7. 銀の龍は天空に舞う
前回のあらすじ!
マウオ討伐のためにイスタリア村にやってきた私たち! ラスターさんの捨て身の作戦でとうとうマウオの討伐に成功しました! でもまだやることがあるんですって。何でしょうかね?
「じゃあ頼む」
「承知しました」
ボマードさんがマウオの死体にスッと手を当てて、意味が分からない呪文を唱え始めました。私がバカだからじゃないですよ! ホントに意味不明なんです!
「ラッさん、あれ何ですか?」
「供養だよ。……魔王の瘴気で凶暴化した魔物は元に戻れない。だからせめて、魂だけでも安らかに旅立ってほしいんだ」
はえー……そういうことなら私も手を合わせておきます。マウオさん、どうぞ安らかに。
そして呪文を唱え終わった(多分)ボマードさんが「破ァ!」と叫ぶと、マウオさんの死体は光の粒となって消えていきました。きっと天国の海でゆったり泳いでいますよ。おさかな天国です。
「……終わりました」
「よし……じゃあ帰るか」
ラスターさんとボマードさんは踵を返して湖を後にしようとします。ヴィヴィアンさんは無言でその背中を見つめていらっしゃいます。
「ヴィヴィアンさん、いいんですか?」
「え……? 何が?」
何が?じゃないですよ、とぼけちゃって。そんな可愛く首傾げたって駄目ですよ。
「いいですか? ラッさんはあんなですから、ヴィヴィアンさんの方から気持ちをぶつけるしかないのですよ!」
「いや、でも私……」
「何をためらっているのですか? ラッさんのこと好きなんでしょ?」
「そ、それは……その……」
ヴィヴィアンさんが口ごもっている内に、ラスターさんは立ち止まってヴィヴィアンさんの方を振り返りました。あ、これ別れの挨拶の構えですよ! ヴィヴィアンさん!
「あんたも。世話になったな、湖の精霊さん」
まー、ラスターさんったらキザなこと言っちゃって! やっぱり脈アリ……
「……やっぱり知ってたんですね」
「え?」
ちょっと、どういうことですか? あれ、おかしいですね、ヴィヴィアンさんの体がだんだん透明に……
「そう……勇者様の言う通りです……私はこの湖そのもの……あの時チギリちゃんが投げ入れたパンによって肉体を与えられて一時的に姿を現すことができた……短い間だったけど、楽しかったよ。ありがとう」
ヴィヴィアンさんはそのまま湖の中に溶けていってしまいました。こんなオチありですか!?
「待ってください! ヴィヴィアンさん! カムバーーーーーック!!」
「チギリさん、姿は見えずとも、ヴィヴィアンさんは確かにこの湖に生きています」
「綺麗事はいいんですよ! こうなったらもう一回釣り上げて……」
「やめろバカ! 帰るぞ!」
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「ぐすっ……えっぐ……こんなのひどいですよ……」
「残念だったな、あきらめろ」
帰路につく私たち。ラスターさん、何で得意げな顔してるんですか! その顔腹立ちます! くぅー!
「そんなことより次の指令が来ている」
「いつの間に来たんですか!?」
「さっきな」
封筒の封を切りながら言いました。だからいつ……!
「嫌な予感がするな……」
中から出てきたお手紙にざっと目を通したあとちょっと苦い顔をしました。何て書いてあるんでしょう?
「私にも見せて下さい!」
「ん、ほらよ」
「えへー、どれどれ……」
今回の手紙はきれいな字でした。
ラスターへ
リオーネ郊外の森で悪魔憑きの狼が暴れている! 結構な大群らしいぞ! でも安心してくれ、最強の援軍を呼んでおいた!感謝したまえ! リオーネ寺院で落ち合ってくれ! 頼むぞ!
……なんかフレンドリーですね。この前の手紙とは別の人が書いてるのでしょうか? それより悪魔憑きって?
【悪魔憑き】
①魔物を捕食することなどによって、体内に瘴気を取り込んでしまった動物のこと。
②精神疾患者の差別的な呼び方。
(『言淵』王立文部科学院編より)
「はえー。魔物とは違うんですね」
「ああ、だから殺さずに浄化するのも有効だ。……魔物と違ってな」
そう言いながら少し寂しそうな顔をしていました。……ラスターさん、許されるなら魔物も本当は殺したくないんですね。「私以外の人には優しい」から「私以外の生き物には優しい」に情報をアップデートしなくてはいけません。
「ぐすっ……苦労してるんですね……」
「何だよ気持ち悪いな……」
「そうと決まれば! さっそくリオーネに参りましょう!」
「いや、今日はもう遅い。出発は明日の朝だ」
「ズコー!」
そして翌朝
「じゃあ出発するぞ。忘れ物はないな?」
「ええ、抜かりなく」
「はいさー!」
そろそろ「お前カバンとか持ってたっけ?」という疑問が湧きはじめるころだと思います。しかしその点は全く問題ないのです! 私が身につけているローブのフード! これの内部が四次元空間につながっておりまして、青狸ロボさながらの大容量収納スペースとなっているのですよ!
「ふふん、すごいでしょ!」
「……何がだ?」
リオーネの町へは、イスタリア村から南西53㎞。乗り物を使って移動すると言っていましたが、やっぱり馬車か何かですかね?
「ラッさん、乗り物は?」
「ああ、今から呼ぶよ」
そう言いながらラスターさんは、剣を抜いて空に向かって高く掲げました。
何ですか……? 勇者の威光を利用したダイナミックヒッチハイクでしょうか?
