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80. 腹いっぱいの夢カロリー

前回のあらすじ!

夜明けが近づいたその時、ラスターさんがいよいよ目覚めました! ここから反撃開始です!

ラスターさんがようやく駆けつけてくれました。これで百人、千人力ですよ! 先程真っ二つにされたスライムリッキーはもうくっついています。


 「あれがリッキー? 何をどうしたらああなるんだよ……」

 「一回倒したはずなんですけど……そしたら急に」

 「よく分かんねえってことか」

 「はい!」


ですがラスターさんなら何とかしてくれるはずです。実際、私を抱えながら相手の触手を難なく払いのけていますし。


 「あ、それから凍らせて砕くのはダメです! 氷が溶けたらまた元通りだって」

 「そうか……まあ、どのみちあのサイズじゃパワーが足りねぇ」

 「大きくなる前は炎が効いてたんですけど……」

 「今はダメなのか?」

 「炎が食べられちゃうんです!」


まったく、食い意地の張ったスライムさんです。ラスターさんは何やら考え込んでいるようですが。


 「それ、ちょっと見せてくれ」

 「えー、いいですけど……ふぁいやー!」


スライムに向けて火の玉を放ちますが、やはり例によってすぐに吸収されて消えてしまいました。


 「なるほどな……チギリ、魔力はまだ残ってるか?」

 「魔力って減るものなんです?」

 「……俺もよくは知らねえけど」


そしてラスターさんは「なるほど」と言っていましたが、何が分かったというのでしょうか?


 「炎の攻撃は効いてないわけじゃない。ほら、少しだが当たった部分がすり減ってるだろ?」


私にはよく分かりませんが、ラスターさんがそう言うなら間違いないのでしょう。


 「焼かれるより早く吸収してダメージを最小にとどめているに過ぎないってわけだ」

 「つまり……?」

 「一撃で消し飛ばせば倒せる」

 「ひゅー! ダイナミック!」


賢そうなことを言っていると思ったら、とんでもない脳筋作戦でしたよ! しかしそれだけの火力を出すにはあれを使うしか……


 『禁術は使うなよ! 絶対、使うなよ!』


……いや、待ってください。私の知るセオリーでは、禁止命令の重ねがけは「やれ」の意味です!


 「ラッさん!」

 「時間は稼いでやる」


私を下ろして、前に立ちます。本当に頼もしい背中ですね。今のうちに魔力を集中! ビッグバンのイメージを杖の先端に持って行きます。


 「勇者ァ! そこをどけィ!」

 「指一本触れさせねぇ、俺の仲間(・・)には」


ラスターさんが私のことを「仲間」って……! これは応えないわけにはいきませんね! ラスターさんが攻撃を捌いてくれている内に、一気に魔力をため込みます。


 「異界の知識を我ぁが物にィ!」

 「……見苦しい。3度も戦ったが、今のお前が一番弱い」


ラスターさんの猛攻に圧されて、触手が全部引っ込んでいきました。今です!


 「ラッさん!」

 「よし!」


宙返りして私の目の前から姿を消すラスターさん。これで心置きなく!


 「†インフィニティ・ヘル・フレイム†!」

 「ぬぁにぃ!?」


特大の火の玉が巨大スライムさんに直撃!


 「ぬぅん! この程度の提灯、食らい尽くしてくれるわぁ!」

 「そうしてもらえるとありがたい」


ラスターさんの言う通りです。†インフィニティヘルフレイム†は何より延焼が怖いのです。しかしスライムリッキーさんなら、欲張って独り占めしてくれると思っていました!


 「なんだこれは!? 食っても食っても……! い、いかん! このままでは、蒸発させられてしまう!」


吐き出そうとしてますが無駄なことです! 炎が炎を呼び新たな炎を生むのが†インフィニティヘルフレイム†。


とはいえ、吐き出されたら周りに燃え移る可能性もあるのでそれはあまりよろしくないです。


 「そぉーれ! 飛んでっちゃってくださーい!」


風の魔法ではるか上空へ! もうかなり蒸発してるので軽い軽いですよ!


