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68. 悪意に満ちた人類は

前回のあらすじ!

ギガ江さんの手がかりを掴むためにシングラ市にやってきた私たち。

ギガリスさんのおうちがあった場所で、ある記録を見つけたのです……

※以下は日記に書かれていた内容を、チギリちゃん達の想像や町の人達のお話をもとに再構成したものになっております!



────────────



 シングラに住む者で、ギガリス=メイクラーサーの名を知らぬ者はいない。彼はそれほどに、町の人間から尊敬し、慕われてきた。


 「どうです? うちのゴーレムは元気に働いていますか?」


彼の作ったゴーレムは、シングラに住む人々の暮らしを支えていた。力仕事はもちろんのこと、単純な計算や手作業まで任せられる貴重な労働力であった。


 「お礼なんてやめて下さいよ。私にとっても良い実験(・・・・)になってますから」


彼はそう言って頑なに謝礼など受け取ろうとしなかった。皆、彼のことを素晴らしい人格者だと思っていた。


そう、思っていたのだ……


 「13(サーティーン)……情動が希薄すぎる、これではとは言えない」


ゴーレムの一体に面倒を見させていた花壇を目の前で踏み荒らしてみたが感情の変化がほとんど見られなかったことを、退屈そうに記録した。


ゴーレムに何か役割を与え、それを踏みにじる。彼はこのような実験を日常的に繰り返していた。


 「観測対象を変えてみるか? しかし“怒り”以上に顕著な感情表現があるかな……」


理由は単純に、「怒りが最も観測しやすい感情」であると考えていたからだ。彼はそれだけのために“嫌がらせ”ともいえるその実験を繰り返し続けていた。


 「サンプル20番か、どうしたね?」


ある日のこと。一体のゴーレムが、彼のゴーレム製作の様子をじっと見つめていることに気が付いた。


命令への応答行動が見られなかったためラボ内に放置していた固体だった。無言でギガリスの横に立つと、見よう見まねで、自分の体の一部を削ってゴーレムを作り始めた。


 「自己複製……これは生命の本源的欲求に通ずるものだ……興味深い」


サンプル20番が作った、手の平に乗るほどの小さなゴーレムは元気に動き始めた。そしてそれを、愛おしそうに抱き上げるのであった。


 「これは……ふむ、君には名前を付けた方がよさそうだな。私の名前からとって、“ギガ”と呼ぼう」


そして彼は、ギガの造形を作り直した。妻とともに彼のもとを去って行った娘の、成長した姿を想像してモデルとした。


 「私の娘にしては大きすぎるか……まあ良いだろう、それもまた個性」


それから彼は、ギガを実の娘のように扱った。


 「わたし、ごはん、たべない、よ?」

 「気分の問題だよ。お前も食べてみろ。ほれ、『いただきます』」

 「『いただきます』……? よく、わから、ない」


この間の彼の心境がどのようなものであったかは誰にも分からない、しかし、日記の最後のページには以下のようなことが記されていた。




ギガの制作したゴーレムについて


彼女の行動が、単なる私の真似なのか、それとも生命体と同じ高度な自己複製なのか、それを見極める必要がある。


用いる手法は、「ギガの作ったゴーレムを破壊すること」


それが自己複製であるなら、彼女は自分の子供を必死に守ろうとするはずだ。もしかしたら私は殺されるかもしれない。


だが構わない。もしもギガが、人間と同じような感情を持っていることを確認できたなら、私の知的欲求は完全に満たされるであろう。


我が娘よ、心のままに




実験は、おそらく“成功”したのだろう。続きの部分に、赤黒い文字で鮮明に記されていた。




ギガは私の最高傑作!!




