2.私は中道を行く
つい先日、実家に帰った。
車で帰ったのだが、実家までの道のりが長いため、高速道路を使った。気楽な一人旅である。
思うのだが、高速道路は3車線はあると良いのだ。
2車線だと混むし、高速道路によっては対面通行で1車線の区間のあるところもある。
そういったところだと大変混みあい、運転も緊張してしまうのだ。
それで、3車線の道路では、私は真ん中の車線を走る。まぁ結構な人がそうだとは思うのだが。
左の車線はトラックなどがよく走っていて、場合によっては制限速度よりもだいぶ遅く走っていたりするし、右車線はとんでもなくスピードを出す車がきたりして怖いのだ。
なので、私はほぼ真ん中の車線を走るのだが、真ん中の車線も色々な車が走っている。
私の走りたい速度で他の車も走ってくれていれば良いのだが、もちろんそんな車ばかりではない。
私よりも速い速度の車であれば、私が走っていても右車線から追い抜いてくれるので安心なのだが、問題は私の走りたい速度よりも遅い車である。
それも少し遅い車が厄介なのだ。
かなり遅い車だと追い抜く気になるのだが、少し遅い程度だと合わせて減速してしまう。
そうして前の車に合わせて走っていると、後ろからくる車が結構な数、追い抜いていく。
私の走りたい速度が、そこまで早い速度ではないため、その速度よりも遅い速度で走っていれば、大抵の車が追い抜いてしまうのだ。
どんどん追い抜かれていくと、自分も前の車を追い抜いたほうが良いのだろうか、という気になったりするのだが、そういう時はある言葉を思い出す。
私は中道を行く。
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これは昔、ブッダのアニメを見た時に知った言葉である。
詳細は覚えていないが、ブッダが悟りを開くために過酷な修行場に行って、他の修行僧と一緒に地獄のような修行を重ねた末、こんな極端なことせずに楽と苦の中間くらいで生きていきます、という境地に達した的な内容だった気がする。
いかんせん、昔見たアニメだったことと、私の記憶力もあまり自信の持てるものではないため、そんな感じで記憶していた。
なんかブッダと一緒に小さな男の子も一緒に修行場に行ったが、その男の子は肉食動物に食べられてしまって、その男の子はそこで動物に食べられる運命だったのだ、的な内容もあった気がする。
それでブッダは世の中の無常を知ってうんたらかんたら、という感じだったと思う。曖昧だが。
そして、過酷な修行をやめたブッダが、他の修行僧に対してこう言うのだ。
「私は中道を行く」、と。
ブッダ役の吉岡秀隆のなんともいえない感じの声がそうつぶやくのだ。
なんだかそのシーンは印象的に感じたので、その言葉だけは強く記憶に残っている。
・・・・・・
そんな良い言葉なのだが、現状、なかなかこの言葉を使うタイミングがない。
そんな中での3車線の高速道路である。
後ろの車が右車線から追い抜くたびに、ここぞとばかりに私は「私は中道を行く」とつぶやくのだ。
そして、どれだけいい声で「私は中道を行く」と言えるかを、何度も試すのだ。
そんな感じで10時間を超える長旅の、およそ10分くらいの時間を一人車内でぶつぶつ言いながら走るのだ。
いまだ、吉岡秀隆のような「私は中道を行く」はつぶやけていない。