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恥をかく盗賊

 騒動を聞きつけたアムルンさんが駆けつけ、まだ暴れようとするヤンを掴み上げて叩き出した。

 一応騒ぎの原因となった俺達は、周囲の人のフォローもあって追い出されずに済んでいる。

 この前と同じカウンター席に、メシアと2人で食事と酒を頼んだ。


「それにしてもあのヤン・ラーレルを、ローブちゃんが吹っ飛ばしたってどういう事なのよぉ? アタシ、駆けつけてビックリしたんだからぁ!」


「まあ、色々ありまして……」


「もうローブは、支援職じゃない……戦闘、支援をこなせる、唯一無二の万能職……!」


 さっきまであんなに不機嫌そうだったのに、メシアは俺の事をべた褒めしていた。

 どんな頼み事を思いつけば、こんなに機嫌が良くなるんだろう?

 とは言え褒められるのは照れ臭いので、少し顔を逸らした。


「話を聞く限り、ローブちゃんがとっても強くなったらしいじゃなぁい? 【拳技】の爆裂乱打を捌いて、一闘入魂を弾き飛ばしたって……戦闘こなせるようになってるわよねぇ。本当に何があったのかしらぁん?」


「【盗む】の熟練度が最大に到達したんです。そしたら戦闘向きの派生技を次々覚えていて、ちょっとは強くなれましたよ」


「全く戦闘が出来なかったローブちゃんが、Bランクを軽くあしらうレベルになったのをちょっとで済ませて良いのかしらぁん? まあ良いわ、ローブちゃんすっかり元気そうだもの」


「ワタシの、おかげ……!」


 そう言ってドヤ顔でピースするメシアを見て、アムルンさんがパチパチと拍手を送る。

 Bランクパーティーから言いがかりで追放された俺を拾ってくれて、【盗む】に価値を見出してくれた。

 メシアが居なければ、俺は今頃Fランクの冒険者のままだったのは間違いない。


「確かにメシアのおかげで、冒険が楽しいんです。魔物と戦うの、ちょっと怖い時もあるけど新鮮な気分で……」


「うんうん。ローブちゃん、ずっと戦う事に憧れていたもんね。それで【盗む】にはどんな派生技があったのかしら?」


「それはですね……」


 暫くアムルンさんに【盗む】について話していると、不意にメシアが袖を引っ張ってきた。

 横を向くとメシアがフォークに切り分けたハンバーグを刺して、俺の方に差し出している。

 食べれば良いのかとフォークを受け取ろうとしたが、引っ込められて再び差し出された。


「ソレ、くれるんじゃないのか?」


「ううん、あげるよ? だから食べて」


「じゃあ、フォークくれよ。自分で食べるからさ」


「駄目、口を開けて……」


「あらぁ~、人前であーんなんてメシアちゃんったら大胆じゃなぁい! これはローブちゃんが、男を見せなくちゃねっ!」


 アムルンさんが大きな声で煽ってきたせいで、周囲の客の視線が集まってくる。

 なんで急に、こんな事を……あっ、まさか……!


「ロ―ブ、頼み事……断らないよね?」


「メシア、お前……わ、分かったよ……!」


 何でもするなんて安直に言った俺が悪いのは分かっている。

 というかそもそも、メタリックスライムの核を相談せずに無理矢理取ったのが原因だからな。

 そんな無茶を二度とさせない為に、メシアなりの罰ゲームなんだろう。

 恥ずかしい目に遭わされるのは、確かに辛い……俺への戒めとして最適かもしれない。

 観念した俺はメシアの方へ向き直し、口を大きく開ける。


「はい、あーん……」


「嬉しそうに微笑むメシアちゃん、顔を赤らめながら食べるローブちゃん! 良いわぁ、とってもお似合いよぉっ! アタシ、この光景見ただけで肌が潤ってくるわぁぁぁぁっ!」


「おうローブ、お似合いだぜぇ!」


「メシアちゃん可愛いぞー!」


「そのまま付き合ったらどうだーっ!?」


 アムルンさんや周囲の酔っ払いが囃し立てるせいで、俺の顔はドンドン熱くなってくる。

 こんな恥ずかしい目に遭わされるんだったら、俺が想像してダンジョンソロ攻略とかの方がマシだった!

 羞恥心(しゅうちしん)に耐えながらハンバーグを呑み込むと、メシアが俺の皿にある魚のソテーを指す。


「じゃあ、次は食べさせてね……」


「はぁっ!? 今ので終わりじゃないのかよっ!?」


「良いじゃないの、ローブちゃん! 折角メシアちゃんが食べさせてくれたんだから、お返ししてあげなさいよぉ!」


「ほら、アムルンさんもこう言ってる……ローブ、さあ早く……!」


「うぐぐ……」


 俺は小さく切り分けた魚のソテーを、フォークでメシアに差し出した。

 震える手で差し出されたコレを、メシアは恥ずかしがる事無く嬉しそうに頬張る。

 ……なんか可愛い、ペットに餌やるのってこんな感じなんだろな。


「エヘヘ……ローブが食べさせてくれたから、いつもよりも美味しく感じる……」


 ニコニコとした笑顔で頬を抑えながら、メシアはそんな事を言った。

 ……何でこんな可愛い事を恥ずかしがらずに言えるんだよ、言われた俺の方が恥ずかしくなってくる。


「んもうっ! 本当に2人とも可愛すぎよぉっ! こんな物見せられたらアタシ、黙っていられないわっ! お前らぁぁぁぁっ! 今日はローブちゃんとメシアちゃんのパーティー祝いで、アタシが全部奢ってやらぁぁぁぁっ! 好きに飲みやがれええええっ!」


「うおおおおおおっ!」


 アムルンさんが大声を上げ、酒場の客が一気に盛り上がる。

 この後色んな奴らが俺達を茶化しに来て、メシアは満更でもなさそうだった。

 もう絶対に、メシアの前で無茶しない。

 俺はそう心に誓った。

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