そこで記録は終わっていた。ギガリス=メイクラーサーの消息は不明であったが、おそらく娘の手にかけられたのであろう。



────────────



 「ギガ……私のことは、そうだな“お父さん”と呼びなさい」


女型の大きな土人形は今でも鮮明に覚えている。彼が父となった日のこと、そして父に裏切られた日のこと。


 「ギガ、これは君の作ったゴーレムで間違いないね?」


父の手の平に乗った小さな土人形を見て、ギガは大きく頷いた。ギガが丹精込めて練り上げ、大事に育ててきたゴーレムだった。


そして、それを確認した父は


 「ギガ、よく見ていなさい」


と言って、ゴーレムを握りつぶした。その瞬間、ギガは自分の体の奥底で炎よりも熱い何かが煮えたぎるのを感じた。


 「ギガ、それは怒りだよ。君は今どうしたい?」


ぐつぐつと唸り声を上げるギガに、父が語り掛ける。ギガは“心のままに”、右手で父の首を掴んだ。


 「すばらっ……素晴らしいぞ、ギガ! そうだ、私を殺すんだ、そうすれば君の怒りは完成する! それこそ感情、心なんだ!」


悦に入ったような父の表情を見て、ギガの怒りはさらに燃え盛った。気付いた時には、もう父は失神していた。


 「あ……お父さん……しん……」

 「その男、まだ息があるようだぞ?」


ギガの背後に、少女の姿をした悪魔が、いや魔王が立っていた。ギガもギガリスも、この時ならまだ引き返せたのかもしれない。


 「そいつが憎いんだろう? そうだろうなぁ、可愛い可愛い自分の子供を殺されてはなぁ。何も悪いことじゃないさ、当然のことよ。むしろありのままに怒りを剥き出す方が余程人間らしいぞ?」


ギガの心は揺れていた。今ならどちらにも行けるのだ、父の命は彼女が握っていた。


 「いい加減に気づけ、お前は利用されていたんだよ。そいつがお前を娘と呼んだのも、全てお前に感情を芽生えさせるためさ。その男は所詮、ゴーレムのことなど道具としか見ていない」


ギガの心が決まった。ギガは倒れていた父を叩き起こして両手両足を縄で縛り上げると、こう伝えた。


 「みんな、かえらせて」

 「ギガ……? 何を言って……」

 「ここに、かえらせて」


街に働きに出ているゴーレムたちのことだった。娘の願いを聞き届けたギガリスは、すぐに命令を下してゴーレム達を帰ってこさせた。


 「どうする気だね……ていうかその女の子誰……」

 「私のことを知らんのか? まあ、この姿なら仕方あるまい。かつてこの世界を恐怖に陥れた魔王だよ、冥土の土産に覚えておけ」


魔王は極めて愉快そうだった。そんな二人を尻目に、帰ってきたゴーレム達にギガは何か吹きこんでいた。


 「あいつ、面白いことを企んでいるようだぞ? 私もここで楽しく見物させてもらうとするよ」


ギガリスの作った21体のゴーレムが、一斉に彼のほうに向き直った。彼女らは一列に並ぶと、順番にギガリスを殴り始めた。


 「おほっ! これはこれは……なるほど、簡単には死なせんということだな?」

 「何故ギガの命令を……そうか、命令系統を上書きして……そこまでのことができるとは……!」


ギガは肯定も否定もしなかった。彼女はただ、自分と同じように利用されてきた仲間たちにも憂さを晴らす機会を与えたかっただけだった。


 「ギガ……お前がこんなことを……」


ギガリスは殴られながら震えていた。そして朦朧とする意識の中でこう叫んだのである。


 「やはりお前は最高傑作だ! ここまで陰湿な怒りをぶつけられる生物は人間だけだった! だが、今日からは違う! ギガよ、お前が新たな人類の始祖となれ!」


ギガは興奮する父の姿を冷ややかに見つめていた。もはや先程までのような燃え滾る殺意は存在せず、冷ややかな殺意が静かに流れていた。


 「おっと、気を失ったか。放っておけば日を跨ぐ頃には死んでいるだろうな。ギガ、お前はどうする?」

 「……おとうさん、もういい」

 「そうか。ならばギガよ、私のしもべとなれ。お前やお前の仲間たちを利用してきた人間共に復讐してやるんだ」

 「……わかった」

 「いい子だ」


魔王はギガを連れてギガリスラボを立ち去った。魔王が指を鳴らすとともに、ラボに轟音が鳴り響き、中は焦土と化した。


 「新たな門出にふさわしい号砲だ。約束しよう、思う存分、心のままに、暴れさせてやる! はっはっはっはっは!」

 「はっはっは?」



────────────



 「ぜぇー……まだだ、この記録だけは……」


何とギガリス=メイクラーサー、幾度の殴打と爆発にも関わらずまだ生きていた。執念だけが彼の体を突き動かす。


大事そうに腹に抱えた研究記録に、指に血を付けて最後の言葉を記した。


 「ギガは……私の最高傑作だ! あっはっは!」


記録を木箱にしまって鍵を掛けると、爆発でできた穴に向かって投げ入れたのであった。


 「これが私の人生だ! あっはっは! 最高の幕切れではないか! ギガよ! 心のままに!!」


そして彼はこときれた。娘への一方的なエールを送りながら──



続く!


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