表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/100

パーティーを追放された盗賊

「悪いがローブ、君にはこのパーティーを抜けてもらおうと思うのだ」


 鶏が朝の迎えを告げる、宿屋の一室。

 ベッドに腰かけるパーティーのリーダー格、赤い髪の『剣士』ソルマは淡々と告げた。

 唐突に告げられた言葉に、俺は目を丸くする。


「待ってくれよソルマ! 俺が何をしたって言うんだ!?」


 うろたえながら紡いだ言葉を、青髪の『僧侶』ビソーが鼻で笑い飛ばす。


「逆ですよ、愚か者。貴方が何もしてないから、パーティーを抜けろと言っているんです」


「どういう事だよ? 俺は『盗賊』として出来る限りのサポートをしてきたつもりだ!」


 俺の職業は支援職である『盗賊』。

 使えるスキルは【盗む】【索敵】【鍵開け】【罠解除】の4つだ。

 【盗む】以外のスキルはもう熟練度が最大で、パーティーのダンジョン攻略をかなりスムーズにしていたと自負している。

 俺の訴えを聞いて、緑髪の『弓兵』エイロゥが睨みつけてきた。


「戯れを……貴様は常にサボっていただろう……」


「はぁ? 俺は出来る限りの事はやってるよ!」


 俺がそう反論した瞬間、巨大な拳が鳩尾(みぞおち)に突き立てられた。

 息が詰まり、その場で俺は(うずくま)ってしまう。

 殴ってきたのは大柄な体格のスキンヘッド、『重装兵』ダンモッドだ。


「ゲッホゲホッ! っ、うぅ……」


「出来る限りの事はやってるだとっ!? 冗談言ってんじゃねえぞゴルァッ!」


 倒れ込む俺の背中を、ダンモッドは何度も踏みつけてきた。

 呻き声を漏らしながら、俺の反論する気力を削られていく。


「止めたまえ、ダンモッド。床を血で汚しては、宿屋の方に迷惑がかかる」


「チッ、そうだな。俺はこのまま殺してやりてえよ、ペッ!」


「ぅ、ぐぅ……っ」


 見かねたソルマが止めてくれたが、その優しさは俺に向けられなかった。

 ダンモッドの吐き捨てた唾が、俺の後頭部にかかる。

 俯いた俺の顔を見る為、ビソーが髪を掴んで持ち上げた。


「お馬鹿なローブ君、よぉーく聞いてくださいよ? まず貴方の【索敵】、自分では半径50メートルも分かるんだーって言ってましたけど……そんな自己申告で僕らは騙せない」


「そもそも……10メートル程度であれば……このパーティーは気付けるのだ……」


「そうそう、エイロゥの言う通りっ! テメエのスキルなんざ頼らなくても、俺らなら余裕だっつーのっ!」


 何を言っている……【索敵】の熟練度を上げると、宝の位置が分かるようになる。

 俺が今まで当然のように宝箱を案内したのは、【索敵】のおかげなんだぞ!?

 頭には反論が浮かぶが、まだ苦しくて声には出てこない。


「次は【鍵開け】ですか。熟練度を上げたからどんな鍵も1秒とかからず開けられるとの事ですが……」


「いつも貴様が真っ先に手を付けるな……? 本当に鍵があったか、怪しい物だ……」


「本当は鍵なんてついてねーんだろ? 鍵付きの宝箱なんて滅多に無いって聞くしなっ!」


 【鍵開け】のスキルで、モンスターの擬態を見破る事が出来る。

 俺が真っ先に手を付けるのは、その確認をしているんだ……!


「【罠解除】に関しては、足も止めずに解除してる……でしたっけ? 罠なんて無かったから、後ろめたくてそんな事言ってたんでしょ?」


「ち……ちが……っ!」


「はーい、君の反論は聞いてませーんっ!」


 ビソーはニッコリと笑いながら、俺の顔を床に叩きつける。

 再び持ち上げて鼻血が垂れると、その箇所に俺の顔を擦り付けて拭き取った。


「最後は【盗む】ですけど……コレに関してはローブ君、あんまり使わないし分かってるでしょう? 盗むなんて、敵を倒して丸ごと持ち帰れば要らないって」


 【盗む】でしか手に入らないアイテムがあるって、言っても皆は信じてくれなかった。

 だから【盗む】で取ったアイテムは、素材を売る時にこっそり混ぜてきたのに……!

 今まで黙っていたソルマが、大きな溜息を()く。

 ゴミでも見るような冷たい目が、俺へと向けられていた。


「所詮は『盗賊』、名前からして卑しい職業。上手く騙して私のSランクパーティーで甘い汁を啜ろうとでも考えていたのだろうが……」


 ソルマの腰に差した剣が、俺の眼前に突き付けられる。

 その切っ先はゆっくりと下がっていき、首にチクリと痛みが走った。


「残念ながらそうはいかん。だから君とはここでお別れだ。安心したまえ、王国に戻る金くらいは置いてあげよう」


 ビソーが俺の髪を引っ張って、仰向けにひっくり返す。

 そんな俺にエイロゥが、ジャラジャラと音の鳴る袋を顔面に叩きつけてきた。


「出来ればもうニ度と、顔も見たくないものだな……行くぞ」


「次のパーティーでは上手くサボれると良いですねぇ~? まあ、無理でしょうけど」


「さらばだ……卑怯者よ」


「お別れの一撃だっ! あばよっ、クソ野郎っ!」


 ダンモッドがトドメと言うかのように、俺の顔面を踏んづけた。

 そのまま靴底を念入りに押し付け、豪快に笑いながら部屋を出ていく。

 俺がサボっていたと……アイツらはそう言うのか?


「なら……撤回させてやる」


 パーティーから抜けさせた事を後悔する程、俺の名を上げてやるんだ……!

 どれだけ時間がかかっても良い……必ず見返してやる。

 元パーティーが出ていった扉を睨みながら、俺はそう心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