驚かされる盗賊
「頼む無鬼、メシアの両親が来てるから大人の姿で会ってくれないか!?」
「いつもより早く起こすから、何事かと思えば……まあ、構わぬぞ」
「ありがとう、凄い助かるよ」
「じゃが妾のあの姿は、物凄く燃費が悪い。長く維持するとなると、相当の精気と魔力をお主からいただくぞ?」
突然の頼み事にも、無鬼は嫌な顔をせずに了承してくれた。
何かを用意する必要があるみたいだが、俺から頼んだ事なのだし当然だろう。
昔は確か……胸を貫かれて、心臓を掴まれたんだっけ?
「ああ、好きなだけ使ってくれ。で、俺は何をすれば良い?」
「1年前と同じじゃ。お主の心臓を直接掴み、魔力と精気を一気に吸い上げる……かなり体力を持っていかれるが、それでも構わぬのじゃな?」
「体力なら【回復魔法】で、回復出来る。それじゃあ、一思いにやってくれ」
俺は胸元をはだけさせ、無鬼が心臓を貫きやすいように膝を着く。
胸の中心に手を添えられ、無鬼は泥に腕を突っ込むように俺の心臓に手を伸ばした。
まさか心臓を直接、2回も触られるなんて……
「それでは一気に吸い上げるぞ。立ち眩みをしてしまうじゃろうが、妾に寄りかかれ」
「……っ!」
無鬼の言う通りに精気と魔力を一気に吸い上げられ、膝に力が入らなくなる。
だが体が完全に崩れ落ちる前に、大人の姿になった無鬼が支えてくれた。
これは……思っていた以上に、力が入らなくなっている。
「ローブよ、傷を治す余力はあるか?」
「あ、ああ……何とかな」
自分の胸に手を当てて、【回復魔法】を使って直ぐに塞いだ。
これで傷と精気の方はどうにか出来たが、魔力の方は時間か薬じゃないとどうにも出来ない。
魔力を補給する薬は、丁度切らしてるんだよな……
「この姿で、メシアの両親に挨拶をするという話じゃったが……お主の方は、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけれど、残念ながら休む暇も無いんだ。このままキッチンまで連れて行ってくれ、お茶を出さないと……!」
「分かったのじゃ、それではゆっくりと――」
「久しぶりですね、ローブ君」
後ろから聞き覚えのある女性の声が聞こえ、俺は無鬼とゆっくり振り返る。
部屋に入ってきていたのは、メシアをそのまま大人にしたような女性。
「お主は……メシアの姉で、良いのかのう?」
「よく言われるけど、違います。私はメシアの母親、マリア・マギーカと言います。お角が生えた貴女は……確か無鬼ちゃんね、初めまして」
「なんとっ!? メシアの母か! お主の言う通り妾が無鬼、メシアとは仲良くさせてもらっておる」
「ウチのメシアが迷惑をかけているようで、申し訳ありません。でも手紙では小さなお子さんの姿をしてるって、書いてあったんですけど……」
「……のうローブ。妾は大人の姿になる必要、無かったのではないか?」
「俺もそう思ってきた……」
無鬼とコソコソ話していると、マリアさんの視線が俺の方に向けられる。
よく考えればメシアと手紙でやり取りしているんだから、無鬼を知っていてもおかしくなかった。
いきなりの事に、考えが追い付いていないんだな……精気と魔力が無駄になっていると思うと、辛い。
「ローブ君、キッチンを借りても良いですか? お茶を淹れてこようと思いまして」
「あ、すいません……今すぐ自分が淹れますから……」
「無理しないでください、顔色が悪いですよ。ローブ君は先にリビングへどうぞ、ヨーセフが待っています」
「…………分かりました、お願いします」
無鬼に肩を貸してもらいながら、マリアさんをキッチンに案内する。
もう一度だけ手伝おうとしたけれど、笑顔で首を横に振られた。
なので俺と無鬼は大人しく、リビングへ歩く。
「ローブ君……お邪魔しているよ……」
「お久しぶりです、ヨーセフさん」
物静かで落ち着いた男性、ヨーセフ・マギーカさん。
優しい人だと思うんだけど、静かなせいで威圧感を感じてしまって……正直苦手だ。
でも俺はメシアの事をくださいと、言わなけれなならない……!
「はーい、お茶が入りましたよー」
俺が無鬼に座らせてもらうと、見計らったかのようにマリアさんが戻ってきた。
机にそれぞれのお茶とお菓子が配られ、俺は逃げ場を失っていた。
メシアを村に帰さなかった事、やっぱり怒られてしまうんだろうか?
「ご挨拶の前に……先に言わせてほしい……!」
「はい、何でしょう……?」
何か会話を切り出さなきゃと試行していると、ヨーセフさんから先に話しかけてきた。
不意を突かれた俺は、無理矢理に返事を絞り出す。
挨拶よりも先に言いたい事……駄目だ、想像もつかない。
「メシアを……ウチの娘を、よろしくお願いします……!」
「ローブ君、よろしくお願いいたしますね……!」
そう言ってメシアのご両親が、ゆっくり深々と頭を下げてきた。
この不意打ちにはシーリアスと無鬼も、そして当事者である俺とメシアも戸惑ってしまう。
いや、だって……そんな、何で!?
「お……俺で、良いんですか……?」
そう聞き返す事しか、俺には出来なかった。
メシアのご両親が何を考えているのか、ゆっくりと聞いていかないと……!