 「あり得ん! 我輩が、こんな小娘に! 頼む、炎を消してくれ! もう限界じゃ! 頼む、頼むぅううううううう!」

 「……耳を貸すな」


ちぎれるような断末魔とともに、夜空に汚い花火が打ちあがりました。これにて一件落着ですね。


 「……今回はお前に助けられたな」

 「いや~それほどでも~」


ラスターさんは私をじっと見つめています。メチャクチャ険しい表情です。


 「お前は俺の仲間(・・)だ」

 「その顔で言うことですか?」

 「だから……もうそれで満足してくれ」


ちょっと何を言っているのか分かりませんね。


 「お前は……娘などでは、断じて、ない」

 「はっは、面白いこと言いますね!」

 「何もふざけてない!」


仲間であることと、娘であること、決して両立できないことでは有りません。仲間だから娘じゃない、なんてとんだトンデモ理論ですよ。


 「いいか!? まかり間違っても、俺の妻の胎内から生まれてこようとか、考えるなよ!?」

 「えぇ~……その発想は流石に引きます……」

 「お前が言うな!!」

 「あ、それより、『俺の妻』って誰のことを想定した発言ですか? やっぱりリリ……」

 「あー、もう、うるせえ! さっさと帰るぞ!」

 「照れないでくださいよ~ラッスターさ~ん」


娘にしてもらえるには、まだ時間がかかりそうです。だけど、諦めなければ、きっといつか……


 「いい感じに締めようとしすんなよ!?」


続く!


『選ばれしスライム』



──スライム……か。ふむ、物は試しだ、やってみるか。


魔王はそれに「知性」を与えた。単なる気まぐれの思い付きだった。


知性を与えられたそれ(・・)は、周囲の生物の観察を始めた。


中でもとりわけ興味を持ったのが「ニンゲン」という生物だった。


二足歩行とそれに付随する手先の器用さ、高度な言語能力、魔力という不思議な力。


それはまず、形体の再現を試みた。


それには骨格ないため、すぐに溶けて崩れてしまう。


脊髄動物を捕食した。


すると安定した骨格が手に入った。


次に言語の再現を試みた。


複雑な言語を再現するには声帯の構造を理解することが不可欠だった。


だから人間を捕食した。


するとたちまちのうちに、言語の再現に成功した。


成功したとて、それとスライムでは話し相手にならなかった。


それは、自分の、あるいはスライムという種族の力を誇示するかのように、手当たり次第に周りの生物を捕食するようになった。


自分にはこれほどの力がある。生物の霊長となれるだけの力が。


しかしそれの仲間は、ただうねうねとうごめくだけ。理解しているのか、興味を示しているかすら。


人間となら、あの高度な知的生命体なら、自分と対等に意思疎通が図れるのではないか、それはそう考えた。


だが、それは人間が嫌いだった。


スライムの粘液は薬に使えるからと、多くの仲間を手にかけた。初めて捕食した人間の記憶である。


そのうちに、それは孤独を埋めるように、知識を求めるようになった。通りがかった人間を手あたり次第に捕食していった。


──その程度ではお前の“知恵”の足しにはならんだろ。


目の前に現れた、おそらく人間の少女。あるいはその形をしている何か。


──どうせなら、世界第一の智者を奪えばよい。愚民共はお前を尊敬するぞ?


悪くない話だと思った。だがその前にこいつを奪ってからだ──飛びかかった瞬間、体のおよそ半分が消し飛んでいた。


──手を煩わせるな。私はこれでも、お前を最大限に評価しているのだぞ?


こいつに歯向かえば確実に死ぬ、野生の本能が大音量で叫んでいた。


──知性を持つスライム? 凄いじゃないか、私は見たことがない。お前は唯一無二の存在。こんな薄暗い森で、くすぶっていていい存在ではない。


それは、確かに選ばれた存在だった。


特別だから選ばれたのではない。「偶然」「そこにいたから」それだけのために、望んでもいなかった知性を与えられ、同胞からも孤立し、真に孤独となった。


死の間際、それは「命をもてあそぶな」と言われた。


しかし、本当に命を弄ばれていたのは、「それ」の方だったかもしれない。


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