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女騎士の依頼を受ける魔術師と盗賊

 シーリアス王女が出した名前を聞き、メシアはチラリと俺を見た。

 王女の冒険者の男嫌いは、俺の元パーティーメンバーが原因になっている。

 だから俺は睨まれてしまっても、気にせずにフォローに回っていたんだ。


「自分は王女ではあるが、政治はからっきしだ。その方面に優秀な兄上や姉上も居る、故に自分は力でこの国に貢献したい。その為ならば、貴族との政略結婚も受け入れる……つもりであったのだ」


 何かを思い出したようで、シーリアス王女は拳を強く握り込む。

 シーリアス王女は騎士として実力が高く、国の為なら自分の全てを捧げると宣言していた。

 だからこそ有力な貴族兼冒険者であるソルマとの許嫁になったらしいのだが……


「ソルマは……あの男はっ! 自分に騎士を辞めて、従者のように家の事だけやっていろと()いてきたのだ。冒険者の『職業』による強さを鼻にかけ、騎士を不要だと言ってきたと同義!」


「酷い……!」


「故に自分は冒険者の男を嫌悪する! それはローブ、貴様も例外では無いっ! 特に貴様はソルマの元パーティー、今この場で剣を抜かずにいるだけありがたく思えっ!」


 溜め込まれていた怒りが爆発したのか、シーリアス王女は俺を睨んで拳を机に叩きつける。

 実際に冒険者の男で騎士を見下す者は多く、シーリアス王女の嫌悪は仕方ないものだ。

 騎士は人間と対峙する事が仕事であり、冒険者は魔物を相手にするのが仕事。

 俺は求められている強さの方向性が違うと思っている……そう言っても、言い訳だと切り捨てられるのだろうけど。


「うん……ちょっと、納得した……でも、話はローブと2人で聞く……依頼を受けるのも、ローブと2人……それは受け入れてほしい」


「……ああ、分かっているさ。その男の職業は『盗賊』、戦闘能力の無い支援職だと理解している。自分としては、『魔術師』であるメシア殿の力を借りられればそれで良い」


 まあ『盗賊』ではあるんだけど、戦闘能力はある……なんて言ったらややこしくなるだろうな。

 シーリアス王女はメシアの力を借りに来た、だったら俺は無力な支援職を演じておくのが良いだろう。

 冒険者であるメシアの力を借りたいって事は、ダンジョンから出てきた魔物を討伐してほしいとかだろうし。


「この国の近くに、Sランクの魔物であるデーモンが現れたのだ。悔しいがダンジョンから出てきた魔物は騎士では歯が立たず、メシア殿に討伐を依頼したい」


「デーモン……?」


「悪魔タイプの魔物だよ。鋭い爪や牙、個体によっては武器や魔法も使ってくる。これといった弱点も無く、完全な実力勝負が求められる面倒な魔物だ」


「と言っても1匹や2匹ならば、メシア殿の手を借りる必要は無いのだ。Aランクの冒険者を10人程かき集めれば、充分に対処できる」


「それでも、シーリアス王女はワタシの所に来た……きっと、デーモンは群れ……何匹?」


「……おおよそ、20だ」


「そっか、じゃあ……今から倒しに行こう、案内して欲しい……」


 事情を理解したメシアは、デーモンの討伐に行こうと早速椅子から立ち上がる。

 決心が早いメシアと戸惑うシーリアス王女の様子に、俺は苦笑を浮かべてしまった。

 付いてこない俺達に、メシアは扉の前で振り返って首を傾げる。


「……あれ、行かないの?」


「ああ、いや……依頼を引き受けてくれるのは嬉しいのだが、もう少し躊躇いとか値段交渉とかはしなくて良いのか? デーモンが20匹も居る危険な依頼なのだ、他のSランクの冒険者に声をかけるとかは……」


「ワタシが行く、ローブも行く……ならもう、危険は殆ど無い……お金も生活出来るくらいあるなら、別に良い……まずは早くデーモンを倒す、それが優先だと思う」


「メシア殿はともかく、この男が戦力になるとは思えないが……とにかく、素早い決断に感謝する。少々待っていてくれ、直ぐに馬の手配をするからな。デーモンの群れは、馬を走らせて5日程の所に居る」


「馬は、大丈夫……日帰りで終わらしちゃうから……ワタシの屋敷に、ついてきてほしい……」


 そう言って部屋を出ていくメシア。

 俺もメシアの後に続き、シーリアス王女が部屋を出られるように扉を抑える。 

 シーリアス王女はゆっくりと立ち上がり、部屋を出る前に立ち止まって俺をジロリと睨んだ。


「どれだけメシア殿が庇おうと、自分は貴様を嫌悪する。余計な事をしてくれるなよ」


「分かっていますよ。俺はシーリアス王女の言っていた通り、戦闘力の無い支援職です。外でのデーモンが相手では、出る幕もありません」


「……フンッ、気に食わんな。自分は見下してくる冒険者の男も嫌いだが、貴様のように強者に媚を売るような軟弱者も嫌いだ。メシア殿の為にも、パーティーを抜ける事を推奨しよう」


 ……少し前の俺は、そうしようとしたんだけどな。

 それでも俺と一緒に居ようとしてくれる幼馴染のおかげで、俺は強くなっている。

 少し腹が立ってしまったけど、俺は怒りを隠し作り笑顔で頭を下げた。

 そんな俺を見て、シーリアス王女再び鼻を鳴らしてメシアの後を追う。


「俺が我慢すれば、丸く収まるんだからな……」


 自分に小さく言い聞かせ、深呼吸をしてから2人の後を追った。

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