違和感を覚えた剣士【元パーティー視点】
『盗賊』であるローブをパーティーから追い出して数日、私達はアビスフォレストというダンジョンを探索していた。
森林タイプのダンジョンであり、強力な獣タイプ、獣人タイプ、昆虫タイプと様々な魔物が現れる適正冒険者Sランクのダンジョン。
Sランクのパーティーである我々が探索するに相応しいダンジョンだ。
「ガッハッハッハッハァッ! やっぱローブなんざ居なくても、俺達は余裕だなっ!」
「当然ですよ! 僕達は4人で充分強い、今更メンバーの補充なんて必要なかったんです」
「それも……よりによって……『盗賊』を補充とはな……」
「そうだよなぁ? 支援職なら『呪術師』とか『ダンサー』とか、もっとマシな職業あっただろ。何で『盗賊』だったんだろうなぁ」
「酒場のマスターであるアルムンさんの推薦ですよ。彼……彼女には僕達もお世話になってますからね。流石に無下にはできませんでした」
私以外の3人は、気楽そうに会話をしながら道を進んでいる。
今の所、ダンジョンの攻略は順調だ
魔物も充分に倒せるし、宝箱も何個か見つけた。
だが、何というか……ローブをパーティーに加入させる前の攻略に比べ、些細な違和感があるような気がする。
「どうした、ソルマ……先程から、何か考えているようだが……?」
「ああ、エイロゥ……君はこのアビスフォレストを、いつも通りに攻略出来ていると思うかい?」
「何を言っている、ソルマ……体調でも崩しているのか……?」
「…………いや、気にしないでくれ」
私らしくない質問だった。
フッと鼻で笑いながら、小さく首を横に振って違和感を吹っ切る。
さっさとアビスフォレストを攻略して、新たなダンジョンでも探すとしようか。
「とは言え……さっきから魔物が出て来なくて退屈ですね。魔力探知にも何も引っかかりませんし……」
魔力探知、これはスキルではなく魔力を使った技術だ。
自分を中心に魔力を発し、周囲の様子を探る。
ダンモッドは2メートル、私が5メートル、ビソーとエイロゥが10メートルまで探知可能だ。
「……全員、止まれ」
ビソーの発言に振り払った筈の違和感が復活してしまった。
私の号令で歩みを止め、全員が静かに武器を構える。
アビスフォレストの魔物のタイプは多い……さっきまではかなり遭遇していた筈なのに、考え事が出来る程余裕があった。
「何処だ、何処に居やがる? 俺達を狙ってるクソ野郎ってのはよぉっ!」
「あまり騒がないでください。僕の魔力探知に引っかからないって事は、【気配遮断】持ちでしょうか……?」
「それか……擬態でもしているか……」
【気配遮断】か擬態……アビスフォレストでそう言った事をしてくる魔物は居ただろうか?
無駄な警戒に終わってくれれば良いのだが……そうはいかないようだな。
「ダンモッド!」
「応よっ! 【盾技】敵意集中! オラオラァ、俺様と遊ぼうじゃねえかっ!」
ダンモッドに呼びかければ、意図を察した彼は直ぐに私が望んだスキルを使用する。
しっかりと巨大な盾を構えれば、未知の攻撃がその盾に受け止められた。
ふむ……私には見えたぞ、鞭のように振るわれた枝がな。
「うわっ、1体動き出したら周りも一気に動き出しましたよ! 周囲に大体20体ですね」
今までは景色に過ぎなかった樹に人相が現れ、根を地面から引き抜いて動き出す。
確か名前は……イビルトレント、Aランクの魔物だった筈だ。
完全にそびえ立つ樹に擬態し、集団で囲い込み、不意打ちで仕留める……その程度の魔物だったな。
「では……1人5体だな」
「応よっ! バッキバキのグッキグキにしてやらぁっ!」
「やれやれ、僕は僧侶なんですけどねー。まっ、さっさと終わらせましょうか」
「心強いパーティーだ。さあ、やろうか」
ダンモッドが一気に突進し、ハンマーを叩きつければイビルトレントの巨体が吹き飛ぶ。
エイロゥの姿が消えると、イビルトレントの1体に豪雨のような矢が放たれた。
ビソーが天に祈りを捧げると、空中から光の光線が降り注ぎイビルトレントを消し去っていく。
私も負けていられないな……!
「フッ……!」
最も近いイビルトレントに近付き、剣を振るう。
イビルトレント体に幾つもの線が走り、細切れになって落ちていった。
不意打ちを仕掛けてくる魔物など、所詮この程度だろう。
私達は次々にイビルトレントを葬り、群れを5分足らずで壊滅させた。
「あーあーあーっ! こんな雑魚じゃ、ストレス発散にもならねえなぁっ!」
「まあ、こんなもんですよね。でもおかしいな……前はイビルトレントも、魔力探知に引っかかったと思うんですけど?」
「あの時は……ああ、ローブが居た筈だ……」
「【気配遮断】や擬態は誰か1人が気付けば、その時点で解除される。成程、【索敵】のスキルは意外と便利なのだな」
「じゃあ、連れ戻すのかよ? あんな戦闘も出来ねえ役立たずのカスをよぉ」
「まさか、その程度でパーティーなど、分け合う報酬が勿体ない。奴隷としてなら悪くないだろう」
「ガッハッハッハ、そうだよな! あんなのがパーティーじゃ、俺達の格も落ちちまうっ!」
だが、ローブの【索敵】範囲が本当に50メートルだったのだとしたら……少し早計だったかもしれない。
本当に奴隷として使うのを、考えておくべきだったかもしれんな。