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酒場で喧嘩を売られる盗賊

 メタリックスライムの核を手に入れた俺達は、おっちゃんに次の素材を聞く為に王国に戻ってきた。

 核を手に入れる為に大火傷した右腕も、僧侶院で治療してもらって完治している。


「むぅー……」


 今までは戦闘してこなかったから、使う機会が無かったけど……僧侶院って凄いんだな。

 冒険者を引退した『僧侶』による、高熟練度の【回復魔法】が有料で受けられる僧侶院。

 これから【回復魔法】を使えるメンバーが居ないならお世話になる……それか【回復魔法】のスキルを持つ奴から【盗む】か、だ。


「むぅー……!」


 今日はもう遅いので、アムルンさんの酒場で夕飯を食べようと向かっている。

 だけどメルボール火山から王国に戻ってくる間、メシアはずっと不満そうな顔をしていた。

 口を利いてくれないし、声をかけようとすると怖くない威嚇みたいな唸り声を出してくる。

 理由が分からない程、馬鹿じゃない……十中八九、俺が怪我をする前提の行動を取ったからだ。


「なあメシア、相談もせずにあんな無茶な行動して悪かったって。そろそろ機嫌直してくれよ、何でもするからさ!」


「むっ……!」


 俺がそう言った瞬間、メシアの目の奥で何かがキラリと輝く。

 良かった、やっと反応してくれた。

 これで無視されていたら、ダンジョンとかで2人きりになった時に許してもらうまで土下座するくらいしか思いつかない。


「本当に、何でもしてくれるの……? ローブが、ワタシに……?」


「あっ、ああっ! 勿論、メシアの為に何でもやってやるよ! 俺に出来る事なら、何だって!」


「じゃあね……」


 メシアは悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺の方を見てくる。

 勢いで何でもって言ったけど、凄い無茶ぶりされたらマズイ……!

 1人でダンジョン制覇してこいとか言われないよな……多分、今の俺なら出来るかもしれないけど。


「じゃあ、後で何かお願いする……それでローブの無茶、許すから……」


「本当に、ごめん……勝手に張り切って、気絶なんかしちゃって」


「ワタシも、【氷魔法】に頼りきりで……暑さ対策を怠ってた……だから、今回の事は、これでお相子、ね?」


「ありがとう。でも、あんまり無茶な頼み事しないでくれよ?」


「それは、どうしようかなー……? さあ、アムルンさんの所、早く行こー……!」


 嬉しそうに微笑むメシアが、俺の手を引っ張って酒場の方に走っていった。

 今日中に仲直り出来て良かった、些細な不仲からパーティーの解散に繋がる事だってある。

 もうパーティーを追い出されるのは、嫌だからな。

 そんな考え事の間に酒場に辿り着き、メシアは勢いよく扉を開き……


「あぁんっ!?」


「あ……」


「げっ……」


 ぶつかった人物の声と姿で、俺は嫌そうな声を漏らしてしまった。

 その声が相手に聞こえてしまったようで、メシアがぶつかった相手が振り向く。

 パーティーを解散した日に絡んできた、『拳士』ヤン・ラーレルだ。

 何でよりによってコイツとぶつかっちゃうのかな……


「オイオイ、誰かと思えばローブの連れじゃねえかよ。お前、この前俺様を不意打ちで攻撃しやがったよなぁ?」


「ハァ……」


「今、溜息吐いたか? 調子乗ってんじゃねえぞオイッ!」


 メシアが大きく溜め息を吐き、ヤンが激怒して殴り掛かる。

 そりゃぶつかっといて謝らずに溜息を吐いたメシアが悪いけど、だからって殴る事は無いだろうに。

 パーティーメンバー、しかも幼馴染の女の子が殴られるのは見過ごせない。

 俺はサッとメシアとヤンの間に体を割り込ませ、その拳を片手で受け止める。


「あ? 俺の拳を止めやがった……? しかも『盗賊』のお前が……これは何の冗談だぁ?」


「俺のパーティーメンバーが迷惑をかけたのは謝るよ。でも、流石に女の子に手を上げるのはやり過ぎだ。ほら、メシアも謝って」


「……溜息吐いて、ごめんなさい」


「ふざけてんじゃねえっ! 『盗賊』如きが俺に説教してんじゃねえよっ! ブッ飛ばしてやるっ!」


 メシアが渋々謝ってくれたが、何故か怒りの矛先が俺の方に向いてくる。

 敵意を盗む(ヘイトスティール)は使ってないんだけどな……?

 ヤンは俺の腕を振り払って飛び退くと、両腕に鉄の手甲(てっこう)を装着する。


「ヤン、それはやり過ぎだろっ!」


「オイ、誰かマスター呼んで来いっ!」


「ローブ、お前……調子に乗ってんじゃねえぞっ! 【拳技】爆裂乱打ッ!」


 周りの人がヤンの暴走に騒ぎ始める中、俺は冷静にヤンの動きを見定める。

 【拳技】爆裂乱打、目にも止まらぬ速さで拳を叩き込み続ける派生技だったな。

 だが、今の俺は拳の1つ1つがハッキリと見える。

 打ち込まれる拳に丁寧に手を合わせ、ヤンの爆裂乱打を完璧に叩き落としていった。


「クソッ、どうなってやがる……? 何で俺様の爆裂乱打が当たらねえんだよっ!」


「取り敢えず落ち着こう、な? 酒場で騒いでちゃ皆に迷惑かかるしさ」


 爆裂乱打が終わり、肩で息をするヤン。

 意外に見切れるもんだし、ちゃんと受ける事も出来るんだな。

 手甲だから、ちょっと痛かったけど。


「おい、『盗賊』のローブが……ヤンの爆裂乱打を捌いちまったぜ……?」


「夢でも見てんのか、アイツが戦闘出来るなんて聞いた事ねえぞ?」


「ロ、ローブゥゥゥゥゥッ! ふざけんなぁっ! 【拳技】一闘入魂ッ!」


 周囲の声で苛立ったヤンが、右腕に黄色いオーラを纏わせその拳を俺に向ける。

 ここまで頭に血が登っているなら仕方ない、少し痛い目を見て頭を冷やしてもらうしかないか。

 そう決意した俺は右手を開いて、ヤンの拳に手を合わせる。


威力を盗む(パワースティール)!」


 俺の右手にヤンの拳が触れた瞬間、派生技が成立した。

 ヤンの派生技である一闘入魂の威力が、ヤンの体を大きく吹き飛ばす。

 背中から机を巻き込んで、ヤンが派手に倒れ込んだ。

 ま、まあ……この前の出来事への、しっぺ返しって事で。

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