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94. 叡智で百戦危うからず!

前回のあらすじ!

進化の試練を突破したラスターさん!

さてお次は~?

ピスケスさんが目を覚ますのを待っていたので時間がかかってしまいましたね。そして、十二神官どきどきスタンプラリーもいよいよ6つ目、折り返し地点です!


 「ここは初めて来るとこですね」


今までに出会った十二神官さんは10人、つまり残り二人の内の誰かです。どんな人でしょうかねぇ。


 「よーし、ここだよー」


着いたみたいです。ここに十二神官さんが……大樹の上に家が建っていますが?


 「おっ、ラスター、スコッピ、ボマード……可愛らしいお嬢さん、よく来たのである!」


ベートーベン風の髪型の男性が出てきました。手際よく木を降りて近づいてきます。見かけによらずアグレッシブですね。


 「こちらは抜かりない。心して臨め!」



────────────



大樹前


 「そちらは初めましてかネ? ワタシはリーバー=ランスランスである!」

 「はいっ、そういう私はオシノチギリであります!」


髪型と住居と喋り方が個性的ですが、悪い人ではなさそうです。


 「いきなりなんですが、どうして木の上にお家を?」

 「自分で家を作ってみたかったのだが土地が見つからなくてネ。ランスランス家に所有権があるこの樹の上なら……と思ってネ」


ぶっ飛んだ行動の割には、理由が現実的です。なるほど自分で家を作りたくて……


 「えっ、自分で作ったんですか!」

 「うむ。調べるだけでは満足できない性分でネ……」


建物の建て方を調べている内に自分でも作りたくなってしまったと……! 行動力の化身です。


 「行動伴ってこその知識……であるとワタシは思っている」

 「ほー……知るだけではなく……」

 「うむ。とはいえこれは流石にやりすぎであった」


樹の上の家を見上げて呟きました。常識的な価値観です……


 「あ、それじゃあついでで“知りたい”ことがあるんですけど!」

 「うむ。何だネ?」

 「リーバーさんは、ラッさ……ラスターさんのこと、どう思ってますか?」


リーバーさんは「ほお」と唸りました。そんなに核心をついたことを聞いたつもりはないんですけど……


 「チギリは、なぜそれを知りたいのだネ?」

 「なぜ、って……十二神官の皆さんが、どんな思いでラスターさんを支えているのかと思って」


答えるとまた「ほお」と。そんなに感心するようなことですかね?


 「結論から答えるならば……彼は最高の勇者である」



────────────



試練空間


 「我が名は叡智の神・ウィズダム」


長髪の男神が告げる。不敬であるが、叩けば折れてしまいそうな細い体であった。


 「試練の内容は……これである」


ウィズダムの右の手の平に、赤いリンゴが現れる。


 「ワタシからこれを奪ってみせよ。それが試練である」

 「おっ」


スコッピは正直に「もらった」と思った。神とはいえ、あのような細っこい肉体でラスターに勝てるはずはない、そう思ったのだ。


 「どこからでも、かかってきなさい」


ラスターは当然、正面突破を試みる。しかしウィズダムは、最小限の動きでひらりと身をかわし、ラスターは地面に正面衝突した。


 「うっそ、素早いじゃん!?」

 「いや……早いって言うより……」


ラスターが察していることを察したウィズダムは静かに種明かしを始めた。


 「その通り。今までの勇者の戦いは、天界から全て見ておった。ラスターの動きはすべて予見できる」

 「この試練も……厳しそうだな。望むところだ」



────────────



ランスランス宅


リーバーさんは「最高の勇者」との評価をしてくれました。ラスターさん、高評価ですよ!


 「勇者になってすぐのラスターは……正直あまり好かなんだ」


あれ? それではそこから一体どのような逆転劇が?


 「才覚に恵まれ、見目麗しく、それでいて努力も怠らない、素晴らしき青年であった」

 「でも嫌いだったんです?」

 「嫌いではない。あの頃のラスターは自信に満ちていた。……それが不安であった」


どういうことでしょうか……実力あっての自信満々なら安心じゃないんですか?


 「魔王は卑劣にして狡猾である……もし罠にかかるようなことがあれば、自信を打ち砕かれ絶望に打ちひしがれるであろうと……」


リーバーさんの予見通りになりましたね。ラスターさんは魔王の罠にかかって聖剣を……


 「うむ。しかし予見通りにはならなかったのである」

 「えっ? なったじゃないですか?」

 「ならなかったのだよ。ワタシはラスターを見くびっていたのであるよ」


 『新しい勇者と、皆さんで、必ず魔王を討ち取ってください……』


 「そう言ったのである。魔王と対峙してなお、勇者ならば、我らの支えがあれば、討ち取れると信じていたのである」


 『気に入ったのである! 勇者は君しかいない!』

 『あの……話聞いてました?』


 「彼は素晴らしい知恵者であった」


ラスターさんが? 失礼ですが、知性という言葉とはあまり仲良くない人ってイメージが強いです。


 「教養などではないのである。己の強さを知り、打ちのめされて己の弱さを知り、そして同胞の心強さを知った──もはや何も心配することはないのである」


ラスターさんは知っている──だからこそリーバーさんも認めたんですね。


 「よく分かりました!」

 「分かったかネ? それでは、どうする?」


リーバーさんが瞳を覗き込んできます。どうするって?


 「知って、どうするか、までが知識である、ぞ?」


知ってどうするか……私は……何も変わらないです。


 「ラッさんを助けてあげたいです!」

 「うむ。良い答えである!」



────────────



試練空間


ラスターは、叡智の神の足元に突っ伏していた。どこから攻めようと、彼の動きは完全に読まれていた。


 「……終わりなのか?」

 「ぜぇっ……へへ、見くびらないでほしいな」


ラスターは懲りずに正面から飛びかかる。


 「ああ、もう、バカ!」


スコッピが嘆いたとおり、叡智の神は左に身を避ける。


 「分かっていた」

 「俺もだ」


叡智の神の目の前を、しなやかな脚が通り過ぎる。ラスターのつま先が右手のリンゴを弾き飛ばした。


 「……ほう」

 「よっしゃぁ!」


ラスターは素早く身を起こし、転がっていったリンゴへ駆ける。叡智の神は、もはや追うことはしなかった。


 「……取った!」

 「やるじゃん!」


リンゴを拾った。見事に奪い取ってみせたのだ。


 「闇雲に突っ込んで来ていたわけではなく、君の動きに対してワタシがどう動くか、ずっと観察していたネ。そして見事に己の動きに組み込んで見せた。見事な機転とそれを実現する強靭な肉体。素晴らしいネ。合格である」


 「だってよ! べた褒めじゃん!」

 「どうも……」


 「正しき知識、正しき心、正しき行動、全てが繋がっている。次の試練も頑張ってくれ」

 「……はい」



叡智の試練、突破!(6/12)


続く!


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