工房を訪れる魔術師と盗賊
ゴーレムファクトリーのダンジョンマスターを打ち倒し、目的であるゴーレムの核・大を大量に手に入れた俺達。
王国に戻ってくるとメシアが連れていきたい場所があると言ってきた。
断る理由は無く、メシアの案内で俺は王国を歩く。
「そう言えばさ、メシア?」
「なぁに……?」
「結局、ゴーレムの核・大って何に使うんだ?」
俺が手に持つジャラジャラと音が鳴る袋、この中には約60個のゴーレムの核・大が入っている。
腰に下げてある袋は2つ、片方はゴーレムの核・中と小が数個入っていて、もう片方にはゴーレムの核・特大が入っていた。
メシアに言われて【盗む】で集めたけど、これを何に使うのかは聞かされていない。
「ふっふっふー……実はその答えが、これからの行き先だったりする……!」
「そういう事なら、楽しみにしておくよ」
メシアに案内される事数分、大通りを外れて裏路地を進み始める。
来た事ない道になってきたな……こんな所に、ゴーレムの核・大を使う店があるのか?
やがてメシアはとある建物の前で足を止め、ゆっくりとこちらに振り返る。
ここが目的地って事だよな。
「着いたよ……ここが目的地」
「ここは……工房か?」
「そう……しかも、普通の工房じゃなくて……」
メシアはそう言いかけて、工房の中に入っていく。
俺も続くと、中には剣、槍、斧、盾、鎧、杖やマントが綺麗に並べられていた。
『盗賊』だからあまり装備しない武具には疎いけど、そんな俺でもこの工房のは武具は凄いって何となく分かる。
俺が工房の武器を見ていると、メシアは気にせずにさっさと奥へ行ってしまった。
ゆっくり後を追うと、奥の扉から誰か出てくる。
「あーん、誰だぁ? 勝手に俺様の工房に入ってきたのは」
子供よりも小さい背丈、伸びきった長い髭と筋骨隆々な体。
もしかしなくても、鍛冶を得意とする亜人のドワーフ!
ここはドワーフの工房だったのか……メシアの奴、良く知ってたな。
「おっちゃん……ワタシだよ……」
「おおっ、メシアじゃねえか! よく来たなぁっ! ん? そっちの坊主は初めて見たな! メシアの彼氏かい?」
「うん、ワタシの彼氏……エヘヘ……!」
「幼馴染だよっ!?」
メシアは可愛らしく照れながら、とんでもない冗談を言ってくれた。
そりゃメシアは可愛いし、こんな俺でもパーティーに入れてくれる程優しいから彼女だったら嬉しいけど……
こんな俺達の漫才みたいなやり取りを見て、ドワーフは豪快に笑う。
「メシアがこんな風に楽しそうにしてるって事は、悪い奴じゃないんだろうなぁっ! 坊主、名前は?」
「あ、はい。俺はローブと言います。メシアの幼馴染で、パーティーも組んでます」
「ほほーう、ソロでSランクに辿り着いたメシアのパーティーねぇ? 職業は何だ? ああ待て、言わないでくれ……当ててみせっから」
そう言ってドワーフは俺に近づき、ジッと見てくる。
周囲をゆっくりと回りながら、念入りに観察されていた。
「ブーツにマント、グローブ……武器は、持ってなさそうだな。筋肉もあまり付いていないければ、魔法に特化した装飾品も付けていない。そして使い込まれたグローブ……ローブは『盗賊』だろう? どうだ、正解か?」
「凄い……その通りです」
細かい事を見逃さない観察力で、ドワーフは俺の分かり辛い職業を当ててくる。
こんな凄い人と、メシアは知り合いなのか……!
当たっている事を告げると、ドワーフはまた嬉しそうに豪快に笑う。
「俺はこの工房で気ままに装備作っててな。まあ、気軽におっちゃんとでも呼んでくれ。で、お前らは今日何しに来たんだ?」
「おっちゃんが言ってた、ゴーレムの核・大……いっぱい集めてきた」
そう言ってメシアが俺の持つ袋を指すと、おっちゃんは鋭い目つきで袋を見る。
おっちゃんに袋を渡すと中身を確認し、目を見開いて驚きの声を漏らした。
「メシア……お前が核だけ残して、アイアンゴーレムを倒したなんて器用な真似したんじゃねえよな?」
「ワタシには無理、そんな半端な威力……時間かかる」
「そうだろうな。このゴーレムの核・大、傷が殆ど無い……となると、こうして核を綺麗に手に入れるには、『盗賊』の【盗む】くらいのもんだろう」
1つの核を手に取り、おっちゃんは真剣な表情で見つめていた。
そして、その視線は俺の方に向けられる。
「良い腕してるな、ローブ。『盗賊』でも腐らず、【盗む】の研鑽も怠っていない。だが冒険者の癖に武器も防具も疎かなのはいただけねえな」
「すいません、今まであんまり戦闘とかしてこなくて……」
「支援職だからって油断してんじゃねえ。むしろ支援職こそしっかり装備を整えねえと、いざって時に生き残れねえぞ?」
「おっちゃんの言う通りです……」
「ワタシとの約束、ゴーレムの核・大の報酬に……何でも作ってくれる話……ローブの装備を、作って欲しい……!」
メシアはおっちゃんに頼まれて、ゴーレムの核・大を集めていたのか。
って、俺の装備を作って欲しいっ!?
「良いのかメシア? 何でも作ってもらえるのに、俺なんかの装備を作ってもらうのは勿体ないんじゃ……?」
「勿体なくない……! おっちゃんも言ってた通り、ローブの装備も大事……!」
自分を卑下すると、メシアが頬を膨らませて怒ってしまった。
おっちゃんは間違いなく腕が良い、工房に並べてある装備を見て分かる。
普通に装備を作ってもらうのはかなり金がかかるだろうし、メシアの装備を作ってもらった方がパーティーの強化に繋がると思うんだけど……
「若い喧嘩するんじゃねえよ! こんなにゴーレムの核・大を取ってきてくれたんだ! ローブの装備もメシアの装備も、おっちゃんが作ってやる!」
「えっ、良いんですか!?」
「流石おっちゃん、太っ腹……!」
「応よっ! ドワーフの俺に二言はねえっ!」
そう言っておっちゃんは、自分の胸をドンっと叩くのだった。