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82. お姫様の秘密

前回のあらすじ!

十二神官のギューホゥ=タウラスさんが、お姫様に会わせてくれるそうです!

どうせ暇を持て余しているとか、失礼なことを言っていましたが、リアルプリンセスに会えるのは楽しみです!

 「はー、退屈だわー、やることありませんわー」


部屋の外まで聞こえてくる声で暇を持て余しています。ギューホゥさんは決してお姫様をディスっているわけではなかったんですね。


 「姫? 少しよろしいですか?」

 「えっ! ああ、はい! どうぞお入りになって!」


声が裏返っていますね。そんなに慌てなくても。


 「……どうしたの、タウラスさん。見合いの話ならお断りと……」


すごくすました様子で椅子に腰かけてますが、さっきの独り言を聞いているからでしょうか、まったく威厳とかは感じません。


 「……姫、ベッドが乱れているようですが」

 「え!? 違いますよ!? ベッドの上でゴロゴロしてたとかじゃ、そんなんじゃありませんからね!」


してたんですね。何でしょうか、この、私の中で何かが崩れ落ちていく音がします。リアルなお姫様ってこんなものなんでしょうか……?


 「おっほん! それより、そちらの可愛らしい女の子は?」

 「あ、どうも……わたしオシノチギリって言います……」

 「テンション低っ!」


ディ○ニーのプリンセスたちに目を輝かせたあの日々……こんな形で終わるのですか? 憧れというのはなんと脆く儚いものでしょう。


 「おそらくですが、チギリさんの世界での“姫”という言葉の認識と、姫のお姿にギャップがあったのではないかと……」

 「失礼ですわね! ……あら? ということは、あなたが勇者様のお付きの魔法使い様ですか」

 「あ、はい、そうです」


お姫様は私が転生してきたこと知ってるんですね。まあ、こう見えても偉い人ですしね。


 「こんな小さな子が……異世界からラスター様の花嫁候補を連れてくると聞いた時はビックリしましたけど……これは余計にビックリですわね……」


あれ? なんだかすごく初期の初期の設定の話をされている気がします。この人お姫様なのに、続報が耳に入って無さすぎじゃないですか?


 「いえ、姫、現在ではこれこれこのようになっておりまして」


ギューホゥさんがお姫様に耳打ちします。ここでようやく情報アップデートですか。


 「まあっ、そうでしたの! え、ラスター様にご祝儀包んだ方がいいかしら」

 「姫、それはまだ気が早いかと」


正直ポンの香りは隠しきれませんが、悪い人ではなさそうです。いつまでもガッカリしていたら失礼ですよね、ここは私が折れましょう。


 「しかしあのラスター様がよくぞまあ……」

 「お姫様、その裏には、この私の活躍が隠されているのですよ!」

 「あらっ、そうだったの! 詳しくお話聞かせてもらえる?」

 「もちろんですよ!」


ギューホゥさんは「私はこれで」とご退出されました。見た目に反してスマートな方です。そして私は、ラスターさんとリリスさんの馴れ初めをじっくりたっぷりと聞かせて差し上げるのです! こんなに楽しい嬉しいことはありません。


 「凄いです……! ぜひ私の相手も見つけてほしいですわ……」

 「え? いいんですか?」

 「えっ、あ、いえ、すみません、ちょっとした軽口ですわ」


それは残念です。私の方はいつでもウェルカムなんですがね。そんなにマジの青ざめた顔で拒絶されたら私だってちょっとは傷つくんですよ。


 「はぁ……しかし弟に先を越されるとは……」

 「弟? ラスターさんのことですか?」


このお姫様ひょっとして、勝手にラスターさんの姉を名乗ってたりしちゃってるんですか? うっひゃー、特上ランクのヤバい人じゃないですか……


 「うわぁ……」

 「ち、違うんです、これはワケあることで……」


それではその言い訳を聞いてあげましょうか。これは娘として聞き捨てならない事態ですよ……


 「ラスター様と初めて出会ったのは、彼が勇者に就任した日でした」


かなり前からさかのぼるんですね。王族へのお目通りというわけですか。


 「本来でしたら、その時に彼と私、婚約するはずだったんです」

 「なぬ!」


確かに勇者とお姫様といえば王道のカップリングではありますが。しかしその話は結局流れたんですよね?


 「大変失礼な話なんですが……ラスター様を見た瞬間『彼はダメだ』って……」

 「あらまあ」


だったら仕方ないですね。とはいえお姫様の婚姻は国の一大事のはずです、そんな個人の意思でどうにかなるものなんですか?


 「それがですね、お父様とお母様も同じ気持ちで……」

 「あらまあ」


ラスターさんメッチャ嫌われてるじゃないですか。その後頑張って認められたんでしょうね……泣けますで。


 「そうじゃないんですよ。一目見た瞬間、分かったんです」

 「何がですか?」

 「生き別れた私の弟だって!」


お姫様の迫真の告白! そんなことってあります!?


 「あの、どうしてそう思ったんですか?」

 「え、なんかこう、ビビッ! と」


まさかの直感です! 本当だったら国の一大事ですよ、そんなので判断していいんですか?


 「そのあと彼には内緒で調べてもらったんですけど、『血縁者である確率がかなり高い」、と」


後でちゃんと調べたんですね、安心しました。……って、いやいや、安心できないですよ! ラスターさんが王子様ということは、その娘の私は!?


 「……私には、荷が重いですよっ!」

 「えっ、何の話?」


しかし、ギューホゥさんと「それはない!」って話していた矢先ですからね。これには私もビックリ仰天ですよ。


 「元々、今の王族は先代勇者の末裔ですから、不思議なことではないんですが」

 「初耳なんですけど!」


ていうかそれだけ要素が揃っているのに、あり得ないって言ってたんですか……ギューホゥさんって意外と鈍感なのでは?


 「でもこの話はくれぐれもご内密に……彼に無駄な動揺を与えたくはありませんから」

 「わかりました」


内緒にできる自信は、正直に言うとあまりないです。ラスターさんって結構こっちの動揺を見透かしてきたりしますからね……


 「なるべく、がんばって、ないしょにします」

 「いや絶対ですよ!?」


内緒にしなきゃいけないなら、こんな話聞きたくなかったです。後のことを考えると胃が痛いですよ……


 「姫、こちらにチギリ……連れの者がいると聞いたのですが」


扉をたたく音ともにラスターさんの声が聞こえてきます。


 「はい、いません! いや、います、私はここです!」


焦り倒して変な返事をしてしまいました。これではいきなりバレてしまいます!


 「……すみません、こいつが邪魔してたみたいで」

 「お気になさらず。私も楽しかったですよ」


不安ですけどお姫様との約束ですからね、必ず守り抜いてみせますよ。


 「チギリさんも、また来てくださいね」

 「あ、はい! ひっ……」


口に人差し指を当てて微笑んでいました。これだけ見るとまるで、ただの綺麗なお姫様みたいです。


そして微笑みの中に、バラしたら許さないという、強い意志が見て取れました。私は倒れました。


 「うーん……」

 「おい、チギリ!? しっかりしろーっ!」



続く!


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