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悔しくて泣いた盗賊

 街並みが赤く染まる夕方、俺は金を使わずに歩いて冒険者の拠点である王国に辿り着いた。

 熟練度最大の【索敵】スキルを使えば半日程かかる道のりを、魔物に出会わずに歩く事が出来る。

 そんな事、誰も信じちゃくれないけどな。


「安い宿屋に泊まるとして、今日くらいは酒でも飲もう……暫くはソロだよなぁ。薬草採取とかゴブリン退治とか、そう言った最低ランクの依頼は受けられるし」


 トボトボ歩きながら、俺は酒場へ向かい出す。

 酒場でソロになったって申請もしなくちゃ……周りの飲んでる奴らに笑われるだろうし、気が重い。

 ついでに明日受けられそうな依頼の下見もしておかなきゃ……

 ボーっとしていると酒場に辿り着き、俺は店内にフラフラと入っていく。

 若いウェイトレスが笑顔で直ぐに出迎えてくれた。


「いらっしゃいませー! って、ローブさんですか? 昨日、ダンジョンに出発したんじゃ……」


「パーティー、追い出されちゃってさ。後で詳しく話すよ、カウンター空いてる?」


「そう、ですか……ええっと、カウンター席ですね? 勿論空いてますよ! こちらです」


 ウェイトレスの案内でカウンター席に着き、少しするとオシャレな髭の筋骨隆々な男の人が出てくる。

 この人が冒険者に依頼に提供してくれる酒場のマスター、アムルンさんだ。

 俺がソロの頃からお世話になっていて、3カ月前にSランクパーティーに推薦してくれたのもこの人だ。


「ちょっと、ローブちゃん聞いたわよぉ? パーティー追い出されちゃったんですってぇ?」


「アムルンさん……折角推薦してくれたのに、すいません」


「アンタが謝る事ないわよぉ。むしろ推薦して辛い思いさせたアタシの方こそ、ごめんなさいねぇ」


 アムルンさんは深く頭を下げた後、グラスに酒を注いで俺の前に差し出した。

 その女性のような口調に最初は驚いたけど、この人はとっても優しい。


「次のパーティー、探さなきゃなんですけど……募集あります?」


「うぅん、あるにはあるけれどぉ……その、やっぱりぃ……」


「『盗賊』は厳しいですか……」


「戦闘が出来ない支援職、っていうのがネックよねぇ。派手で頼れる火力以外要らないってのが殆どだから……」


「ですよねぇ……」


「支援職のおかげで助かる命があるって伝えても、戦えない奴を仲間と認めないなんて馬鹿が多過ぎるのよぉ……」


「…………ハァ」


「今日はアタシが奢ってあげるから元気だしなさぁい! 今、おつまみ作って持ってくるから!」


「ありがとうございます……」


 そう言ってアムルンさんは、カウンターの奥にある調理場に引っ込む。

 1人でゆっくりと酒を味わっていると、隣に酔っ払いのオッサンが座ってきた。


「ようローブ! テメエ、Sランクパーティーの奴らとダンジョンに行ったんじゃねえのか、ああんっ!?」


 この酔っ払いはヤン・ラーレル、Bランクの冒険者だ。

 パーティーを探していた時に声をかけてしまい、その時に嫌な目の付けられ方をされてしまっている。


「……追い出されたんだよ」


「ダーッハッハッハッ! 追い出されたのかよ、ざまあねえぜ! 分かり切ってただろうが、『盗賊』のテメエなんかじゃ役に立たねえってよ!」


 ヤンは大笑いしながら、俺の背中を強く叩いてきた。

 やっと見返してやれると思ったのに……!

 いろいろな悔しさが混ざってきて、涙が零れてきた。


「おっ、泣いてんのか!? 何も言い返せずに泣くなんてみっともねえなオイッ! 皆見てろよっ! 『盗賊』ローブが泣いてんぜーっ! ダッハッハッハッハ!」


 ヤンが大声で注目を集めると、周囲の奴らも笑いだす。

 何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……!

 パーティーを追い出された自分が、何も言い返せない自分が悔しくて堪らない……!


「お前らぁぁぁぁっ! アタシが居ない間に何やってんだ、オラァァァァッ!」


「ウグッ……ア、アムルン……!?」


 急いで戻ってきたアムルンさんは、ヤンの胸倉を掴み物凄い剣幕で詰め寄っていく。


「他の店じゃどうか知らねえが、ここはアタシの店だ! この店で冒険者職業の差別は許さねえっ! 分かったかぁっ!」


「チィッ……!」


 アムルンさんが怒鳴りつけると、ヤンは怯えた表情で退散していった。

 盗賊という職業を選んだ時点で、こうなるのは分かっていた……!

 でも俺は冒険者になりたかったから、今まで頑張ってきたのに……!

 静かに涙を流す俺を心配して、さっきのウエイトレスが背中をさすってくれた。


「ローブさん……」


「……ごめんなさい、心配かけて」


 やっと少しだけ落ち着いてきて、目元を袖で拭う。

 グラスに残っていた酒を一気に飲み干し、一息吐いた。

 大分恥ずかしかったけれど、泣いたおかげで吹っ切れている。

 今日はもう少し飲んで、明日からまた頑張りなおすんだ。

 アムルンさんにお酒のおかわりを頼み、慰めてくれたウェイトレスに頭を下げる。


「慰めてくれてありがとう」


「いえいえ気にしないでください、落ち込んでいる時は誰かが傍に居るのが凄い心強いじゃないですか。私にはソレ位しか出来ませんから……」


「凄く安心したよ……ちょっと、恥ずかしかったけどな」


「むしろ可愛かったですよ……っと、そろそろ仕事に戻りますね。また落ち着いたら戻ってきますから」


 そう言ってウェイトレスは仕事に戻って行った。

 俺はアムルンさんが用意したおつまみの種を食べていると、再び隣に誰かが座る。

 また酔っ払いでも絡みに来たのか……今度は無視すれば良い。

 と思っていたけれど、隣の奴が控えめに袖を引っ張ってくる。

 無視は諦めて隣を見ると、ジト目をした知り合いが俺を見つめていた。


「ローブ……やっと気付いた」


「メシアッ!? 何でここにっ!」


「決まってる……『盗賊』のキミを、迎えに来た」


 迎えに来た……『盗賊』である、俺を?

 一体、どういう事だ……?

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