【剣技】とかのスキルは、敵を一撃で仕留めれば熟練度が早く上がるからな。
【盗む】の場合は、それがレアアイテムを盗むとかだったんだろう。
だけど、この強化は一体……?
「ローブ……? また【盗む】の熟練度が上がった? おめでとー……!」
「あ、ああ……【盗む】の熟練度が最大になったんだ……」
「凄い……! でも何かあった……? 険しい顔してる……」
頭に手を当てて悩む俺を心配してくれたのか、メシアが顔を覗き込んでくる。
俺が1人で考え込んだって仕方ないか……それにメシアのおかげで【盗む】の熟練度が最大になったんだ、その事を真っ先に伝えるべきだろう。
俺の【盗む】に何が起こったのか、頭の中に響いた声を一言一句漏らさずに伝えてみた。
俺の説明を受けたメシアは、不思議そうに首を傾げる。
「なんか……一気に強化され過ぎて変だよな。【盗む】の筈なのに、まるで戦闘職みたいな派生技が使えるようになってる」
「んー……ワタシは変と思わない……【盗む】の熟練度を上げるのは大変……それでも熟練度を最大にした、ご褒美だと思うよ……?」
「ご褒美かぁ……そう言われると、確かに納得出来るような気がする、かな?」
「派生技、折角だから試していこう……? このダンジョン、魔物もゴーレムも弱いから……試し放題だし……!」
「いや俺からすれば、魔物もゴーレムも強いからな? でも……派生技が成功すれば、俺も少しは太刀打ち出来るようになるかもしれない」
特に相手のスキルとステータスを盗めれば、俺は支援職の割に強くなれる。
本来地道に鍛えて上げるしかないステータスが一気に上がったり、増やす事なんてほぼ不可能な筈のスキルを増やせたり……自己強化が容易になる筈だ。
そうなれば、俺はメシアにもっと楽をさせてやれるようになる。
「じゃあ、どうする……? ワタシが相手の動きを止めて、新しい派生技を試す……?」
「いや、最初は俺1人で挑ませてほしいんだ。さっきも言ったけれど、本当に今までの【盗む】とは思えない派生技を覚えてる。使いこなせれば、今の状態でも多少の戦闘は出来ると思うんだ」
「分かった……何かあったら、直ぐにフォローする……だから思う存分、試してね……!」
「メシアが後ろに控えてくれるから、格上のゴーレムが相手にも安心して挑めるよ……ありがとう」
「ううん……お礼を言うのはワタシの方……ローブのおかげで、魔物や罠の警戒しなくていいから……凄く助かってる……ありがとう」
俺達はお礼を言い合って……お互いに照れくさくて、少しだけ黙ってしまう。
そんな気恥しい空間をぶち壊してくれたのは、ドスドスと走ってくる足音。
アイアンゴーレムより一回り小さな岩石の巨人、ロックゴーレムだった。
丁度良い、強化された【盗む】をコイツで試してやる!