ダンジョンマスターと戦う魔術師と盗賊
弾かれたように上を見上げた瞬間、巨大な何かが降ってくるのが分かった。
衝撃に備えてしっかりと構えた瞬間、部屋全体が大きく振動する。
目の前に降り立ったのはアイアンゴーレムを遥かに上回るクリスタルで出来た巨体、下半身は蜘蛛のような8本足、上半身は人型で腕が2本で赤い1つ目。
これが……ゴーレムファクトリーの新しいダンジョンマスター!
「名前を付けるなら、クリスタル・スパイダー・ゴーレムって感じか?」
「いいね……! カッコいい……!」
俺達を見つけたダンジョンマスターが雄叫びのように駆動音を出す中、俺とメシアはそんな下らない会話をした。
侵入者である俺達を睨み、ダンジョンマスターは赤い目を鋭く光らせる。
「っ!? 【盗む】魔力を盗むッ!」
赤い目から太い光線が撃ち出された瞬間、右手を突き出して派生技を発動する。
これは威力を盗むの魔法版、魔法攻撃を無効化して魔力を回復するという派生技だ。
右手に触れた光線は俺の体内に吸い込まれていき、急な魔力の増幅に体が弾け飛びそうなってくる。
「うっ……ぐぅっ……!」
「ローブ、任せて……貰うよ……!」
「えっ……ああ、頼む……!」
俺の違和感に気付いたメシアが背中に手を当てると、魔力がメシアの中に移動していく。
やがて光線が途切れていき、完全に光線を防ぎきれた。
と同時に後ろに居たメシアが隣に立ち、ダンジョンマスターに向けて右手を突き出す。
「はい、お返し……!」
突き出した手から同じような太い光線が、ダンジョンマスターへと撃ち出された。
避ける間もなく襲い掛かる光線を、ダンジョンマスターは2本の腕を交差して受け止める。
メシアが居なきゃ盗んだ魔力に耐え切れない所だった……あの攻撃は避けないといけない、気を付けないと。
メシアからの光線が途切れても、ダンジョンマスターは無傷だった。
「ローブ……時間稼ぎ、お願いね……?」
「任せとけ、それじゃあ……行ってくる!」
ガードを解くダンジョンマスターの前に立ち、何時でも動けるように構える。
背後ではメシアが杖を構え、魔法に使う魔力の量を調整し始めていた。
初めてだ……初めてダンジョンマスターとの戦いに参加できる!
しかも相手はAランクのダンジョンマスターと間違いなく強敵、なのに俺は負ける気が全くしなかった。
「さあ、来いよっ!」
武器も持たずに素手で構える『盗賊』の俺、その後ろで杖を構え魔力を調整している『魔術師』メシア。
ダンジョンマスターが脅威と判断したのは、やはり俺ではなくメシアの方だった。
8本の足を高速で動かし、俺の事を無視してメシアの方へと駆け出していく。
「結構、硬かった……これくらい? うーん……もう少し必要かな……」
巨大なダンジョンマスターが高速で迫っているのに、メシアは目を閉じて魔力の調整に集中し続けていた。
それだけ俺が時間を稼ぐって事に信頼してくれている証、だったら俺はその信頼に応えるのみ!
その為に俺が出来る事は、やっぱり【盗む】事だ!
「【盗む】視線を盗む!」
通り過ぎていったダンジョンマスターの背中に向けて右手を伸ばす。
そのまま派生技を宣言しながら手繰り寄せるように手を引くと、ダンジョンマスターが動きを止めて手の動きに合わせてこちらに振り向いた。
この派生技は面白い効果を持っていて、何と【盗む】の一種なのに触れずに発動できる。
その効力は相手を強制的に自分に向かせるという、あんまり意味の無さそうな派生技だ。
更にもう1つ、触れなくても発動できる【盗む】!
「【盗む】敵意を盗む!」
今度は左手を伸ばし、派生技を宣言しながら手繰り寄せるように手を引く。
ダンジョンマスターの目が赤い輝きを放ち、俺の方へ体をゆっくりと向けた。
これは『重歩兵』や『盾使い』のスキル、【盾技】の敵意を自分に集める派生技に似ている。
あちらは完全に敵意を自分へ向けるのだが、敵意を盗むの場合は味方に向けられている敵意じゃないと盗めない。
微妙に使い所が難しいが、メシアに敵意が行かせないようにしっかり使わないとな。
「行くぞ、【盗む】威力を盗むッ!」
ダンジョンマスターはこちらへ大きく跳躍し、8本の足を合わせて1本の大きな槍のようにしながら落下してくる。
どんな頑丈な盾ですら貫きかねない巨大な槍に、俺は臆する事無く右手を突き出した。
「自分の力で吹き飛びなっ!」
槍の先と右手が触れた瞬間、ダンジョンマスターの巨体が嘘のように打ち上がる。
流石は超大型のゴーレム、攻撃の威力が尋常じゃない。
能力値がかなり高くなった今の俺でも、まともに食らえば危険だろう。
「まだまだ俺と遊んでもらうからなっ!」
ダンジョンマスターは吹き飛ばされた体勢から、くるりと宙返りして着地し直す。
再び俺に赤く輝いた目を向けてくると、今度は光弾を雨のように激しく撃ち出してきた。
だがこの程度の弾幕なら、魔力を盗むを使うまでもない。
存在する光弾を見切り、光弾の隙間を縫うような最小限の動きで躱しながら近づいていく。
「足一本よこせっ! 【盗む】装備を盗むッ!」
▼ダンジョンマスターから クリスタルの足 を盗んだ
足元へと潜り込み、大きく跳躍しながらダンジョンマスターの足の根本に触れる。
派生技が発動し、ダンジョンマスターの水晶で出来た蜘蛛のような足をもぎ取った。
そのまま鎌のように振り回し、ダンジョンマスターの頭部に鋭く尖った足先を叩き込む。
突き刺さった箇所から火花を散らし、横にバランスを崩すダンジョンマスター。
「ローブ……そろそろ、行くよ……!」
「ああっ! 頼むぜ、メシアッ!」
メシアの準備が完了し、俺はダンジョンマスターから大きく距離を取る。
俺と入れ替わりにダンジョンマスターに迫るのは、巨大な炎で形成されたドラゴン。
周囲に熱気を撒き散らしながら、大口を開けてダンジョンマスターへ襲い掛かる。
これなら……行けるか!?