初勝利の魔術師と盗賊
ダンジョンマスターの首が炎のドラゴンに向けられ、赤い目が輝き始めた。
細い光線がドラゴンの口に入り、内側から一気に破裂させる。
光線は更に真っすぐ進み、その先にはメシアが……このままじゃマズい!
「メシアッ!」
「なーに……?」
「うおわぁっ!?」
大きく呼びかけると、背後から返事が聞こえてきた。
振り向きながら飛び退くと、メシアが無表情で首を傾げている。
俺が声をかけたから、わざわざ転移してきてくれたのか……
「まあ、無事なら良かった。これで仕切り直しに出来る」
「うん……足1本取った分、ワタシ達が有利……?」
「そうだと良いんだけどな……」
足1本失った所で、機動力が減ってくれるとは思えない。
それに目から放たれる光線がさっきから面倒だ。
一応放つまでに間隔があるけど、結構短い。
メシアが手加減せずぶっ放せば良いんだろうけど……まだ早いか。
「今回のダンジョンマスター、相当強い……ローブ、まだ行ける?」
「俺は余裕だ。メシアは大丈夫か?」
「勿論……それじゃ、もう一回……時間稼いでほしい……!」
「分かった、やれるだけやってやる!」
再び覚悟を決めて、ダンジョンマスターの方に駆け出す。
挑んでくる俺を認識し、ダンジョンマスターは右手を俺の方に向けた。
腕の部分が盛り上がり、2つの銃口が現れる。
「弾丸は【盗む】じゃ追い付かないなっ!」
ダンジョンマスターの背後に回り込むように走り、撃ち出される弾丸を躱していく。
腰から上を回転させて、俺の動きを追いかけてくるダンジョンマスター。
丁度メシアの反対に位置まで来た所で方向転換、再びダンジョンマスターに真っ直ぐ突進していった。
まだダンジョンマスターは俺に敵意を向けている。
今度はこっちから攻撃を仕掛けて、まだまだ俺に注目してもらおうか!
「フッ!」
銃口が俺に追いつく前に、大きく跳躍。
ダンジョンマスターの頭上まで飛び上がり、その頭に着地。
振り落とされる前に、ダンジョンマスターに派生技を試す!
「お前の能力値は相当だろうな! 能力値を盗むッ!」
足を着けているダンジョンマスターの頭に、右手を置いて派生技を発動。
ダンジョンマスターの体が薄暗くなった後、俺の体が白く光り輝いた。
良し、成功してる……何が盗めた!?
▼ダンジョンマスターの ステータス がローブに加算された
▼ダンジョンマスターからは 10%しか 盗めない
聞こえてくる声からして、一応全種類の能力値を盗めたようだ。
しかし制約が厳しい能力値、やはりダンジョンマスターのような強敵から全ての能力値を盗めていない。
けど、これで少しは楽に……
「うぐぅっ!?」
派生技が成功した事に油断した隙を突かれ、ダンジョンマスターに体を掴まれてしまう。
そのまま目の前に持ってこられ、赤い目がゆっくりと輝き始めた。
マズイ、【盗む】は手じゃないと発動できない。
何とか腕だけでも出して、防がないと……!
「ローブを、離せ……っ!」
メシアの叫びが聞こえ、ダンジョンマスターが大きく体勢を崩す。
地面が斜めに盛り上がり、ダンジョンマスターの脇腹を殴りつけていた。
おかげでダンジョンマスターの腕から解放され、俺は地面に着地する。
反省は後回しにして、このままダンジョンマスターを崩してメシアの魔法に繋げるんだ!
「うっ、ぉぉ……っ!」
ダンジョンマスターの足を両手で掴み、能力値を信じて力を込める。
今の俺なら……こんな馬鹿げた無茶でも……
「うおおおおおおっ!」
「嘘……あの巨体……持ち上げたの……!?」
雄叫びを上げながら、ダンジョンマスターを少し持ち上げる。
ロックゴーレムとアイアンゴーレム、更にダンジョンマスターの10%の能力値があって……何とか出来た。
これならメシアの魔法を、光線で防げないだろ……!
「メシアッ! そっちにぶん投げるぞっ!」
「う、うん……! 任せて……っ!」
「おりゃぁぁぁぁああっ!」
メシアに呼びかけて魔法の準備をしてもらい、俺は全力でメシアの方にダンジョンマスターを放り投げる。
「ローブの作ったチャンス……ワタシが絶対に活かす……っ!」
メシアが真剣な表情で、杖をダンジョンマスターに向けた。
地面が盛り上がり、拳の形となってダンジョンマスターを天高く打ち上げていく。
ダンジョンマスターのクリスタルの体が砕けたが、まだ核は出てきていない。
「メシア、俺の真上にっ!」
「任せて……叩き落す……っ!」
メシアが上に杖を向けると、今度は天井の岩が拳となってダンジョンマスターを打ち下ろす。
俺は落下地点に駆け込んで、落ちてくるダンジョンマスターに向かって右手を突き出した。
「威力を盗むッ! これでどうだっ!」
落ちてくるダンジョンマスターの巨体を、俺の右手が強烈に弾き返す。
胸のクリスタルが一気に砕け散り、青い球体の宝石が姿を見せた。
そのままダンジョンマスターは天井に叩きつけられ、力なく上から落ちてくる。
落ちてくる位置から離れ、轟音を立てて着地するのを見届けた。
「ローブ……!」
「分かってる! 起き上がる前に、【盗む】接触優先っ!」
土煙が晴れた時に見えたのは、腕を使って何とか起き上がろうとしているダンジョンマスターの姿だった。
メシアに呼びかけられ、ダンジョンマスターの下に滑り込みながら核に触れる。
青い球体を手にしながら、ダンジョンマスターの体を潜り抜ける。
▼ダンジョンマスターから ゴーレムの核・特大 を盗んだ
水晶玉サイズのゴーレムの核を手に持ち、素早く体を起こす。
ダンジョンマスターの目が光を失い、体を支えていた腕から力が抜けた。
そのままダンジョンマスターは倒れ込み、動き出す気配は無い。
「勝った……のか?」
「勝ったよ……!」
口から自然と漏れ出して疑問に、嬉しそうなメシアの答えが返ってきた。
呆然と立っていた俺を、駆け寄ってきたメシアが飛びつく。
顔を上げたメシアは、嬉しそうにニッコリと微笑んでいた。
「ローブの、おかげ……! ワタシ達の、初勝利……!」
「……ああ、そうだなっ! 俺達の勝ちだっ!」