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2つ目の素材を……手に入れたと言って良いのか悩む盗賊

 俺達はブラックドラゴンの背中に乗り、ウィーラメルト竜渓谷を下っていた。

 流石はウィーラメルト竜渓谷で一二を争う強さを持つブラックドラゴン、他の魔物が全く近付いてこない。

 罠は基本的に人間用だからブラックドラゴンには作動しないし、崖を飛んでショートカットも出来る。


「ローブの、心を盗む(ハートスティール)……? 発動の動き、カッコいいね……!」


「頼むから言わないでくれ……凄く恥ずかしいんだ……!」


 派生技の中には、特別な動きをしながら宣言しないと発動しない物がある。

 例えば視線を盗む(ゲイズスティール)敵意を盗む(ヘイトスティール)は、伸ばした手を手繰り寄せるようにしながらでなければ発動しない。

 そして今回使った心を盗む(ハートスティール)、その効果は性別や魔物を問わず相手を魅了するという物。


「恥ずかしがる事、ないよ……? 投げキッス、凄く似合ってた……ワタシにもやってほしい……!」


「絶対、嫌だっ!」


「ローブ、無茶して良いよ……? そしたら、またお願い聞いてもらうから……!」


 心を盗む(ハートスティール)は、魅了する対象に向かってキスを投げる事で発動する。

 ふざけた発動の為の動作だと思うけど、俺達がブラックドラゴンに乗ってる事からその効果は絶大と言っても良い。

 『テイマー』が苦労するドラゴンを、こんなに容易く手懐ける事が出来たのだから。


「まあ、この派生技はあんまり使わないようにしないとな」


「そうなの……?」


「魔物を手懐けられるのは便利だけど、解除の仕方が分からないんだよ。ブラックドラゴンは俺が世話していくつもりだけど、1匹でも大変だろうしな。使う相手をしっかり見定めないと」


「あ、ブラックドラゴン飼うんだ……」


「言い方悪いけど、心を盗む(ハートスティール)の実験台にしちゃったしな。責任もって仲良くしようと思う」


「そっか……じゃあ、名前を付けてあげようよ。ローブが付けた名前、きっと喜んでくれると思う」


 メシアがそう提案すると、ブラックドラゴンが同意するような可愛らしい鳴き声をあげる。

 確かに名前を付けてあげないとな……いつまでもブラックドラゴンって呼ぶのも、なんか嫌だしな。


「名前か、どんな名前が良いだろう……? シンプルにクロとかブラックとかどうかな?」


「駄目だよ、もっと良い名前を付けてあげて……!」


 ブラックドラゴンは俺の付けようとした名前には一切反応せず、メシアの言葉に再び鳴き声を出す。

 俺達の言葉を理解しているのか、ブラックドラゴンの返事にも意志を感じるな。

 クロとかブラックも呼びやすくて良さそうなんだけど……まあ本人、いや本ドラゴンが嫌がってるんだから仕方ない。

 そうだなぁ、心を盗む(ハートスティール)で仲間になってもらったんだから、ソレを良い感じに縮めて……


「ハーティってのはどうかな? ブラックドラゴンがオスでもメスでも、似合うと思うんだけど……」


「うんうん、嬉しそうに鳴いてる……よろしくね、ハーティ……!」


 俺がハーティという名前を付けると、嬉しそうに返事をしてくれたブラックドラゴン改めハーティ。

 メシアが挨拶をすると、再びハーティは嬉しそうに鳴き声をあげた。

 これでハーティとはちゃんと仲間になった、そんな気がする。


「ローブ、そろそろ……【索敵】の時間じゃない……?」


「おおっ、サンキュー。【索敵】範囲最大……見つけた、他のドラゴンとは桁違いの存在感の大きさ。しかもコレは……」


「ローブ、何を見つけたの……?」


「ハーティの存在感に似ている……恐らく、サウザンド・ブラックドラゴンだ」


 Aランクの強さを持つブラックドラゴン、1000年もの時を生き抜いたのであればその強さにはかなり磨きがかかっているだろう。

 でも、俺とメシアが居れば倒す事は出来る筈だ。

 同じブラックドラゴンであるハーティの前で倒すのは申し訳ないけど、そこはハーティに割り切ってもらうしかない……よな?


「ハーティ、あっちに行ってくれるか?」


 俺が存在感の方を指しながら訪ねると、ハーティは了解と言うように短く鳴いた。

 更に俺が探している何かを見つけたのを察して、今までゆっくり飛んでいた状態から一気に加速してくれる。

 本当に賢いな……【索敵】で出会えたのがハーティで、本当に良かった。


「凄い……まだ遠いのに、ワタシでも気配を感じる……!」


「ハーティ、速度を落としてくれ。メシア、サウザンド・ブラックドラゴン……俺達2人、いや2人と1匹で行けると思うか?」


「流石に手加減無しでは……あ、ローブ……ッ!」


 俺の背後を見ていたメシアが、何かを見て忠告するように名前を呼ぶ。

 振り返るとそこには、既にサウザンド・ブラックドラゴンが羽ばたいていた。

 大人のブラックドラゴンであるハーティが、まるで子供のように見える巨体。

 傷だらけの体、所々が白く変色した鱗、長く蓄えられた2本の髭。


「サウザンド・ブラックドラゴン……俺達に気付いていたのか……!」


 俺を中心に線がぐるりと回る【索敵】、その欠点が出てしまった。

 線に触れた一瞬は位置を把握できるが、その後に動かれると位置の変化に気付けない。

 マズイ、ハーティに乗ったまま戦闘出来るか?

 いや、流石にこの状態で戦うのは俺達もハーティも厳しい……!


「って、アレ? ハーティが、話しかけてる……?」


「しかも、親しそうな鳴き声のような気がするな。まさか、知り合いなのか……?」


 ハーティがキュウキュウ鳴くと、サウザンド・ブラックドラゴンは大きく頷いた。

 そして俺が話しかけろと言うように、ハーティは高さを調整し俺の目とサウザンド・ブラックドラゴンの目線を合わせる。


「えっと……なあ、その髭くれないか?」


 恐る恐るサウザンド・ブラックドラゴンの髭を指し、通じるか分からないが問いかけてみる。

 するとハーティがサウザンド・ブラックドラゴンの髭を口にくわえ、一気に引っこ抜いた。

 更にもう片方の髭もハーティが引っこ抜き、サウザンド・ブラックドラゴンは俺達の前から去っていく。

 えっと……サウザンドドラゴンの髭が手に入ったけど、なんか納得いかないな。

 後でハーティに聞いてみよう、うん。

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