協力する魔術師と盗賊
今の【盗む】が成功したおかげで、熟練度が上昇したようだ。
【盗む】の場合、熟練度を上げると成功確率やレアアイテムの入手確率が上がる。
さて、今回は何が上がるか……?
▼成功確率が 70%になりました
▼触れたアイテムを 優先的に盗めるようになりました
「おっ、【盗む】が成長したな。しかも、今回の目的に適した方向性の成長だと思う」
「おおー……どんな風に?」
「まずは成功確率が70%になった。まあこれはそこまで喜ぶ事じゃないが、なんと触れた物を優先的に盗めるようになったらしい。これでゴーレムの核にさえ触れれば、【盗む】に何度も挑戦しなくて良い筈だ」
【盗む】の最も面倒な点は、何が盗めるか使用者にすら分からない事だ。
だが今回の熟練度上昇で、触れられる物限定とはいえ狙うアイテムを決められるのは相当ありがたい。
戦闘中の激しい動きの中で触れるというのはかなり難しいだろうが、その点はメシアの【氷魔法】が解決してくれる。
「触った物を盗める……!? そこまで【盗む】を成長させた『盗賊』、ローブくらいじゃない……?」
「【盗む】の熟練度って凄い上げにくいからな……最初の成功率は20%、しかも【盗む】を使うだけじゃなくて成功しないと熟練度が上がらない。俺も何回、使うの止めようか思った事か……」
「でも、止めなかった……きっといつか、役に立つって思ったから……大丈夫だよ、ローブの【盗む】……ワタシを凄い、助けてくれてるよ」
そう言ってメシアは俺の目を見て、小さく微笑んだ。
面と向かって言われた感謝の言葉が照れくさくて、俺は頬を掻きながら視線を逸らしてしまう。
ああ、でも……役に立っているんだったら、本当に良かった。
「ほら、ゴーレムの核は1個じゃ足りないだろ? 次のアイアンゴーレムの所に行こう……!」
「フフッ……照れてるローブ、可愛い……!」
【索敵】でアイアンゴーレムの位置を把握し、道中の罠は【罠解除】でしっかり解除。
ダンジョンの通路を気楽に進んで、次のアイアンゴーレムの近くまでやってきた。
「メシア、そろそろ次のアイアンゴーレムだ」
「えっ……もう? 罠とか魔物とか、無かったよ……?」
「罠とか魔物に遭わせず、力を温存させるのが『盗賊』の仕事だからな。まあ、これ位誰でも――」
「出来ないよ……! 出来たとしても、もっと時間がかかるらしいし……ローブは凄い『盗賊』、もっと自信持って……!」
「そ、そうかなぁ……?」
そうは言っても、ソルマ達は魔物と正面から戦いたいってウザがられたし……
だが『魔術師』であるメシアは、魔物を倒すにも罠から身を守るのにも魔力が必要だった筈。
温存するには優秀な『盗賊』が必要だったと……まあ、自分が優秀とは言わないけどさ。
それでも幼馴染がこうやって励ましてくれるなら、頑張ろうって思える。
「ローブ? 立ち止まって……どうしたの……?」
「【索敵】……うん。ここで立ち止まってれば、そこの角をアイアンゴーレムが曲がってくる。不意打ちで隙を作ってくれれば……」
「ローブの【盗む】で……ゴーレムを即死させられる?」
「ああ、核を盗めばゴーレムは止まるんだろ? だったら、成長した【盗む】で一気に終わらせてやる」
「でもそれじゃ、ローブが危険……ワタシが【氷魔法】で動きを封じるから……」
「何かあったら、メシアが助けてくれるんだろ? 最初のアイアンゴーレムの時に言ってたじゃないか。折角【盗む】が成長したんだ、それに成功すれば自信にも繋がるだろうしさ!」
「それを言われると……うん、分かった……アイアンゴーレムの姿が見えたら、ワタシが魔法で不意打ちする……その隙を突いて、核を盗んで……!」
「ああ、やってみせる!」
メシアの説得を終え、アイアンゴーレムが曲がってくる曲がり角の方を向く。
俺は何時でも駆け出せるように構え、メシアはしっかりと杖を握りしめた。
メシアが魔法を撃つ前に駆け出して、大きく跳躍して露出している核に手を伸ばす……イメージは出来ている。
段々、大きな足音が聞こえてきた……俺は全速力で曲がり角へと走り出す。
「メシア、頼む!」
「任せて……どっかーん……!」
メシアに呼びかけると、気の抜けそうな掛け声と共に業火が俺を追い越していく。
曲がり角からアイアンゴーレムが姿を現した瞬間、その体にメシアの【炎魔法】が直撃した。
突然の事態に反応できないアイアンゴーレム、その核に向けて俺は地面を蹴った。
だが……少しだけ、届きそうにない!?
「ローブ、足場……!」
「っ! サンキュー、メシア!」
メシアが咄嗟の判断で、俺の少し前にオレンジ色の板を用意してくれた。
その足場を踏み、更に跳躍……アイアンゴーレムの核に、右手が触れる!
「【盗む】接触優先っ!」
▼アイアンゴーレムから ゴーレムの核・大 を盗んだ
【盗む】が無事に発動し、俺の右手に赤色の球体が収まった。
核を盗んだことでアイアンゴーレムは完全に停止し、背中から地面に倒れ込んでいく。
俺はそんなアイアンゴーレムの体を蹴り、宙返りしながらメシアの近くに着地した。
「……悪い、迷惑かけた」
「ううん、全然……それにローブ、カッコ良かったよ……!」
「アハハ……」
メシアが嬉しそうな表情で、顔の高さに小さく右手を上げる。
俺も右手を軽く上げ、乾いた音を鳴らしながら喜びを分かち合った。
「この調子で、頑張ろー……!」
「ああ、勿論だ!」