表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2  私は聖女になりたい!

「聖女がお会いになるそうです」


 午後のおやつのクッキーを食べていると、メイドさんがやってきてそう言った。

 リキも当然ながらついてきたけど、聖女の間には入ってこなくて、私と清さんは二人きりになった。

 そしたら。めちゃくちゃ泣かれた。

 聖女なんてなりたくない、代わってくれないかと。

 泣きたいのは私。

 私だって代わってもらえるなら代わってほしい。


 清さんは、やっぱりお得だなと思う。元の世界でもお父さんは商社勤めのエリートで、お母さんは専業主婦。一軒家に住んでいて、顔も綺麗。友達も多くて、いつもみんなに囲まれていた。

 こっちでも聖女として、選ばれ、この世界の重要な役を担う。

 王様だって、敬う聖女様。


 羨ましすぎる!


「私だって変わってあげたいですけど、無理なんですよね。顔が似ていたら、その可能性もなきにしもあらずなんですけど、ほら、私、清さんみたいに美人じゃないし」

「そんな、美人じゃないって。雪ちゃんも十分可愛いよ」


 性格まで良い清さんは、泣きながらもそう言う。

 彼女は性格までいい。

 

 私が唯一彼女に勝っているのは学校の成績くらい。

 友達がいるけど、本の貸し借りをするくらいで、遊んだりするわけじゃない。暇な私はとりあえず勉強した。テストでいい点をとったら、好きな漫画を買ってもらえるから、頑張った。

 なので、成績だけは彼女よりいい。それがよくても何も変わらないけど。


「あの……、雪ちゃんは日本に戻れる方法が見つかったら、帰るの?」

「うん。嫌だけどね」


 はっきり答えたら、清さんはまた泣いてしまった。

 しょうがないじゃん。

 帰りたくないけど、帰ってほしいって言われてるんだから。

 今の生活は嫌いじゃない。聖女じゃないけど、別の世界からきたってことで特別な目で見られるのは気持ちいいし、だけど、帰れって言われているから仕方ないでしょ。


 清さんとの面談はそんな感じですぐに打ち切られて、私は部屋に戻るように、超イケメン騎士に言われた。聖女の間を出ると筋肉だるまのリキが待っていた。


「めちゃくちゃ、嫌そうな顔だな」

「ああ、ごめん」


 顔に出てた?

 ごめん。

 だって、なんかあんまりにもイケメン騎士が王子様みたいで、その王子様に仕えてもらう清さんがうらやましいなあと思ってさ。

 本当、何が不満なんだ。清さん。


「聖女様は元気だったか?」

「うーん。泣いていた」

「やっぱりか」

「え?もしかして聖女の業務をしている時も泣いているの?」

「ああ」

「うわあ。それってまずいんじゃ」

「ああ。皆でどうしたら聖女様を笑顔にできるか考えているらしい」


 うわ。

 くだんない。

 何が笑顔にできるかだって。

 私だったらいつも笑顔でいられるのに。

 聖女だよ。聖女。

 みんなの聖女様。


「じゃあ、俺は外で待ってる。何かあったら、言ってくれ」

 

 筋肉だるまはそう言って、私を部屋に送ると出て行こうとするから、引き止めた。


「暇なんだよね。なんか本とかないの?」

「本?あるけど、読めるのか?」

「多分」

「え?本当か?ちょっと待ってろ」

「は、え?」


 リキはものすごい驚いた顔をすると、珍しく乱暴に扉を閉めて、いなくなってしまった。


 なんなの?

 本が読めることはすごいことなの?

 だって、なんかこっちの人と会話できるのと同時に、文字みたいのも読めるようになったみたい。ミミズみたいな文字なんだけど、じっと見ていると日本語に変換される。

 壁に描かれた文字くらいだけど、読んだことがある。


 それって普通だと思ったけど、違ったの?

 もしかしたら、清さんは読めないの?


 私の予想は当たり、文字が読めるってことで、私が今度は聖女様になった。

 清さんも嬉しそうで、私?私も最高に嬉しかった。

 だって、聖女だよ。

 物語の主人公じゃない。


 でも聖女になって、清さんの辛さがちょっとわかった気がした。

 自由がない。 

 朝から晩までスケジュールぎっちり。

 自由は本当に、清さんと会うくらいで。

 でも選ばれし聖女、みんなに敬われる存在。 

 だから頑張った。


 イケメン騎士たちも優しかったし。

 そうそう、リキは私から清さん担当になった。


「リキさんは、この花が好きなのね」

「はい」


 聖女の仕事の一つである、お偉い人とのお話、要は愚痴聞きを終わらせて、騎士たちに連れられ、廊下を歩いていると、声が聞こえた。

 それは、清さんとリキでとても楽しそうだった。

 

 そうだ。

 リキは先代聖女のこと綺麗だって言ってたし、清さんも綺麗だからそうだよね。

 


「聖女様?」


 胸が痛くて、私は足早にその場から立ち去ってしまった。

 そして聖女の間に駆け込む。


「聖女様。大丈夫ですか?」


 側で心配そうにかしづくのは、三人のイケメン騎士のうちの一人の、ケイ。


「大丈夫。ちょっと一人にしてもらえる?ちょっとだけでいいから」

「わかりました。次の面談を少しだけ遅らせます」

「ありがとう」


 ケイは優しい。

 だけど、それだけ。

 何を言っても優しく返してくれる。

 微笑みも優しい。

 だけど、何か表面的にしか思えない。

 他の二人も同じ。


 リキとは違う。

 リキは私に馬鹿とか平気でいっていたけど、なんかそこに本当の彼がいた気がする。

 でもそれも今となっては……。


 清さんは、聖女じゃなくなって笑顔を取り戻したみたい。

 帰る方法も見つかるみたいで、よかった。

 リキは、リキは清さんが帰ったら寂しいんじゃないかな。

 だって、あんなに親しげだし。


「なんなの?」


 そんなこと思っていたら、涙が出てきた。

 そうして、私はケイが呼びに来るまで泣いていた。


 それから、私はリキのことを考えないようにした。

 考えると泣きたくなったし。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