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魔術師に拾われた盗賊

 俺の隣に座っていた紫髪の少女は、『魔術師』のメシア。

 1000万人に1人と言われる程の天才『魔術師』と呼ばれている。

 小さな村で一緒に育ってきた俺の幼馴染で、一緒に冒険者を目指してこの王国にやってきた。

 だが俺は盗賊になる事しか出来ず、メシアに見捨てられる事を恐れて距離を取ってしまい……

 その結果メシアは後衛職でありながら、どんなダンジョンでも1人で攻略できるソロのSランク冒険者。

 一方俺は、まともに戦闘も出来ない最底辺の冒険者。

 こんなに差がついてしまった俺を、メシアが迎え入れるって言ったのか……?


「聞こえなかった? ローブ、ワタシはキミとパーティーを組みに来た」


「聞こえてたさ……」


 パーティーを追い出されたばかりの俺に、メシアはパーティーの加入を提案してきた。

 悪いがどう考えても無様な『盗賊』の幼馴染に同情して、声をかけているかのようにしか取れない。

 無表情でこちらを見てくるメシアに、俺は唸るように声を絞り出す。


「……ローブ?」


「なあ、メシア……考え直した方が良い。お前は戦闘職とは言え魔法の攻撃に特化した『魔術師』。どう考えてもパーティーに誘うのは俺みたいな『盗賊』じゃなくて、『剣士』とか『重歩兵』の前衛職……」


 そこまで言ってソルマとダンモッドを思い出し、言い淀んでしまう。

 メシアが組むのは俺みたいな戦闘に全く役に立たない支援職じゃなくて、俺を追い出した戦闘に特化したSランクパーティーだろう。

 あのパーティー、丁度魔法攻撃力が足りないしな……

 話し辛い雰囲気になってしまった中、アルムンさんが酒のお代わりと追加のおつまみに肉を持って戻ってきた。


「あらぁん、メシアちゃんじゃない! 来てたんなら言いなさいよぉ!」


「アルムンさん、やっほー……オレンジジュースちょうだい」


「かしこまりましたぁん、直ぐに持ってくるわねぇん!」


 アルムンさんは直ぐに奥へ引っ込んでしまい、再び無言の時間がやってきた。

 まあ人前では話し辛い事だし、さっさと断ってしまおう。

 そう思ってメシアの方を向くと、さっき絡んできたヤンが再び近付いてくるのが見えた。


「ダッハッハッハッ! 俺様みたいな『拳士』を差し置いて、『盗賊』のお前如きが美人と酒を飲むなんざおかしいだろうがよぉっ!」


 ヤンは笑いながら、席に座っていた俺を力で床に押し退ける。

 また絡まれるなんて……早くアルムンさんを呼んでこないと。

 だが次の瞬間、ヤンは天井近くまで吹っ飛ばされていた。


「……は?」


「邪魔……ワタシが話したいのは、ローブだけ」


 メシアがヤンに手を(かざ)すと、巨大な雷撃(らいげき)が撃ち出される。

 ヤンは天井近くで雷撃に撃ち抜かれ、真っすぐと落下してソイツが飲んでいたであろう無人の机に叩きつけられた。

 これがメシアの実力……!

 本来スキルの発動にはスキル名を宣言する必要がある。

 しかしメシアは1000万人に1人の逸材と呼ばれる由縁、レアスキル【宣言破棄】を習得していた。

 最初にヤンを打ち上げたのは【風魔法】、その後雷撃を撃ち出したのは 【雷魔法】のスキルだろう。


「あっ……ぁぁっ……がっ……!」


 雷撃で撃ち抜かれたヤンが、死にかけの虫にようにピクピクと痙攣(けいれん)している。

 こんなに強い魔術師が俺の幼馴染、もう冒険者辞めたくなってきた……

 酔っ払いを見ていると、顔を両手で掴まれてメシアの方を向けさせられる。

 メシアは変わらず無表情で、だけど真剣に俺の目を見ていた。


「ローブ……ちゃんと聞いて」

 

「お、おう……」


「ワタシは強い……他の戦闘職なんて邪魔……どんなモンスターも1人で充分」


 メシアの言っている事は嘘じゃない。

 だって今まで1度もパーティーを組まずに、ダンジョンを攻略してきているからだ。


「そんなお前と組むのが、『盗賊』なんかで良いのか?」


「『盗賊』が良い……誰かの役に立つ為、熟練度を鍛え続けたローブが良い……!」


 メシアの言葉が心に響き、俺はほんの少しだけ笑う事が出来た。

 そんな俺を見て、メシアも少しだけ微笑んでくれる。

 『盗賊』が良いなんて、初めて言ってもらえた。


「分かったよ、俺の負けだ。こんなしがない『盗賊』で良ければ何でも言ってくれ。荷物持ちとか、偵察とか、雑用だって何でもやるからよ」


「そんな事は頼まない……『盗賊』のキミと組んだからには、『盗賊』としての役割を果たしてもらう」


「盗賊としての役割って……まあ出来る事はやってみるよ」


 メシアが右手を差し出し、俺はその手を取る。

 そのまま立ち上がらせてもらい、2人で再び席に着いた。


「あらぁん! アタシがオレンジを握りつぶしてる間に、ちょっと良い感じになってるじゃないっ! あの酔っ払いも楽しそうにしてるし、何があったのかしらぁん?」


 あの黒焦げでピクピクしている酔っ払いを、楽しそうにで片付けて良いのか?

 メシアがアムルンさんからオレンジジュースを受け取り、俺も自分のグラスを持つ。

 そのままコップを寄せて、小さく音が鳴るように打ち付けた。


「俺、メシアにパーティーを組んでもらうんです」


「ローブ、違うよ……ワタシとキミは対等……パーティーを組むの」


「本当!? 女の子がずっとソロなんて心配だったのよぉっ! ローブちゃん、頑張るのよっ!」


 まあ俺がメシアに守られる事が多いだろうけど、頑張れることは頑張ろう。

 今度はサボっているなんて言われないように、俺のスキルでメシアを助けられる……と良いな。

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