鬼女を女騎士と魔術師に紹介する盗賊
ハーティに砂浜の俺達の荷物が置いてある場所まで飛んでもらう。
俺が用意したパラソルが作る日陰の下、メシアがシーリアス王女に膝枕をされていた。
シーリアス王女の膝枕か、ちょっと羨ましいな。
じゃなくて、メシア達に無鬼の事を説明しないと。
「ローブ殿、ハーティ殿、海は楽しめたか? む、そちらの子供は迷子だろうか? 見た所鬼人の子供のようだが……」
「ちょっと事情があってさ、後で説明するよ。メシア、体調はどうだ? ノーフォームを杖にして、上位の【回復魔法】を使っても良いぞ?」
「ううん、大丈夫……ちょっと休んだから、もう起き上がれるよ……シーリアス王女、ありがとう……!」
「うむ、気にしないでくれ」
シーリアス王女の膝枕から頭を上げ、メシアがゆっくりと体を起こした。
俺の顔を見た後に隣に居る無鬼を見て、もう一度俺の顔に視線を戻す。
「ローブの、変態……!」
「まだ何も説明してないんだけどっ!?」
「すまないがローブ殿……実は自分も一瞬、誘拐という言葉が頭を横切ってだな」
「シーリアス王女までっ!?」
「キャー、さーらーわーれーるーのーじゃー!」
「無鬼、お前は悪ノリを……んっ?」
メシアとシーリアス王女からの視線が冷たくなっていった。
悪ノリをして楽しそうに悲鳴を上げる無鬼を注意しようとした俺の肩に、誰かが手をかける。
こんなタイミングで声をかけてくるのは、もしかして……?
「君、少し話を聞かせてもらえるかな?」
「いやあの、そのえっと、これは決して誘拐などではなく――」
「うんうん、詳しい話は詰所で聞くからね」
「…………はい」
無鬼の悲鳴で駆け付けた警備兵に、大人しく詰所まで連行される。
名前や職業、メシア達との関係性に素直に答えた。
それでも信じてもらえなかったので、シーリアス王女に来てもらって王族パワーで乗り越える。
こうなるんだったら、連行される前に頼めばよかった。
やっとの事でシーリアス王女と、荷物の場所まで戻ると……
「だから、ローブ……まだハグまでなの……そういう所は、臆病……」
「それはおのこというのに、情けないのぅ。じゃがメシアも少し押しすぎなのかもしれんな。押して駄目なら引いてみろと言って、敢えてお主がローブを避けてみるのはどうじゃ? 普段と違うお主の態度が、ローブを焦らせるかもしれんぞ?」
「おお、成程……なんか戦いみたいだね……!」
「そうじゃとも。恋とはおなごの戦いよ! 話を聞く限り、ローブは相当の難敵と見た」
メシアと無鬼が、何か楽しそうに話をしている。
凄いな……メシアってかなり人見知りなんだけど、無鬼は出会ってすぐで打ち解けたのか。
俺も初対面なのに、なんか無鬼は話しやすい気がする。
話し込んでいる無鬼の背後に忍び寄り、緩く拳を握った。
「無鬼、お仕置きっ!」
「あいたーっ!?」
「メシアも、お仕置きっ!」
「っ! 仕方ない……!」
無鬼の頭にかなり手加減した拳骨を落とし、メシアの頭に同じように拳骨を落とす。
これで冗談を言った2人のお仕置きは完了し、本題に戻ってこれたと思ったのだが……
「あの、シーリアス王女……何故、頭を差し出してるんです?」
「じ、自分も冗談を言ったので、お仕置きを受けた……受けるべきかなぁ……と」
さっき誘拐を疑っていたのは、シーリアス王女なりの冗談だったのか。
シーリアス王女は何か期待するような上目遣いで、俺をの事をジッと見ている。
王族の人に拳骨か……でも、仲間外れにしたら凹みそうだし。
「分かりました、平等に!」
「きゃんっ!」
結局シーリアス王女にも、かなり手加減した拳骨を落とした。
俺の前には頭にたんこぶを作った、3人の女子。
とにかく、これでやっと本題に入れる。
「えっと、まずは無鬼に俺の仲間を紹介するよ。お前が楽しそうに話していたのが、俺の幼馴染で冒険者のメシア」
「よろしくー……!」
「そしてこちらが俺達が暮らすパトリオット王国の第三王女で、俺の許嫁でもあるシーリアス・パトリオット第三王女だ」
「よろしく頼む」
「ほほう、王族の許嫁か。となるとメシアが愛人かのう? ローブお主、大胆な男じゃなぁ」
「いやまあ……その説明は後ですればいいか。メシア、シーリアス王女、この無鬼は自分の事に関する記憶が全く無いらしい。無鬼っていうのも、俺がつけた仮の名前なんだ」
「しかも、妾は何者かに狙われているらしくてのう。お主らのばかんすが終わったら、ローブに東の国まで送ってもらいたいのじゃ」
「もしかして……さっきハーティが、ローブの方に行ったのは……」
メシアの問いかけに、ハーティが短く鳴き声を上げた。
恐らくハーティは、その通りと答えたのだろう。
うん、何となくハーティの言いたい事が分かるようになってきた。
「ではバカンスの間も、無鬼殿は同行するのだな?」
「東の国にしか居ない筈の龍という魔物が、この辺りまで追いかけてくる程ですからね。傍に居た方が守りやすいです。メシアも同行してくれると、助かるんだけど……?」
「分かった……無鬼、よろしくね……!」
「では少し早いが一度、宿に戻るとしようか? 無鬼殿を少しでも休ませるべきだろう」
「迷惑をかけてすまんのう……」
責任を感じているのか、無鬼は少しだけ悲しそうに俯いている。
その姿が見ていられなくて、慰める為に無鬼の頭を優しく撫でた。
「気にしないで良いよ。それよりも折角のバカンスだ、無鬼も一緒に楽しんでくれ」
「……そうじゃな、言葉に甘えさせてもらおう」