「来い!ドラゴン!」
「ふぃ?」
ラスターさんが天に向かって叫ぶとともに空に現れた巨大な影! なんと銀色のドラゴンが逞しい翼を悠然とはためかせながら舞い降りてきました! 太い脚をゆっくり接地させると軽い地響きと砂埃が起こります。うひょー!
「すっごぉーい! おっきー!」
「よし、乗れ」
慣れた様子で剣を鞘に納めながらドラゴンちゃんの首に飛び乗るラスターさん。おお、勇者っぽい……
私も乗らせていただきます! すっごいワクワクします!
おお……表面は爬虫類っぽいと言いますか……結構ヌルッとしてます……これに乗って飛ぶとなると振り落とされないか心配ですね……
と、考えていると、目の前の鱗がパカッと開きました。大人一人入れそうなぐらいの穴が空いています。
「何ボサッとしてんだ? 早く入れよ」
「え、ああ、はい」
後ろを見るとボマードさんはすでに鱗の内側に陣取っています。コックピットみたいです。それじゃあ私も失礼して……
穴に入ると鱗がゆっくり閉じていきます。内側のスペースは少し柔らかくて温かくなっていました。鱗は中から見ると半透明に透けていて外の様子も見ることができます。おほ~
「よし、それじゃあ出発するぞ!」
「あいあいさー!」
【プラターアグワドラゴン】
爬虫綱有鱗目ドラゴン亜目ドラゴン科ドラゴン属。強靭な肉体を持つため、老衰以外で死ぬことはほとんどない。魔物に分類されるが、非常に大人しい性格のため瘴気の影響を受けない。その反面、争い事が起こると目まいを起こして気絶してしまう。鱗は開閉可能。子守のためのポケットのようなものと考えられている。時速約100㎞で空を飛ぶ。
(『いきもの図鑑』より)
ドラゴンちゃんに乗って飛ぶこと約30分。リオーネの街が見えてきました。……どこに着陸するんですかね?
「あー、こちらラスター。着陸許可お願いします」
「着陸支障ありません。リオーネ市役所屋上へお願いします」
管制塔?と通信しているようです。……どうやって話してるんですかね。
「着陸態勢に入りまーす……」
何ですかその口調!
そしてドラゴンちゃんは一気に高度を落として市街中心部の建物の屋上へ。快適なフライトでした。
「OK、ドラゴン、通信切っていいぞ」
ドラゴンちゃんでしたか……この子なんでもできますね……私たちが下りたことを確認すると飛び去っていってしまいました。
「ドラゴンちゃーん! また乗せて下さいねー!」
「よし、行くか。リオーネ寺院だったな」
「ええ、はい……」
ボマードさん、なんか元気ないですね。ドラゴン酔いでしょうか? それはそうと、助っ人にどんな人が来てくれるんですかね! キレイな女性だと嬉しいです!
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リオーネ寺院は、寺院の名を冠していますが、神様を祀る神殿としての役割が強いらしく、何人かの神官さんが掃除に来る以外はほとんど人の出入りがないゴーストテンプルだそうです。確かにこじんまりした石室の奥に石像とお供え物がポツリと置かれているだけです。とりあえずここの神様にご挨拶をさせていただきます。
「それではプニュスタージ神に祈りを……」
ボマードさんを先頭に神様に一礼し、目を閉じて祈りを捧げます。何を祈りましょう……ラスターさんに良いお嫁さんが見つかりますように?
「……くっだらねぇ……」
「ラスター殿、ご静粛に!」
ぷっぷー! 怒られてますよ! おっと、雑念が混じってしまいました。えっと、顔がよくて、私に優しくしてくれて、それから……おや?
ダダダダダダダ
背後から何やら軽快な足音が聞こえてきます。石室の外で誰かが走り回っているのでしょうか? しかしその足音は少しずつ近づき、ついに私のすぐ隣を駆け抜けていきます。
「ボマードぉ! 背中が曲がってるぅ!」
「おがはぁっ!!」
前を向くと、細長いしなやかな足が、ボマードさんの背中に飛び蹴りを食らわせていました。ボマードさんはそのまま前方に倒れ込み、お供えされていたパンはペシャンコになってしまいました。
そしてその人は、ボマードさんを蹴り飛ばした反動を利用して宙返りした後に着地。ウルトラCですね。
「おっ、ラスター、久しぶり!」
「……やっぱり助っ人ってお前のことか」
活発そうな女性が白い歯を見せながら振り向きます。ラスターさんは少し疲れたような表情を見せました。この人が例の助っ人さんですか!
「そっちのお嬢ちゃんとは初めましてだよね?」
「あっ、はい! 私、オシノチギリって言います!」
「ご挨拶できて偉いねー」
屈託なく笑いながら私の頭を撫でてくれました。良い人です!
「それじゃあ私も。私は聖拳総師範代にして黄道十二神官の一人、リオ=グレイゾ! よろしく!」
ヒエラティックアーツ? えくりぷすろーど? 聞きなれない単語ばかりです。そんな中、ボマードさんがヨロヨロと立ち上がってきました。
「姉上、いきなり何をするのですか……」
「神前でだらしない姿勢してたお前が悪い」
え? あねうえ?
「そして、そこで伸びてるデカブツの姉だ」
姉。お姉ちゃん。シスター。SISTER。……
「えぇーーーーーーーーっ!?」
「おいおい、そんなに驚くこと?」
「ボマードさん、何歳ですか!?」
「そっちね!」
ボマードの姉、リオ登場! どうなる第8話! 続く!