95. 富と栄養
前回のあらすじ!
叡智の試練を突破したラスターさん!
さてお次は~?
さてさて、続いて私たちがやってきたのはデイライト・シティ! デイライトといえばもちろんあの人!
「よお、よく来たな! そろそろへばってんじゃねえのか?」
「んなわけねぇだろ」
出ました、アリエス=デイライトさん! さあ、ラスターさん、7つ目の試練も頑張ってくださいね!
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デイライト・シティ 市街地
「あっ、この前はどうも! そちらの方も、ありがとうございました!」
「あの子は何をやってるんだい?」
「以前ここに来たとき、町の方々に優しくしてもらった、と」
「ふ~ん、律儀なこと」
お礼をしなければいけないと思っていましたが、意外と早く再訪することになりました。街の人達にちゃんとしてお礼も言えて気持ちスッキリです!
「アリエスさん、ここはいい街ですね!」
「おっ、そうかい? 嬉しいねぇ、誇らしいよ」
アリエスさんは口元を緩ませながら街を見まわします。ホントに自分の街が好きなんですね。
「子どもを大事にしない街に未来の繁栄はないからな。子どもの君がそう言ってくれるなら、そうなんだろう」
「おー、そのとおりです!」
「おっと、子ども扱いは失礼だったかな、マドモアゼル?」
「いえいえ、そんな! 私なんてまだまだです!」
流し目で優しく見守る顔から父性が溢れ出していますね。きっとラスターさんのことも、こうして見守ってきたんでしょうね。
「ん? ラスターか……あいつも勇者になった頃はまだ子どもだったしな……」
リーバーさんの言葉を借りるなら「自信に満ち溢れていた頃」ですね。そして意外ですが、アリエスさんは、どうやって接すればいいか分からなかったと言います。
「街の子どもと遊んでやるのとは勝手が違うからな。前の勇者がいたのは3000年前だから相談できる相手もいない」
3000年前の人に話を聞くことはできませんからね。……いや、でもアリエスさんは……
「そうだ、降霊術を使って先祖を呼び出した。そしたら何て言われたと思う?」
「えっ、うーん……何ですか?」
「『自分で考えろ』……だってよ。俺は生まれて初めて、自分をダサいと思った」
逆に言えばそれまでは一回も思わなかったんですね、すごい自信です。けど、そこまでダサかったですかね? どっちかと言うとその羊さんみたいな出で立ちの方が……
「デイライトともあろう者が、“勇者”って名前にビビってたんだな。『特別な相手に違いない、特別扱いしなきゃいけない』ってな」
ラスターさんなら特別扱いは嫌がりそうですし、私もそれが正解だと思います。
「それからは、自分の子にするみたいに接した。それはもう、時に優しく、時に厳しく」
「自分で言うんですね……」
「そして……あの事件が起きた」
アリエスさんはしかめっ面でつぶやきました。あっ……聖剣の……
「見てられなかった。家族を奪われた悲しみ、想像だけじゃ寄り添えない。何て言ってやればいいのか……」
誰よりも家族を愛するアリエスさんだったから……打ちひしがれるラスターさんの姿、余計に辛かったでしょうね。
「なのにだ! リオやピスケスやリーバーは好き勝手に……」
「ああ……」
全体的に配慮の足りない発言が多かったですよね。結果的にいい方向へ転んだとはいえ。
「……でもそうなんだよな。俺があれこれと考えてる内にラスターは立ち直ってた」
アリエスさんは少し寂しそうに見えました。
「チギリちゃんよ、今から内緒話していいか?」
「えっ、何でしょう?」
私の耳元に顔を近づけ、そして気を遣って顔を逸らそうとしたボマードさんもグッと引っ張ってきました。
「俺な、引退しようと思うんだ」
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試練空間
そのころラスターは、豊穣の神・ウールコットンの試練を受けていた。
「料理だ。俺の舌をうならせてみろ」
包丁すら握ったことがないラスターにとって、それはあまりにも困難な課題であった。ただし、一人ならば──
「こーいう時のために、私が付き添ってんのよ。任せなさいよ」
スコッピは得意げに胸を叩く。オリオンの胃袋を掴むべく磨いた料理の腕、その表情には自信が漲っていた。
「食材と調理場はこちらで用意しておいた。神のパワーだ」
「青空の下のキッチンなんて趣きあるぅ~」
「そういうもんなのか……?」
「ふっ、腕が鳴るわ……」
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デイライト・シティ
「あの……やめちゃうんですか?」
「どうして突然そのような……」
心配すると、アリエスさんは高らかに笑い飛ばしました。
「はっは、そんな顔するな。後ろ向きな理由じゃないんだよ」
「そうなんですか?」
「君らが背中推してくれたおかげで、息子も一皮むけたからな」
“君ら”って言ってくれてますが、大体ボマードさんのおかげだと思います。いや、でもきっかけは私だからやっぱり私のおかげもある?
「ユズリハって知ってるか? 年寄りの葉っぱはポロッと落ちて、若い葉に場所を譲るんだ」
「年寄りって年齢では……」
「ただ譲って落ちていくだけじゃない。土壌に分解されて、若い葉の栄養になっていく」
土壌に分解……アリエスさん? さっきから穏やかな顔で語っていますが、まさか死ぬ気なのでは……
「うぅ……し、死んじゃ……」
「はっは! 死なん死なん! 俺が死んだら誰が家族を照らしてくれるんだ?」
笑われました。私の早とちりでしたか。
「それにやめるって言っても、今の仕事が片付いたら、だからな」
「今の仕事?」
「ラスターが普通の青年に戻れるようにな……それまで支えること、かな」
アリエスさんは白い歯を見せて笑いました。そうですね、家族と一緒に、ですね!
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「小海老とフルーツトマトのスープ!」
「薄い」
「サーモンカルパッチョ!」
「俺生魚ダメなんだよ」
「小鹿のロースト!」
「ちょっと重いかな」
「くっ! どうして……!」
スコッピの自信は粉々に打ち砕かれていた。次から次へと繰り出される彼女の得意料理にも、豊穣の神は不合格を出し続ける。
「諦めないわ! 不撓不屈!」
「スコッピさん……俺が作らなきゃ意味ないんじゃないか?」
「えっ?」
「いや、俺の試練だし……」
「……それもそうか。なんか作れる?」
ラスターは考え込んだ。料理をしたことがないラスターにそんなものあるはずはなかったが、一つ、心に残っている。
「……なあ、作り方わかるか?」
「しょうがないなぁ……話してごらん」
ラスターの思い出をもとにスコッピがレシピを再構築、彼女の指示に従ってラスターが手を動かす。
そしてラスターの一品が完成した。
「……どうぞ」
「料理名は?」
「……季節の野菜たっぷり鶏肉シチュー……です」
「いただこう」
豊穣の神は一口すくって、しっかり味わって、飲みこむ。
「……具材のカットだけは流石のモンだ。しかしなぁ、味付けはひどいもんだ。食えなくはないけどな」
「はぅぅ! 終わった……」
スコッピはガックリとうな垂れた。だが、豊穣の神はまだ何か、言おうとしている。
「これか? お前を豊かにしてくれた味は?」
「……この程度じゃないです。まだ全然です」
「そうか。いい親父さんだな」
「……自慢の父です」
豊穣の神はにやける口元を手で隠した。
「当たり前、って幸せだろ?」
「……知ってます」
「取り戻せよ。さ、次へ進め!」
「そのつもりです」
豊穣の試練、突破!(7/12)
続く!




