71. 父のココロ、息子のココロ
前回のあらすじ!
ラスターさんのお父さん、すなわちチギリちゃんのおじいちゃんと初めての対面です!
でも二人はぎこちないみたい、一体どうして???
「そしたらラスターな、『鳥さんの真似した』って言いましてね。いやぁ、あのときは肝を冷やしましたよ」
「うわぁ……ラッさんたら活発だったんですねぇ」
ラスターさんのお父さんから昔話を聞かせてもらっているところですよ! ラスターさんは恥ずかしがっているのか、外に出てしまいましたが。
「昔から自分の命を顧みないところがありましてね……大きくなってからはそんなことは少なくなりましたが……」
「ああ、なんか分かります」
今でも少しその名残が見られるところはありますが。周りの人は心配なんですから、もうちょっと自分を大事にしてほしいですよねぇ。
「こんなところかね。他に何か聞きたいこととか……」
「私は満足です! リリスさんは?」
「えっ、私!? 私はえーと……」
「親子なんだから、遠慮しなくていいんですよ」
「そうですよ!」
「二人とも気が早い……」
リリスさんは考え込んでいます。いいんですよ、ゆっくり考えて。親子三代、仲良くしようではありませんか……
「あ、じゃあ、一ついいですか?」
「うん、何でもどーぞ」
「あの……ラスターくんはどうしてパンピープルさんのこと、“お父さん”って呼ばないんですか?」
家庭の事情に切り込んでいくゥー! これにはさすがのダードさんも面食らった表情です! そうですか、リリスさんは人見知りゆえに距離感の詰め方が……私がついていながら……
「あぁっ! ごめんなさい私ったらいきなりこんなこと……」
「あー、いいんです。それに、ラスターと、息子と真剣に向き合おうとしてくれていることが嬉しい」
懐の広い方でよかったです。ラスターさんは良いお父さんを持ちましたよ、ホント……
「……強いて言うなら、負い目、かな」
「あっ……」
そこまで聞いたら私もリリスさんもなんとなく察しは付きます。つまりラスターさんは、妹さんがみすみす魔王の手に落ちてしまったことに負い目を感じて……あれぇ?
「それでもお父さんはお父さんなのでは……?」
「チギリちゃん、それは……」
「ええ、ラスターとは血が繋がってないんだよ」
ビックリ仰天です! 私そんなこと初めて知りましたよ!
「リリスさんは知ってたんですか?」
「あ、うん、本当のお父さんのこと知らないってのは聞いてた」
「ひーん! そうとは知らずに地雷踏んでしまいました!」
「いや、いいから、いいから」
ダードさんも、この間の仮面の騎士さんもラスターさんの実の父ではなかった……ラスターさんのお父さんはどこにいるんでしょうねぇ……
「分かってたらすぐにでも会わせてやりたいんですがね。手がかりも何もなく今まで来てしまいまして」
ダードさんは苦笑いを浮かべました。私はそれでいいと思いますけどね、家族って血の繋がりがすべてじゃないですし!
「……ラスターはねぇ、銀の龍に抱かれてたんですよ」
急に何の話でしょうか? 確かにラスターさんはドラゴンちゃんと仲良しですけど。
「初めてラスターと出会った時の話ね。妻が体調を崩した時にね、泉まで清水をくみに行ったんだよ。そしたら彼がいた」
神秘的な出会いです。そしてラスターさんを引き取ったんですね。
「それでその時はそのまま帰ったんだよね」
「へ?」
「妻が風邪ひいてたからね。勝手に連れて帰るのもマズいと思ってさ……」
「ああ、そうですか……」
ドラゴンちゃんが抱っこしてたら、ドラゴンの子どもだと思いますよね。いや、思いませんけども。それでラスターさんは一度スルーされたわけです。
「ですが、帰ってから妻にそのことを話したら怒られてしまいましてね。『その子が心配じゃないのか!』……って」
「正義感の強い奥さんです!」
「まあね……翌日もう一度泉に行ったら──」
『その子を頼みます』
「ドラゴンちゃんがそう言ったんですか?」
「いや、そんな気がしただけだよ。それでラスターをうちで引き取って育てることにしたんだ」
そういうことだったんですね。つまりラスターさんはダードさんに引き取られるまではドラゴンちゃんに育てられていたと……ホントにドラゴンの子どもだったりして。
「そういえば胸の辺りに鱗が一枚生えてたっけ」
「なぬ!?」
ラスターさんマジで何者ですか!?
