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ドラゴンを手懐けたい盗賊

 今日もおっちゃんに言われた素材を取りに、別のダンジョンを訪れる。

 名前はウィーラメルト竜渓谷(けいこく)、谷を降りていくダンジョンだ。

 名前で誰もが分かると思うけど、ドラゴンタイプの魔物が9割を占めるAランクダンジョン。

 ここで手に入れるのは、サウザンドドラゴンの髭。

 サウザンドドラゴンとは種類を問わず1000年以上生きたドラゴンの事を言うらしい、鱗が白く変色し始めているから見れば分かるとの事。


「ローブ……今回は、無茶したら駄目だよ……!」


「ああ、分かってるよ。今回は焦りたくなる理由も無いし、あんな馬鹿げた事はしないさ」


 自分でやった事に責任が持てないのを恐れて、結果メシアに心配をかけてしまった。

 メシアに楽させる為には、自分が無茶しすぎてはいけないって分かっている。

 それに……また酒場であの罰ゲームをやらされるのも嫌だしな。


「それじゃあ、サウザンドドラゴンを探そう……!」


「それなんだけどさ、普通にダンジョンを探索するのはちょっと疲れるだろ? だから、面白そうな【盗む】の派生技を試してみたいんだ」


「分かった、試す事は大事……でも、何をするの?」


「ああ、ドラゴンを手懐ける」


「……ッ!?」


 俺があっさりと言った事に、メシアは驚愕の表情を見せた。

 それも当然の事で、どんなに弱いドラゴンでも手懐けるのは相当難しい。

 魔物を手懐ける専門の職業『テイマー』、その専用スキル【テイム】の熟練度をかなり上げなければ派生技のドラゴンテイムまで辿り着けないからだ。

 更にドラゴンテイムを使ったからといって、ドラゴンを完璧に従えられるのに1年以上かかると聞く。

 勿論【テイム】無しで魔物を従えた話はあるけど、ドラゴンにその前例は無い。


「【索敵】範囲最大……良し、こっちに居るみたいだ」


「ローブが出来るって言うなら、ワタシは信じる……うん、行こう……!」


 目当てのドラゴンの位置をしっかりと確認し、メシアと2人で谷を降りていく。

 【索敵】で見る限り、ウィーラメルト竜渓谷はモンスターが多くて罠が少ない。

 罠が少ないから探索しやすいように見えるが、そう思わせる事こそが罠だ。

 ドラゴンに遭遇し、戦闘を繰り返せば……強いパーティーでも壊滅しかねない。

 まあメシアならドラゴン相手でも、簡単に魔法で倒してしまうんだろうけど。


「ローブ、あれ……まさか、ブラックドラゴン……?」


「そう、アイツを探してたんだ」


 メシアが指したのは、人間2人くらい簡単に乗せられそうな巨大なドラゴンだった。

 黒の鱗に覆われた体、巨大な翼と逞しい四本足……Aランクのブラックドラゴン。

 シンプルな名前だが、ウィーラメルト竜渓谷で一二を争う強さを誇る。

 どうせ手懐けるのなら、強いドラゴンを選ぶのは当然だからな。


「ブラックドラゴンは、結構強い……ローブ、大丈夫なの?」


「ああ。手懐けるのも試したいんだけど、実はもう1つ試してみたい事があるんだ。今の俺の能力値(ステータス)なら、ブラックドラゴンが相手でもそこまで大きな怪我はしないと思う」


 ゴーレムやメタリックスライムといった頑丈な魔物から能力値(ステータス)を盗み、今の俺は下手な『重装兵』や『聖騎士』よりも防御は硬いと思う。

 今なら避けざるを得なかった、ゴーレムファクトリーのダンジョンマスターによる攻撃を受け止められそうだ。

 受け止める事さえ出来れば能力値を盗む(ステータススティール)スキルを盗む(スキルスティール)、武器や盾なら装備を盗む(イクイップスティール)とかに繋げられる。


「うーん、1人じゃ駄目……ワタシも手伝うから、行こう……!」


「分かった。まずは俺がブラックドラゴンの攻撃を受けるから、その間に【雷魔法】の威力を調整してほしい」


「威力は、どれくらいが良い……?」


「痺れさせて数秒動きを止めてくれれば、新しい派生技を試せると思う」


「分かった……ドラゴンの鱗は、属性をかなり軽減する……結構強めにしないとね……!」


「ああ、それじゃ行ってくるっ!」


 思いっきり駆け出すと、俺に気付いたブラックドラゴンが咆哮をあげる。

 体が後ろに押される感覚があるが、気にせずに真っ直ぐ突っ切った。

 ブラックドラゴンは大きく息を吸い込み、燃え盛る火炎を吐き出してくる。


「良し、耐えられる……!」


 迫りくる炎に対し、俺は【属性耐性】を信じて両腕で顔を覆う様にガードした。

 【耐性】系のスキルは派生技を一切覚えない代わりに、熟練度に応じて耐性が上がっていく。

 本来は攻撃を受け続ける事で熟練度が増えていくのだが、メタリックスライムから盗んだ【耐性】は全て熟練度が最大だった。

 だからブラックドラゴン相手でも、俺は躊躇なく突っ込んでいける。


「メルボール火山に比べれば、ぬるいんだよっ!」


 炎の吐息を完全に受けきり、更に突進する。

 攻撃が通じなかった事に苛立ったのか、ブラックドラゴンは唸り声と共に前足を振り下ろしてきた。

 両腕を頭上で交差させ、ブラックドラゴンの一撃を全身で受け止める。

 ダメージは全く無いが、地面の方が耐えきれずにひび割れてしまった。


「力でもっ、負けねえよっ!」


 ブラックドラゴンの前足を一気に跳ね上げ、体勢を崩しかける。

 浮き上がらせたブラックドラゴンの体に、巨大な雷の槍が突き刺さった。


「これで、痺れちゃえ……!」


 メシアの雷の槍が一気に放電し、ブラックドラゴンは悲鳴のような鳴き声をあげる。

 しっかりと作ってくれたチャンスだ……ちょっと恥ずかしいけど、やるしかない……!

 派生技を発動させる為に、俺は唇に右手の指を軽く当てる。


「ぬ、【盗む】心を盗む(ハートスティール)……ッ!」


 動きを止めたブラックドラゴンに向けて、俺は小さくキスを投げた。

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