────────────
物心ついた時から、銀龍の鱗に守られて生きていた。ラスターにとってそれは普通のことだった。
『お前は俺と違う、人間だ。人と共に生きるべきだ』
不安がなかったわけではない。しかし、この心優しいドラゴンの言うことなら、とダードの腕の中へ飛び込んだ。
『助けが必要ならいつでもそばに行く。何も心配しなくていい』
そんな約束、忘れてしまいそうになるほど、パンピープル家での日々は平穏だった。それから妹が生まれ、母との死別も経験した。母を看取ったとき、妹は、サラは自分が守ると約束した。
「ラスター、サラ見なかったか!?」
父の顔は青ざめていた。ラスターは自分の無力さを改めて思い知らされ、泣き崩れてしまった。
「ごめんっ……! 俺、母さんと……約束……したのにっ……サラのこと、守れなかった……!」
泣き崩れるラスターの姿にただただ呆気に取られていた。逞しくなった息子の姿を見てすっかり忘れていたのだ、彼は勇者である前に一人の少年であると。
「ラスター……」
「育ててもらったのにっ……俺のこと、血の繋がりのない俺のこと……」
「やめなさい」
「兄貴なのに……勇者なのに……どっちも……どっちも……」
「もういいから……自分を責めるんじゃない」
己を無力だと嘆く息子の姿が痛ましくて仕方なかった。かける言葉も見つからずただ抱きしめた。
「……王都に行ってきます。昨日のことも報告しなきゃなんで」
「……そうか」
一晩あけたらラスターも少し落ち着いたように見えた。しかし険しい表情は相変わらずであった。
「……気を付けてな」
「……行ってきます、父さ……」
そこまで言いかけて口をつぐんだ。彼の無意味な責任感のために、ダードを“父さん”と呼ぶことができなくなってしまっていた。
「……ダードさん」
──ラスターさんは当時を振り返ってこう語る。
「よく考えたら、アレ追い打ちだったんじゃねぇか、って。だってそうだろ? 妻に先立たれて、娘もいなくなって、最後に残った養子は自分のこと“父さん”って呼んでくれなくなった……って。あの時は本当に冷静じゃなかったしよ。今になって見たら、申し訳ないことしたなって……」
──それではいかがなさいますか?
「……また父さんって呼ぶ、サラのこと取り戻せたら……何だよ。……分かったよ、今だな? 今からやればいいんだな?」
──いいものじゃないですか。辛い時に泣きつける人がいるというのは
「でもよ……いいのかな」
──ダードさんもそれを望んでますよ
「…………ありがとな」
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お父さんによる昔話が一段落したころ、タイミングよくラスターさんが帰ってきました。
「ラッさーん! 昔のラッさん話いっぱい聞かせてもらいましたよー!」
「ん? おお、そうか」
何かいつもより大人しい感じです。まだ恥ずかしがってるんですかね。
「リリスさ……ここって部屋余ってたよな?」
「あ、うん、お父さんもお母さんも帰ってこないから」
「あのさ、しばらく泊めてくれないかな? 俺と……それと、父さんのこと」
「!」
今確実に“父さん”って言いました! うっかり言っちゃったではなくて、確固たる意志を持って!
「ラ、ラスター……お前、今……」
「な、何だよ……今リリスと話して……」
「泊まっていいよ。はい、お話しおしまい」
「あっ、ちょっと、リリス……」
あらまあ、照れちゃって~今度は恥ずかしくても逃げちゃダメですよ~
「“父さん”……って言ったよな?」
「……イヤだった?」
「嫌なはずないだろ! 親子だぞ!」
「……つまんない意地張ってごめん」
これで親子仲、元通りですね。良かった、良かった。
「ところでリリスさん、私も泊まっていいですか?」
「あ、大丈夫だよー」
「お前は宿に帰れよ!?」
「何言ってるんですか!? ラッさんとリリスさんが一つ屋根の下……見逃せるはずないでしょうが!」
「あっはっは、楽しい娘じゃないか、ラスター」
「こいつは娘じゃねぇっての!」
「血の繋がりは関係ないだろう?」
「そうだけどっ……そういう問題じゃねぇから!」
私が娘と認めてもらうにはまだもう少し時間がかかりそうですが、それはまたそのうちにってことで!
続く!




